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139話 決着

滑り込みでどうにか更新です←汗

 流星のようであった。


 夜空を駆け抜ける流星のように、それは空を駆け抜けてくる。


 真っ白な姿をした流星。いや、真っ白な風を纏ったタマモが流星となって空を駆け抜け、地上へとまっすぐに降下してくる。


 その様はアオイは唖然としながら、見つめていた。


「こんなの、こんなのは見ていない!」


 アオイは迫り来るタマモの姿に、驚愕としていた。


 アオイが見たのは、あくまでも「花鳥風月」という名の蹴り技をタマモが使ってくるということ。その蹴り技にしても、不覚にも遅れを取ったものと同じもののはずだった。


 それが、いま自身に迫るものは、アオイがカウンターを狙っていた蹴り技とはまるで違うものだった。


 そんな光景が迫る様など、アオイは見ていなかった。


 見ていないが、その見ていない光景が実際に迫り来る様に、アオイは恐怖を感じていた。


 だが、恐怖を感じたところで、タマモがいまさらやめてくれるわけもない。


 どれほど恐ろしい光景であっても、いまはその恐怖に立ち向かうしかなかった。


 震えそうになる脚を叩き、アオイは空を見上げる。


 タマモは恐ろしいほどの速度で以てアオイに迫っている。


 接敵まで残り10秒もあるかどうか。


 残された時間で、あれにどう対処するべきなのか。


 いままでの戦いの経験の中でも、あれに類似した攻撃などなかった。


 ジャンプ攻撃をされたことはあれど、はるか上空からの強襲などされたことはない。


 どうすればいいのか。


 どうすれば正解なのか。


 なにもわからなかった。


 わからないまま、タマモは徐々に迫ってくる。


(どうする、どうする、どうする!?)


 アオイは全速力で思考するも、どれほど思考を巡らそうとも、答えは出ないし、未来も見えてはくれない。


 見えないまま、やがてそのときを迎えたアオイは──。


「わ、「分け身」!」


 ──とっさに種族専用のスキルである「分け身」を用いた回避を行った。


「分け身」とは、アオイの種族である「銀髪の仙狸」が持つ専用のスキル。


 その効果は名を体を表すというように、アオイの分身体を作り出すもの。


 この「分け身」はアオイがベータテスト時から幾度となく使い続けてきたスキルである。


 かつてベータテスト時にアオイが、「銀髪の悪魔」と称され恐れられた理由。それが「分け身」であった。


 この「分け身」を用いて、アオイは様々なプレイヤーをPKしてきたのだ。


 分身体を囮にして、本体である自身を透明化させる「幻術」を併用することにより、想定外の方向から一撃必殺の「急所突き」を放つ。


 それがアオイのベータテスト時における基本的なPKの方法であった。


 無論、中にはこの方法にはまらないプレイヤーもいる。


 が、はまらないプレイヤーとて、なにが起きたかもわからない状況では、まともな判断などできるわけもなく、浮き足立つことになる。


 そんなプレイヤーをPKすることはより簡単なことであった。


 油断と動揺。そのふたつこそが、かつてのアオイにとっての武器であった。


 その武器をより鋭利に、より強力にするためのものこそが、アオイにとっての「分け身」であった。

 

 その「分け身」は使えば使うほど習熟度は上がり、より成功率は高くなる。


 仮に失敗しても、浮き足立ったプレイヤーを始末することなど難しいことではなかった。


 噛み合った歯車のように、アオイのPK方法は行えば行うほどより高精度になっていった。


 気付いたときには、アオイは「銀髪の悪魔」と称されるほどのPKとして君臨することができた。


 その要因が「分け身」であり、その「分け身」をアオイは初めて防御のために用いた。


 すべては負けないために。タマモの絶技とも言える一撃を直撃しないためだった。


 その甲斐あってか、タマモの蹴りは見事にアオイの分身体をぶち抜き、アオイを置き去りにするようにして通り過ぎていく。


 アオイはその様子を見て、ほっと一息を吐いた。

(……いくら威力や速度が凄まじかろうとも、当たらなければどうということもない)


