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Ex-41 念願叶って

 数時間後──。


 最終試合が終わるも、その熱狂が冷めやらぬ中、破壊され尽くした舞台が、運営の手によって修復されていた。


 もはや度重なる激戦による傷もなく、すっかりと元通りとなった舞台では、優勝目録の授与式が行われていた。



「──以上が「一滴」の皆様への目録となります」



 淡々としたアナウンスが響く中、クラン部門ビギナークラスの優勝クランである「一滴」への授与が終わる。


「一滴」へと授与されたのは、事前の告知通りの特別スキルである「友との絆」を取得できるスクロールと優勝賞金の100万シルだった。


 なお、個人部門ビギナークラスの優勝者であるポンタッタにも事前告知通りの特別スキル「奮迅の心」のスクロールと賞金50万シルが贈られている。


 前大会では10万シルだった賞金が5倍の50万シルへと大幅に増額された反面、ボーナスポイントはない。


 クラン部門では、賞金額は変わらず、ボーナスポイントもない。が、その代わりである特別スキルがそれそれに破格である。


「奮迅の心得」は強敵戦において、時間制限なしで全ステータスを5パーセントアップさせ、「友との絆」は同スキルを取得する仲間がいれば、戦闘中にHPMPを徐々に回復させるという効果だ。


 5パーセントアップは、バフ量で言えば下からふたつめの「微」となる。


 だが、強敵、ボスないし高位NPCなどの強敵相手をするときに、自動発動する全ステータス上昇のバフと考えると破格の効果である。


 それは「友との絆」も同じであり、発動条件は「奮迅」よりも緩く、スキル取得者がいれば全員が戦闘中のHPMPを徐々にだが自動回復する長期戦で活きるスキルだ。


 さすがに双方ともにぶっ壊れとまでは行かないが、十分に有用なスキルだ。


 その有用スキルをなんの代償もなく取得可能になるスキルスクロールが目録となれば、ボーナスポイントの代用としては破格であろう。


 そんなスキルスクロールと賞金を「一滴」の3人は受け取った。


 なお、賞金は代表者としてマスターであるフィナンが受け取り、スキルスクロールは3人それぞれに贈られた。


 賞金と目録を受け取った3人はほくほく顔で、「ありがとうございました」と一斉にお辞儀をする。


 ギャル系のマドレーヌでさえも、ふたりと一緒にお辞儀をする辺り、マドレーヌの育ちの良さがわかるというものである。


 中には「ちゃんと礼節を弁えるギャル系狐っ娘。ありやん!」と興奮する観客が一部いるものの、大多数の観客は「一滴」の対応を讃える拍手を送っていく。


 その拍手に包まれながら、「一滴」の3人は、それまでのお行儀良さはどこへやら、やいやいとさわぎながら舞台を下りていった。


「──続きまして、個人部門エキスパートクラス優勝者テンゼン選手」


「一滴」への無数の拍手が響き渡る中、アナウンスは続く。


 そのアナウンスに先導され、テンゼンがゆっくりとした足取りで舞台上へと上がった。


 オルタとの試合終了後の怒り狂った姿はどこへやら、とても落ち着いた様子で舞台へと上がっていくテンゼン。


 相変わらず、深いフードで顔を隠しているため、若干わかりづらいが、少し眠たげな顔をしていた。まるでいままでうたた寝をしていたのではないかと思うほどにだ。


 なんともマイペースな様子のテンゼンを見て、観客たちは苦笑いしつつ、引き続き拍手と声援を飛び交わせていく。


 そうしてテンゼンが舞台へとあがると、テンゼンにどこからともなくスポットライトがあたる。


 テンゼンは眩しそうに片手でライトから顔を隠すも、アナウンスが響く。



「前大会に続き、今大会でも圧倒的強さで優勝を掴み取られたテンゼン選手には優勝の栄誉と目録の他に特別賞号をお贈りさせていただきます」



 舞台上へと上がったテンゼンを運営は讃えながら、特別な賞号をプレゼントすると告げる。


 その内容に観客席からは圧巻の声が沸き起こった。


「特別称号?」


 テンゼンは首を傾げながら、オウム返しすると運営は素直に返答を告げた。



「特別称号「無双の刃」をお贈り致します。効果は今回の目録の「武人の誉れ」の上位互換に値するものです。強敵でなくても、常時発動し、効果よりも「武人の誉れ」の倍です。加えて「武人の誉れ」と相互干渉しますため、個人戦におけるテンゼン選手を讃えるには十分すぎるかと」



 運営が告げた内容は、本来の目録である特別スキル「武人の誉れ」の上位互換を特別称号として授けるというもの。


 もともと「第二回武闘大会開催のお知らせ」で、今大会の目録については詳細に書かれていた。


 その目録のひとつが「武人の誉れ」であり、強敵との戦闘時に全ステータスを30パーセントアップさせるという破格のバフスキルで、「奮迅の心得」の完全上位互換である。


 その発動条件も同じく、強敵、つまりはボスや高位NPCなどのまさに強敵との戦闘中に自動発動する。


 が、強敵という括りがある通り、通常のフィールドモンスター相手では発動は基本しない。


 ただ、取得者よりも格上と判断された場合に限り、通常のフィールドモンスターであっても発動するという、まさに奥の手になるスキルである。


 だが、運営の言葉を信じるのであれば、「無双の刃」は「武人の誉れ」の上位互換。それも強敵以外でも常時発動するうえに、効果量が倍の60パーセントアップ。


 どんな相手であっても、常時1・6倍のステータスの暴力で殴れるうえに、強敵相手であれば「武人の誉れ」も自動発動し、相互干渉もするということは、強敵相手にはステータスがほぼ倍増する。

