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10話 お花見当日

だいぶ短めです

「うわぁ~、すごい人だねぇ」


 九尾との再会から数週間。


 月日は少し経ち、五分咲きだった桜が満開になった頃、「EKO」内のミニイベントである「お花見祭り」が開催される当日となった。


 事前告知にあった通り、全プレイヤーは複数のサーバーに割り振られて、同じ会場で花見を行うことになった。


 各サーバーに割り振られたプレイヤーだが、ランダムに割り振られたわけではない。


 たとえば、同じクランのメンバーは基本的に同じサーバーに割り振られたり、ソロプレイヤーの場合は各々のフレンドと同じサーバーに割り振られたりするなど、いわゆるボッチ飯にならないように割り振られていた。


 加えて、敵対する者同士が同じサーバーにならないように割り振られている。わかりやすく言えば、PKとPKKが同じサーバーにはならないようにされている。


 お花見は日本における代表的な春の風物詩だ。花見中は無礼講であり、基本的には穏やかな空気の中で飲み食いを行う。血なまぐささなどとは無縁のもの。


 ゆえに敵対者同士が同じサーバーという隔離空間に割り振られないように、運営側が意図的に割り振られていた。


 逆に言えば、同じクランのメンバーないしフレンドは優先的に同じサーバーに割りふられるということでもある。


 それはタマモたち「フィオーレ」が割りふられた第36サーバーも同じであった。


 第36サーバーに割りふられたプレイヤーは、ほぼ全員がタマモの友人ないし知人だけで構成されていた。


「おー、狐ちゃんにゃー」


 タマモたちが第36サーバーである会場へと入ると、すでに会場内では、複数の屋台と料理店が立ち並んでいた。


 その屋台のひとつには、「もつ煮込み屋」の屋台も当然のようにあり、その屋台からタマモを呼ぶ声が聞こえてきた。


 声の主は猫の半獣人プレイヤーであるにゃん公望だ。


 にゃん公望の近くには、「もつ煮込み屋」の主人であるおやっさんもいた。正確に言えば、「もつ煮込み屋」の屋台ににゃん公望がいるというべきだろう。


 にゃん公望がなぜ「もつ煮込み屋」にいるのかは、その格好を見ればすぐにわかった。


 にゃん公望はいつもの「お魚大好き」という刺繍入りの漢服の上から割烹着を身につけていた。


「こんにちは、にゃん公望さん、おやっさんも」


「おうにゃー。今日も狐ちゃんはかわいらしいにゃねぇ~」


 にゃははは、と笑うにゃん公望だが、そんなにゃん公望の頭におやっさんの持つおたまがまっすぐに振り下ろされる。


 カーンという甲高い音とともににゃん公望が自身の頭を押さえながらしゃがみ込んだ。


「仕込み中に無駄話すんじゃねえ!」


 おやっさんはふんと鼻息を立てながら告げた。その言葉ににゃん公望は涙目になりながら叫んだ。


「にゃにしやがる、ソウルブラザー!? いきなりおたまで殴るんじゃにゃねえにゃー!」


「あん? いま言っただろうが、仕込み中に無駄話なんざすんじゃねえよ」


「無駄話じゃなくて、客引きしてやったんにゃろうが!?」


「いま客引きしてどうすんだ、バカ猫が!」


「開店したら客引きする余裕にゃくなるだろうが!?」


「そこをどうにかするのが、おまえさんの役目だろう!?」


「にゃに、無茶なことを言いやがる! おまえさんの手伝いしながら、客引きなんてどうやればいいにゃよ!?」


「知るか!」


「こんのっ!」


「やるってか!?」


「おぉー、やってやろうにゃないか!」


 言い合いから取っ組み合いを始めるにゃん公望とおやっさん。額をぶつけ合いながら、罵り合いが始まったが、それはすぐに終わりを告げた。


「……はぁ、師匠もおやっさんもいい加減にして欲しいっすんけど、まだ仕込み終わっていないんすけど?」


 にゃん公望の弟子である七海が、にゃん公望と同じ割烹着を身につけて、呆れ顔でふたりを止めたのである。


「止めるにゃ、七海! 今日こそはこのむっつり親父に痛い目を見せてやるにゃよ!」


「それはこっちのセリフだ、エロ猫が! その生皮剥ぎ取って三味線にしてやる!」


「やれるものにゃら、やってみろにゃー!」


「おー、言ったな? 言ったな、この野郎!」


 が、すでにヒートアップしているふたりには、七海の制止も効かず、ふたりはいまにも殴り合いに突入しそうなほどに険悪な雰囲気となっていた。


「だーかーらー! みっともないからやめろって言ってんすよ!? あんたらバカなんすか!? タマモさんたちに呆れられているって言っているんすよ!?」


 そんなふたりに向かって、七海が目を血走らせながら叫んだ。その叫びにさしものふたりもぴたりと動きを止め、恐る恐るとタマモを見やる。タマモは「あ、あははは」と苦笑いしかできなかった。


 タマモの様子を見て、ふたりはお互いを見やると、揃ってその場で土下座をした。


「「すんませんした!」」


「あ、いえ、別に気にしていないので」


 あまりに息が合った土下座っぷりに、タマモは若干引いた。


 若干引きつつも、ふたりを五尾によって立たせた。


「えー、土下座されると目立つのでやめてくださいね?」


「うっす」


「すんません」


 にゃん公望とおやっさんは申し訳なく頭を下げるも、タマモは苦笑いしかできなかった。


 その様子に「やりすぎっちゃったにゃー」や「やりすぎちまったな」とふたりがそれぞれに肩を落とした。


「あんたら、いままで喧嘩していたよな?」と誰もが思うほどに息が合ったやり取りであった。


「それよりも、今日はおふたり一緒に屋台しているんですね? 七海さんも加えて」


「さすがのソウルブラザーでも辛いかにゃ~と思ってにゃ~」


「猫の手も借りたいほどに忙しくなるかなぁと思ってな」


「なるほど」


 肩を組み合うふたり。その様子は「本当に仲がいいよな、このふたり」と誰もが思うほどに息の合ったものであった。

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