表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

849/1000

51話 検証

ギリギリになってしまったけど、更新です。

飯テロ回ですね。

「なんだか、腹が減った」というセリフが聞こえてきたら幸いです←ヲイ

 食材が宙を舞っていた。


 熱したフライパンで炒められた食材が、まるで波のように動きながら宙を舞っていく。


 宙を舞う食材を見やりながら、タマモは懸命にフライパンを振るいながら、できあがった一品──レッドボアの肉と新鮮な野菜を使ったチャーハンを作り上げた。


「チャーハン、できあがりです!」


 作り上げたチャーハンを、タマモは用意されていた大皿に盛り付けながら、「鑑定」を使った。



 レッドボアチャーハン


 レア度 12


 品質B-


 レッドボアの肉と新鮮な野菜群を使って炒められた特製チャーハン。レッドボアの肉から生じる肉汁をたっぷりと吸い込んだ野菜とご飯から織りなすコントラストはまさに食の芸術である。食後3時間STRとVITを一時的に上昇する。


「鑑定」の結果は、二重のバフが付いた一品であった。


 その一品をタマモは大皿に盛り付けると、すぐさま次の調理に取りかかった。


 すでにわかるとおり、現在タマモは調理を行っていた。


 なぜ調理を行っているのかというと、タマモが発した「七星の狐のレベルアップ時のステータス割り振りポイントが7点」という言葉が事実であるのかの確認のためである。


 タマモは自身のEKのおかげで、戦闘ではろくに経験値を稼げない。


 経験値を稼ぐためには、調理を行わなければならないという風変わりな縛りはいまだ健在である。


 ゆえに、タマモはこうして調理を行い、実際にレベルアップのための経験値稼ぎを行っているのだ。


 ただ、いくら慣れたとはいえ、タマモひとりで調理を行っているわけではない。


 現在、タマモは借り受けた屋台で、協力者たちと調理を行っているのだ。


 だが、協力者だけでは調理はできない。


 調理を行うには食材が必要不可欠であるが、そちらも問題はない。


 というのも、タマモが調理するための食材はすべて現在のサーバーにいるプレイヤーたちが提供して貰っているのだ。


 タマモたちがいる第36サーバーにいる面々は、みなタマモたち「フィオーレ」の関係者ないし、その関係者の友人ないし知人だけで構成されている。


 おかげで、検証のための協力として、個々が持つ食材を有償で提供してくれているのだ。


 有償といっても、本来の価格よりもはるかに格安での提供だが、提供してくれるプレイヤーたちはみな気にしてはいない。


 かえって提供して貰う側のタマモが恐縮するほどである。


 そうして提供者より運んでこられた食材をタマモは次々からに片っ端から調理していた。


 今回運び込まれたのは、にゃん公望が最初に釣り上げ、秘蔵としていた魚ことブロッサムサーモンであった。


 提供者はにゃん公望ではないものの、にゃん公望同様に漁師のプレイヤーであった。


「ありがとうございます」と提供者にお礼を言いながら、タマモはブロッサムサーモンをまな板の上に置くと、丁寧に三枚下ろしを行った。


 テンゼンに三枚下ろしを習ってから、現実でも時折早苗たちに頼んで三枚下ろしの練習をさせて貰っていたのだ。


 さすがに早苗たち「メイド隊」のように素早くかつ美しい三枚下ろしはできないものの、他人に見せられる程度のレベルではできるようになった。


 そのおかげか、タマモによるブロッサムサーモンの三枚下ろしは、まるでマグロの解体ショーのような熱量でもってオーディエンスたちの視線を集めるに至っていた。


 全方向からの視線を浴びながらも、タマモはブロッサムサーモンの三枚下ろしに集中していく。


 ほどなくして、立派なサイズのブロッサムサーモンはきれいに三枚におろされていた。


 そのうちのひとつである上身をタマモは手に取り、薄くスライスしていく。


 スライスするたびに、身から滴り落ちる油は桜色に輝き、非常に美しかった。


 その美しさに「きれい」と感嘆の声が聞こえる中、タマモはスライスした身を、どんぶりご飯の上に時計回りのようにして盛っていく。


「おぉ」


 盛られていく刺身を目にして、再び感嘆の声が上がる。


「ヒナギクさん、鍋に火を掛けておいてください」


「了解。コブブも一緒に火に掛けておくよ」


「お願いします。ステラさん、中骨の処理をお願いしますね」


「了解。ついでにつみれも作っておくね」


「ありがとうございます」


 協力者として慌ただしく動いてくれているヒナギクとステラに指示を飛ばしながら、ブロッサムサーモンの刺身をきれいにもりつけていくタマモ。


「タマモさん、グリーンペレラ、刻み終わったわ」


「助かります、エリシアさん」


「気にしないで。あと、本ホーラもちゃんとすりおろしておいたからね」


「ありがとうございます」


 刺身を盛り終えたところで、やはり協力者であるエリシアから刻み終えたグリーンペレラこと大葉と、すりおろされた本ホーラを受け取るタマモ。


 今回の検証で協力者として腕を振るってくれているのは、ヒナギクとステラ、そしてエリシアの3名である。


 ヒナギクとエリシアは言わずもがなだが、ステラもまた高レベルの「調理」スキルの持ち主でああったのと、4人以上での調理は提供されている調理場では厳しかったこともあり、今回は4人でチームを組んでの調理を行っているのだ。


