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7話 再びの進化

 ボウル一杯の肉だった。


 肉とともにボウルの中にあるのは醤油。刻まれたニンニクとすりおろしたショウガが加えられた醤油で肉が漬け込まれていた。


 その醤油をより漬け込むために、タマモは肉を揉み込んでいた。


 野生種のニンニクとショウガ集めは、あっさりと終わった。


 探している最中に、シュトローム配下のスライムたちが手伝ってくれたのである。


 報酬としてシーフファルコンの肉で作った唐揚げを提供することになったが、もとより試作品であるため、試食する人数は数が多い方がよかったので、タマモとしては問題のないことであった。


 その唐揚げ作りもいまは中盤の終わりほどだ。


 本来なら漬け込みの際に、時間をおいた方がいいのだが、今回は揉み込んですぐに揚げることにした。


 シーフファルコンの肉は、唐揚げ向きという鑑定結果は出たが鶏肉ではないため、そもそもどれほど漬け込めばいいのかがわからないのだ。


 もしかしたら、あまり漬け込まない方が美味しいということもある。もしくは通常の鶏肉よりも漬け込まないといけないと言うこともありえる。


 どちらにせよ、シーフファルコンの肉の調理は今回が初めてなのだ。


 掲示板を覗いた限り、シーフファルコンの調理をしたことがあるプレイヤーはいないようだ。


 シーフファルコンは狩猟が難しいモンスターの一角だが、難しい理由はその逃げ足の速さに加えて、飛行モンスターであること。


「盗人隼」とあるように漁師の天敵であり、釣り上げた魚をどこからともなく飛んできて奪い取って逃げ去ってしまうのだ。


 追い掛けようにも、空を飛ぶ手段がなければ地上で追い掛けるしかない。


 だが、地上から上空へと逃げるモンスターを追い詰めることなど普通はできない。


 そのため、シーフファルコンの狩猟はいまのいままで誰も達成していなかったことだった。


 加えて、モンスター板で教えてもらったことなのだが、どうやらシーフファルコンは通常時ではポップすることがなく、「釣り」で魚を釣り上げた際のみ、高確率でポップするようだった。


 その高確率のポップも、釣り上げた場所によって変わってくるようだ。


 以前チャーホ釣りをしたときは、現れなかったが、今回はチャーホを空中に踊らせたら、100パーセント出現した。


 前回と今回とではなにかしらの条件が違うのだろうが、今回入れ食い状態で10羽ものシーフファルコンを撃墜することができたという事実は変わらない。


 そしていままで誰も狩猟したことがなかったモンスターであるため、その肉の調理も誰もわからない。


 手探り状態で調理するほかなかったのだ。


 その調理も肉を一口大に切り分けて、用意していたボウルに醤油と臭い消しのためにすりおろしのショウガと刻みニンニク、さらにスライムたちが見つけてくれた香草をブレンドした特製ダレに揉み込むことでほぼ終わったようなものだ。


 先述したとおり、このまま時間をおいて漬け込んだ方が本来はいいのだが、調理経験のある者がいない肉であるため、目安がわからない。


 最良がわからない以上は、つけ込み時間が極短時間であっても、大きな問題はない。……まぁ、美味しく食べられないという可能性は高いが、まずくなるということはないだろう。


 言うなれば、すりおろしショウガさんと刻みニンニクさん、そして香草さんのお力次第だとタマモが思っていた、そのとき。


「……旦那様、もう大丈夫ですよ」


 アンリが不意にアドバイスを授けてくれたのだ。


「え? もう大丈夫って、漬け込みのことですか?」


「ええ。シーフファルコンは、お肉自体に旨味があります。その分野性味もありますが、気にならない程度です。お醤油にニンニクとショウガ、それに香草のタレで漬け込めば、その野性味も消えますので」