 加えて、称号効果であるため、消耗はないと来ている。


 誰の目から見ても明らかなほどにぶっ壊れ称号であった。


「……それは、やりすぎでは?」


 運営から贈られる特別賞号の効果に、さしものテンゼンも顔を引きつらせてしまう。


 観客も「いや、完全にチートやん、それ」と唖然とする。

 

 だが、運営はその声にはあえて反応は見せず、「こちらが優勝賞金となります」と賞金を授与した。


 その賞金額は──。


「……ねぇ、500万シルってどういうこと?」


 ──前大会の50倍の金額であった。テンゼンの頬の引きつりがより顕著となっていくも、運営からは「妥当な金額かと」という答えのみ。


 テンゼンが「妥当?」と声を震わせる。それはテンゼンだけではなく、観客からも同じ声が上がっていく。


 事前告知には金額は書かれていなかったが、前大会のクラン部門の優勝金額である100万シルだろうと思われていた。


 それがまさかの5倍である。誰がどう見ても大金であった。


 その大金をぽんと授与されたことで、テンゼンの顔がどんどんと引きつっていく。


 個人戦最強ではあるが、感性は小市民であるテンゼンにしてみれば、500万という大金を前にして動揺するなというのは無理がある。


 たとえゲーム内であったとしても、500万がどれほどの大金であるのかなんて誰もがわかっていることであった。


 そんなテンゼンの動揺を「気持ちはわかる」と観客たちは頷いて見ていた。



「以上がテンゼン選手への授与となります」



 テンゼンが動揺を示すも、運営は実にあっさりとした様子でテンゼンの授与を終えたと告げる。テンゼンは慌てて一礼をしてから、そそくさと舞台を下りていった。


 そして──。



「続きまして、クラン部門エキスパートクラス優勝「フィオーレ」の皆様、舞台へお上がりください」


 

 ──タマモたち「フィオーレ」の順番が訪れた。

 アナウンスに先導されて、タマモたちが舞台へと上がろうとした、そのとき。


「みんなー! 行っくよ~?」


「声を! 出して! 行きましょう!」


「それでは~」


「「「せえーの!」」」


「一滴」の3人の声が観客席から聞こえた。


 マドレーヌから始まり、クッキー、そしてフィナンの順に声がけが行われ、最終的には3人が声を合わせての音頭を取る。


 すでに3人はいつのまにか、それぞれの推しの法被と鉢巻きを装備して、観客席の最上段にてそれぞれの推しの代表とも言うべき姿を晒していた。

 そうして音頭を取る3人の声に合わせて、「フィオーレ」フリークの面々の大合唱が行われた。


「「「「「タ・マ・モ・ちゃん、ラブリーぃぃぃぃぃ!」」」」」


「「「「「姐さん、蔑んでぇぇぇぇぇぇぇーっ!」」」」」


「「「「「レン様ぁぁぁぁぁぁぁ、愛しているぅぅぅぅぅぅぅーっ!」」」」」 


 大合唱に続いて、いつのまにか作詞作曲をしていたのだろうか、「フィオーレ」への応援ソングが響き渡る。管楽器も用いての、まさにオーケストラと言うべきものである。


 そんな情熱が凄まじすぎるファンの愛情を受けながら、タマモたちは舞台へと上がっていく。


 その顔はそれぞれに真っ赤に染まっていた。


 そんなタマモたちを見て、アナウンスは笑いを堪えるような声を出しながら、目録を、タマモたちの目的であった「回生の青果」を授与した。



「こちらが「回生の青果」となります。お受け取りください」



 代表者としてタマモの手に贈られたのは、その名の通り青い色をした果実。見た目は青空のような色をしたリンゴであった。


「これが、「回生の青果」」


 タマモは受け取った「回生の青果」を見て、涙ぐんでいく。


 それはタマモだけではなく、ヒナギクとレンも同じだった。


 ついに目的であるアンリの蘇生のために必要なアイテムを得られた。


 すべてはこのときのため。これを得るための戦いであった。


 それがついに成就した。タマモたちの目尻から次々に涙がこぼれ落ちていく。


 そこに優勝賞金の1000万シルが贈られるが、タマモたちにとってはさほど意味のあるものではない。


 なによりも重要なものを、念願のアイテムを得られたことに比べれば、賞金など些細なものでしかない。


 タマモたちの反応から、賞金よりも「回生の青果」の方が重要だったのだろうと誰もが理解するも、その内容まではほとんどの者はわからなかった。


 その涙の理由を知るのはごくわずかな者。そのわずかな者たちの目尻にも光るものが見えていた。


「他にも「フィオーレ」の皆様方には別の目録もございますが、この場ではなく、おってお贈りいたします。以上で「フィオーレ」の皆様の、そして今大会の授与式を終了致します」



「回生の青果」を得られたことで他のすべてが聞こえなくなっている「フィオーレ」を見て、運営は他の目録の授与はおって行うと告げた後、今大会の授与式を終えることを宣言する。


 その宣言とともに盛大な拍手と大音声の歓声が響き渡る。


 拍手と歓声に包み込まれながら、タマモたち「フィオーレ」は念願のアイテムを手に涙を流し続けるのだった。 

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