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6話 視線とため息

 ぽちゃんという音を立てて、浮きが水中に沈む。

 沈んだ浮きは、ゆっくりと水面へと向かっていき、ほどなくして水面の上に漂っていく。


 流れによって、浮きが揺れ動く。揺れ動く浮きをタマモはぼんやりと眺めながら、それなりの大木に背を預けていた。


 手にはにゃん公望たちとの釣りで使った釣り竿が握られている。少し前までは立ったまま釣りを行っていたが、いまは近くにあった大木の幹に背を預けている。


 その際、浮きを一度回収し、大木に背を預けてから再びキャスティングを行ったのが、ちょうどいまだった。


 狙いは以前散々釣ったチャーホだが、いまのところ当たりはまだない。


 ただ、さっきから浮きが流れによってではない

動きを見せている。


 おそらくは、水面下でチャーホたちが餌である虫に触れているのだろう。

 

 パンフィッシュ釣りのときは、ここだと思って竿を上げてもまだ食いつく前だったようで、大抵逃がしていた。


 パンフィッシュよりもレア度が高いチャーホであっても、食いつく瞬間は同じだろう。


 以前釣ったチャーホのことを思い出しながら、タマモは竿先に神経を集中させていた。ほどなくして、竿がしなった。タマモは一呼吸置いてからしなる竿を振り上げる。その際、両腕に五尾を巻き付かせた。


 五尾が巻き付いたことにより、一気に釣り上げることができた。


 空中できらきらとチャーホの体が輝き──。


「クェー!」


 ──けたたましい鳴き声が頭上から聞こえてきたと思ったときに、猛禽類のモンスターが、ステップホークとは別種の猛禽類のモンスターがチャーホをその鋭い爪先で掴んだのだ。


 このままチャーホを横取りしようというところなのだろうが、相手が悪すぎだった。


「勝手に持っていちゃ──ダメですよ」


「ク、グェェェーっ!?」


 タマモは竿を強く引っ張った。五尾の力を用いてやや強めにだ。


 その結果猛禽類のモンスターは、空中での姿勢制御ができなくなったようで、地上へと引きずり込まれ、そのまま地面へと叩きつけられたのだ。


 引きずり込まれたというよりかは、完全に墜落、いや、撃墜されてしまった猛禽類のモンスターは断末魔の悲鳴を上げながら、ドロップアイテムを残して消滅する。


 その傍らにはぴちぴちと飛び跳ねるチャーホがいた。


 タマモはチャーホを回収し、魚籠に治めつつドロップアイテムの確認のために「鑑定」を行った


 盗人隼の肉


 レア度3


 釣り師にとっての天敵とも言えるシーフファルコンの肉。釣り上げた魚をかっ攫って逃げていくうため、なかなか手に入らない貴重な肉。淡泊だが、ジューシー。唐揚げにするとよし。


 盗人隼の羽

 

 レア度3


 釣り師にとっての天敵とも言えるシーフファルコンの灰色の羽。肉同様になかなか手にはいらない貴重な羽。一部の部族では飾りとして用いられる。


「盗人ですか。まぁ、的を射ていますね」


「鑑定」結果を見て、納得するタマモ。おそらくはにゃん公望と七海に聞けば、どういうモンスターであるかを事細かに説明してくれることであろう。


 なにせ、釣り師にとっての天敵と書かれてるのだから、釣り師たちがどれほどの憎悪をシーフファルコンに向けているかは容易に窺えた。


「……唐揚げか」


 そのシーフファルコンの肉だが、見た目は鶏肉とさほど大きな違いは見えない。


 が、鶏肉よりも明らかに大きくて分厚い。食い応えがありそうな肉だった。反面、野性味がありそうでもあるが、ジビエなんて大抵がそんなものである。


「肉の臭みを消すとなると、ニンニクやショウガあたりが欲しいですね。後は香草とかもいいかも」


「鑑定」結果にある通り、唐揚げに向いた肉であるようなので、ニンニクとショウガ、あとは念押しの香草を入れてつけ込めば、臭いは消せる。


 念のためにヒナギクにも相談しつつ、試作を作ってみるべきだった。場合によっては期間限定メニューに組み込むのもありだろう。


「となると……ふむ」


 タマモは餌となる虫を釣り針に掛けて、再びキャスティングを行う。


 今度は最初から五尾を両腕に巻き付けている。するといままでとは違い、すぐに食いついた。先ほどと同じように一呼吸置いて、一気に竿を振り上げる。


 チャーホの魚体が輝くとどこからもともなく、けたたましい鳴き声が聞こえ、釣り上げたチャーホを横取りしようとシーフファルコンがその脚で魚体を掴み──。


「──はい、いらっしゃー、い!」


「ク、グェェェー!?」


 ──あっという間に地上へと墜落させられていく。断末魔の悲鳴と共に激突し、再び肉と羽を残して消滅するシーフファルコン。


「ふむ。この方法なら入れ食いですね」


 シーフファルコンのドロップアイテムとチャーホを回収しながら、ほくそ笑みながら、再度餌を新しく付けてキャスティングを行うタマモ。


 その後、タマモはシーフファルコンを10羽、チャーホを8尾追加で釣り上げることに成功した。


 なお、シーフファルコンの数が多いのは、追加の8尾目、累計10尾目のチャーホを釣り上げた際に、たまたまシーフファルコンが複数強襲してきたので、纏めて叩き落としたのだ。


「いや~、大漁大漁」


 海老で鯛を釣るならぬ、魚で鳥を墜落させ、魚肉だけではなく、唐揚げ向きの鳥肉を手に入れることができたタマモはほくほく顔になっていた。


「……旦那様はなかなかにエグいのですね」


 ほくほく顔で成果を眺めるタマモを見て、隣で控えていたアンリが若干引き気味になっていた。その隣にいたフブキも同じように若干引き気味なのがなんとも言えない。


「弱肉強食ですよ」


 アンリの言葉にタマモはあっさりと返すと、フブキへと視線をむけた。


「フブキちゃん。手持ちにニンニクとショウガはありますか?」


「え? あ、はい。野生種のものであれば」


「そうですか。なら、これからはそれを集めましょうか。試食兼試作品のためにそれなりに量が欲しいですからね」


「畏まりました」


 フブキはタマモの言葉に、佇まいを直して頷いた。


「あの、アンリはどうすれば」


「アンリさんも、手伝ってください」


「はい、わかりました」


 フブキへの指示とは違い、アンリへの言葉は短い。


 本当ならもっと話したいことや、言いたいことがあるタマモだが、まだどうアンリと接すればいいのかがタマモにはわからなかった。


 エリセがいれば、まだ話は変わるのだが、当のエリセは氷結王からの頼まれ事のため、別行動をしている。その代わりに補佐役であるフブキを付けてくれたため、タマモはフブキとアンリの3人で行動している。


 3人で行動しながら、「傍から見たらどういう風に見えるんだろう」と思ってしまったタマモだが、すぐに頭を振った。


 考えたところで意味はない。少なくともいまはまだ。


 フブキとともに地面をくまなく探すアンリ。その背中を見詰めながら、タマモは小さくため息を吐きながら、自身もまた試作のための野生種のニンニクとショウガを探し始めるのだった。……自身へと向けられている、恐る恐ると自身を見詰める視線に気付かないまま。

 


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