 アンリのアドバイスにタマモは目を剥きながら尋ねると、アンリはあっさりと頷いてくれた。そしてアドバイスするのはアンリだけではなかった。


「アンリ様の言う通りです、眷属様。加えて言うと、柔らかいお肉やさかい、揚げる時間はそこまで長うのうても問題あらへんどす」


 なんとフブキまでもがシーフファルコンの調理についてを教えてくれたのだ。


「もしかして、妖狐族って、シーフファルコンの肉をよく食べていますか?」


「はい。妖狐族以外の方々にとっては、貴重なお肉みたいですけど、妖狐族にとっては、ちょっと珍しいお肉って程度ですから」


「要は、ちょい奮発した、そこそこのええお肉ってところどす」


 アンリとフブキがそれぞれに、妖狐族にとってのシーフファルコンがどういう存在であるのかを説明してくれる。


 ふたりの説明を聞く限り、妖狐族にとってのシーフファルコンとは、最高級ではないものの、普段食べるものよりも、少しグレードの高い肉。つまり外国産の肉から国産の肉になったというくらいのものなのだろう。


 となれば、だ。調理方法やその際の注意事項も熟知しているということだ。


 なにせ、兄とふたり暮らしであるアンリや、老いた祖母と暮らしていたフブキでさえも知っているのだから、妖狐族にとってのシーフファルコンはそこまで高価なものではないということだった。


「いろいろと教えてもらってもいいですか、ふたりとも」


「ええ、もちろんです」


「お任せください」


 アンリは静かに頷き、フブキは自身の胸を叩きながら頷いた。


 そこからタマモはふたりにシーフファルコンの調理について教わった。


 曰く、シーフファルコンの肉は、鳥系の肉としては珍しく、生でも食べられる。


 曰く、シーフファルコンの肉を唐揚げにするのであれば、ミディアムレアくらいの火の通りで十分。


 曰く、シーフファルコンの肉は、野性味があるものの、そこまで強くないため、味付け以外で調味料をそこまで強くしなくてもいい。


 他にもシーフファルコンの調理自体についてのあれこれをタマモは教わりながら、唐揚げの調理を手伝ってもらった。


「シーフファルコンの唐揚げであれば、二度揚げが基本どす」


 フブキはその小さな体には不釣り合いの手際の良さで唐揚げの調理を行っていく。


 タマモはフブキの調理を見やりながら、自分でも唐揚げを調理していた。


 タマモの様子をアンリはじっと見詰めていたが、タマモは調理に集中しており、その視線には気付かなかった。


 ほどなくして、フブキは唐揚げを掬いあげ、しばらく置いた。


 タマモも同じように唐揚げを掬いあげて、しばし放置する。


 その後、フブキは放置した唐揚げを自身用のおたまでほんのわずかに叩いてから、再び油の中に投入した。タマモも倣って唐揚げを投入する。


 それから少ししてフブキが唐揚げを再び掬い上げる。やはりタマモもそれに倣っていく。


「これで完成どす」


 フブキは「ふぅ」と額の汗を拭いながら、唐揚げを大皿の上に盛り付けた。タマモも同じように盛り付けて「シーフファルコンの唐揚げ」は完成したのだった。


 タマモは自身の作った唐揚げではなく、フブキの唐揚げをスライムたちに提供した。見よう見まねで作ったタマモよりかは、作り慣れているであろうフブキのものの方が提供するのには相応しいと思ったのだ。


 その分、タマモたちが食べるのは、タマモ手製のものになってしまったが、フブキもアンリも「問題ない」ということだった。


 そうしてスライムたちとともにタマモはシーフファルコンの唐揚げを試食した、そのとき。


 タマモのおたまとフライパンが急に輝いたのだ。その輝きには憶えがあった。


「これは、まさか」


 タマモが輝きに目を眩ませながら、その言葉を口にしようとしたとき。



「おめでとうございます。条件を満たしたことにより、「銀のおたま」と「銀のフライパン」が進化します」



 ポップアップとともに、タマモのEKが進化を始めたのだった。


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