 ちなみに提供された調理場は、おやっさんの屋台である。


 当のおやっさんは今日は調理を行う予定はないため、快く屋台を化してくれており、その両脇を娘のマリーと元妻の女将さんが占めていた。


 そうしておやっさんを含めた残りのプレイヤーたちに見守れる中、タマモ刻んでもらっていたグリーンペレラとすりおろした本ホーラを縁の方に盛り、最後に中央の空いたスペースに生卵を落とした。


「ブロッサムサーモンのサーモン丼です」


 完成したサーモン丼をカウンターに置くと、タマモは残った下身を取り、今度は厚めにスライスしていく。


「タマちゃん、ちょうど沸いたよ」


「こっちもつみれは作り終わったからね」


「ありがとうございます。じゃあ、中骨をこちらに。その間にこっちの下身はおふたりにお任せますね」


「了解っと。じゃあ、交換だね」


 ステラが身を取り出した中骨とタマモが厚めにスライスした下身を交換し、タマモはヒナギクが用意してくれたコブブこと昆布の出汁を取られた鍋の元へと向かう。


 身のなくなった中骨を、その場でぶつ切りに切り終えると、次々に鍋の中へと投入していく。今回タマモが作るのはあらや骨を使ったつみれ汁である。


 そこに最近になってようやくできあがった豆味噌が投入され、辺りを芳しい香りが漂っていった。


「ステラさん、油が適温になりましたよ」


「はいよ。それじゃ任せるね、ヒナギクさん」


 タマモが厚めにスライスしていた下身を、ステラは卵液とパン粉を塗して衣を付けていく。


 そうして衣を付けられた下身を、今度はヒナギクが熱した油の中へと投入する。


 バチバチと小気味いい音を立てながら、衣を纏ったブロッサムサーモンが油の海の中を泳いでいった。


 ふたりが作っているのはブロッサムサーモンのフライである。だが、ただのフライにするつもりはふたりはないようだった。


「ステラさん、そろそろじゃないですか?」


「そうだね。ちゃんと焼き上がってくれるかは心配だけど、まぁ、大丈夫っしょ」


 ステラは持ち場を離れ、設置してあるオーブンへと向かう。すでにオーブンは稼働しており、中ではきつね色にこんがりと焼けたいくつものパンが見えていた。


「うん、ちょうどいい頃合いだね」


 にっこりと笑いながら、ステラはオーブンを止め、焼き上がったパンを取り出すと、まだ熱々のそれを上下半分に切っていく。


「ステラちゃん、これ、いるでしょう?」


 パンを上下に切っているステラへとエリシアがタルタルソースを差し出した。


「あぁ、ありがとう、エリシアさん! これで完璧だね」


 エリシアが差し出してくれたタルタルソースを受け取り、にやりと笑うステラ。


 そう、ステラとヒナギクが作っているのは、ブロッサムサーモンのフライを挟んだフィッシュバーガーである。そこにエリシア特製のタルタルソースが加えられることとなった。


 なお、タルタルソースは、最近になって作り出されたエシャシャことらっきょうとマヨネーズを合えられたものだ。


 エリシア曰く、「らっきょうのタルタルもいい具合なのよねぇ」ということらしい。


 その味を知るアントニオは「あれ、白飯と最高に合うんだよなぁ」としみじみと頷いていた。


 そんなファインプレイを行っていたエリシアだが、その手をついに止める。エリシアの周囲には細長く刻んだ野菜とレッドボアの肉が積まれていた。


「これで野菜もお肉もいい感じね。タマモさん、そっちは私が残りを担当するから、タマモさんはこっちを」


「あ、はい。お願いします、エリシアさん」


「ええ、任せてちょうだい」


 ヒナギクがフライを揚げ、ステラがパンズを量産する中、今度はエリシアとタマモが持ち場を交換していた。


 エリシアはいままで食材の下ごしらえとして、加工を担当していたが、その加工もようやく終わり、タマモの代わりにつみれ汁を担当することにして、タマモに次の料理の調理を頼んだ。


 タマモはすぐさまつみれ汁をエリシアに任せると、エリシアが刻んでくれた野菜と肉を持ち、自身のEKである「白金のおたま」と「白金のフライパン」を手に取った。


 チャーハンを作ったことで熱せられているフライパンに新しく油を引き、そこに次から次に野菜と肉、そして各種調味料を放り込んでいく。


 放り込んだ野菜と肉に調味料をタマモはおたまを片手に炒め始めた。


 吹き上がる炎ととも宙を舞う食材たち。その様子は格好のパフォーマンスとなり、オーディエンスたちの歓声を呼び込んでいく。


 その間に、つみれ汁とフィッシュバーガーと付け合わせのポテテ、そしてタマモが炒めていた青椒肉絲ができあがった。


「つみれ汁とフィッシュバーガーセット、そして青椒肉絲です!」


 どんどんとカウンターのうえにできあがった品々を並べていくタマモ。


 それぞれに出来上がった品は、先に仕上げた「レッドボアチャーハン」と同じレア度となっていた。


 バフ効果はサーモン丼がDEX、つみれ汁がAGI、フィッシュバーガーセットはINTとMEN、そして青椒肉絲はレッドボアチャーハンと同じSTRとVITの二重バフとなった。効果はすべて食後3時間であった。


 そうして作られた品々は次々にオーディエンスたちの胃袋へと吸い込まれていく。


 誰もが「うまい!」と叫びながら、笑顔になっていく中、タマモたち調理班は次々に新しい一品を量産していった。


 そうして量産を続けること、2時間ほどして、ついにそのときが訪れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