 そう、どんな強力な一撃であろうとも、直撃しないのであれば怖くはない。


 怖くはないが、恐ろしくはある。


 もし、直撃を受ければ、ひとたまりもない。そんな一撃が目の前で放たれたのだ。その恐怖は筆舌にしがたい。


 が、どうにか回避はできた。となれば、次はこちらの一撃を当てれば。アオイがそう考えたそのとき。


「まだだぁ!」


 タマモの叫び声が聞こえたのだ。


 慌てて視線を向けると、すぐ目の前までタマモがあの蹴り技で突っ込んでくるところだったのだ。

「な、なぜ──っ!?」


 アオイは絶句する。絶句しながら、なぜ避けた一撃が再度放たれているのかという疑問を抱く。


 だが、その疑問への答えを見つけることはできず、アオイは肉薄するタマモの蹴りを見つめていった。




 タマモはアオイに「焉鳳」を再度放ちながら、アオイをまっすぐに見つめていた。


 一撃目はアオイの機転によって回避されてしまった。


 だからこそ、この二撃目は必中となる。元々、「焉鳳」はそういう性質の深奥であると聖風王からタマモは教えられていた。


『よいか、婿殿。「真の花鳥風月」は一撃必殺を主とするものではない。必中にして必殺の二撃目を主とするものじゃ』


『二撃目、ですか?』


『うむ。初撃でも十分に必殺とも言える一撃ではあるものの、その性質上、初撃は避けやすい一撃でもある』


『……たしかに、そうですね』


 聖風王が語った内容に、タマモは頷いた。「焉鳳」はその性質上、どうしても接敵までに時間が掛かる。


 その時間を仲間に稼いでもらえば、問題とは言えないが、個人で戦う場合において、どうしても接敵の時間がネックになる。


 つまり、相手に対処できる時間を与えてしまう。

 とはいえ、並大抵の相手では、どれだけ時間を与えたところで為す術はない。


 が、もし並大抵の相手でなければ、なにかしらの対応策を取ってくる可能性がある。


 その対応策が的外れであれば、笑い話にしかならない。が、もし的外れでなかったとすれば。それこそ効果的な対応策であったとすれば、「焉鳳」はただの自爆技と化す。


 しかし、もし元々の狙いが二撃目によるものであれば話は変わる。相手もまさか追撃があるとは考えないだろう。「焉鳳」はそれほどの一撃だ。


 その一撃が間を置かず追撃の、正真正銘の必殺の一撃が飛んでくれば、それはまさに必中と言ってもいい。


 聖風王が語る「必中にして必殺の二撃目を主とする」という言葉の意味もわかる。


 ただ、わからないこともある。というか、単純な疑問であった。それは──。


『──その二撃目ってどう放つんですか?』


 そう、肝心の二撃目をどう放つのかがわからなかったのだ。


 当時のタマモはすでに一撃目を受けて、瀕死の重傷を負っており、さすがに二撃目を受けることはできなかった。


 ゆえに、肝心の二撃目の正体がわからなかった。

 そんなタマモの疑問に聖風王が答えたのはただ一言であった。それは──。


(──そのときになればわかる、なんて投げやりすぎですよ)


 そう、聖風王が答えたのは、投げやりとしか思えない一言であり、答えとしては不十分すぎるものだった。


 その不十分すぎる答え。その答えの意味をタマモは身を以て知った。


 必中にして必殺の二撃目。それはタマモが意識するまでもなく、自動的に放たれていたのだ。


 正確には自動的ではなく、風によるもの。風がタマモをアオイへと誘導したのだ。まるで見えないレールが、風によってできた見えないレールを辿るように、タマモは最短最速のルートでアオイへと突撃する。


 その光景は傍から見れば、戦闘機のマニューバにおけるバレルロールのよう。いや、白き翼を持った鳳が蘇り再び敵に食いつかんとするようであった。


「焉鳳」の名にある「鳳」は、古代中国における「四瑞」の一翼である鳳凰を示す。


 そして「鳳凰」とは不死鳥とも呼ばれるもの。炎の中から蘇りし不死なる霊鳥。その霊鳥の名を冠するこそ、成立しえた一撃。それが「真の花鳥風月」である「焉鳳」だった。


 その「焉鳳」の必中にして必殺の一撃がアオイの腹部に食らいついた。


「がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 アオイの悲鳴じみた叫びがこだまする。その声に呼応するように、タマモの雄叫びが響き渡る。ふたりの絶叫が重なり合う。


 伝承において、鳳凰は二種類の鳴き声があるとされる。奇しくもアオイの叫びとタマモの雄叫びという二種類の絶叫が響く様は、まさに鳳凰の具現とも言えるものであった。


 そんな終焉を呼ぶ鳳凰は炸裂し、強制的なエキジビションマッチとなったこの戦いの終焉を呼ぶこととなった。


 ふたりは勢いそのままに正面にあった壁へと衝突した。


 その瞬間、凄まじい衝撃と破砕音を奏でながら、土煙が上がる。


 その土煙の中でひとり立ち尽くす影があった。その影の持ち主とは──。


「……ボクの勝ちだ、アオイ」


 ──他ならぬタマモであった。


 タマモの前には壁に体を埋め込んだ、意識を完全に手放したアオイがいた。


 意識のないアオイへと向けてタマモは自身の勝利を宣言するのだった。

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