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124話 花と空 その2

「三空」対「フィオーレ」による決勝戦。


 その始まりを飾ったのは、デューカスだった。


「それでは、開幕と参りましょう!」


 その一言と共に、デューカスの周囲を無数の魔力弾が精製された。


 デューカスの持つ特別スキル「無限弾」による、デューカスの代名詞と言える光景であった。

  

 その名の通り、無限にあるのではないかと思うほどの無数の魔力弾がデューカスを囲んでいく。


 精製された魔力弾はあっという間に100を超えた。


「さぁ、舞いなさい! 「無限弾」発射!」


 わざわざ「無限弾」の発射を口にするデューカス。そのままでは、事前告知にしかすぎないが、そこはさすがのデューカス。「発射」と口にしてから、いくらかの時間差を置いて、次々に魔力弾を放っていく。


 続々と放たれていく魔力弾。だが、それら魔力弾はそれぞれに異なる軌道、タイミングでタマモたちへと向かっていく。


 一斉にではなく、時間差を置いて次々にというのが、なんともいやらしい。時間差があっても、通常の魔法とは異なり、点の攻撃でしかない魔力弾であればタマモのフライパンで跳ね返すことも可能だった。


 だが、タマモのフライパンが魔法を跳ね返すことができることをここまでの試合で確認していたデューカス。


 魔力弾単体であれば、いまのタマモはたやすく跳ね返すことができる。魔力弾を攻撃の主体とするデューカスにとって、それはまさに死活問題である。


 いわば、いまのタマモはデューカスにとっての天敵とも言える存在だった。


 ゆえにデューカスはタマモ対策として、あえて時間差を作ることで、それも時間差を極端に変えていることで魔力弾を次々に跳ね返すのを、タマモが対応しきれないようにするという形で防いでいた。


 とはいえ、そのタマモ対策だけで、さしものデューカスも限界であるようで、その場から一歩も動くことなく、次々に魔力弾を放っていく。


 とはいえ、それだけであれば、いずれ力尽きることは必須。


 これが個人戦であれば、デューカスが押し切るか、デューカスの疲弊を待ってのタマモが攻めきるという結果になっただろう。


 しかし、これは個人戦ではない。パーティーメンバーがいるクラン戦である。


 そのため、デューカスが一歩たりとも動かずとも、なんの問題もない。なぜならば、デューカスが所属する「三空」には、「三空」の残りのメンバーはデューカス以上のプレイヤーなのだから。


「よいぞ、「宵空」よ。そのまま攻め続けよ」


「背中は任せましたよ、「宵空」殿」


「御意に。たしかに任されましたぞ」


 デューカスが「無限弾」を放ち続ける中、マスターであるアオイとその右腕であるアッシリアが前に出る。


「「明空」よ、レンとヒナギクの相手をできるかの?」


「……それ、私だけであのふたりの相手をしろってこと?」


 デューカスの魔力弾とともに駆けながら、アオイとアッシリアはプランを練っていた。


 もともと試合前にプランなど練ることは「三空」ではほとんどしない。


 どんな相手であろうとも、「三空」の相手ではなかった。


 ゆえにプランは試合中に練るというのが、常態化していた。


 それは今回の決勝戦も同じで、「フィオーレ」の3人を見やりながら、ふたりは話し合いを続けていく。


「そなたひとりではない。「宵空」の援護もあるではないか」


「……それでも相対するのは私ひとりってじゃないの」


「なんじゃ、できんのか?」


 じっとアッシリアを見やるアオイ。まるで「なんでできないのか」と言わんばかりの表情にアッシリアはため息を吐く。


「……やれと言われればやるわ。ただ、長くは保たないわ。「フィオーレ」は全員が他のクランのエース級だもの。そのエース級ふたりをひとりで相手しろっていうのは、どう考えても無茶よ」


 アッシリアは冷静に「フィオーレ」の戦力を分析する。「フィオーレ」の人数は「三空」同様に3人だけ。


 しかし、たった3人とはいえ、その3人の実力はどう考えても、他クランのエース級。


 それはビギナークラスの優勝クランである「一滴」も同じだが、少なくとも現時点では「一滴」であれば、「三空」の敵ではない。


 だが、いま目の前にいるのは「一滴」ではなく、「フィオーレ」である。その「フィオーレ」の実力は、「三空」と比べても遜色はない。


 ただ、そこまでの戦績がないため、戦前のオッズでは「三空」に偏りが出ている。


 だが偏りとはいえ、そこまで大きな偏りではなかった。


 もっとも、それはあくまでも「フィオーレ」に勝って欲しいという応援票が大半を占めている。その応援票を除けば、戦前のオッズでは「三空」の勝利が大半となる。


 だが、それでもアッシリアはここまでの「フィオーレ」の激戦を踏まえて、侮るべきではないと考えていた。


 そしてその考えはアッシリアだけではなく、アオイも同じであった。


「……ふむ。それもそうだの。まぁ、とりあえず、「宵空」と協力して、どちらかひとりでいい。戦闘不能に追い込め。そうすれば、数的有利が生じる。そうなれば、そなたらふたりで残りのひとりの相手などたやすいことであろう?」


 アッシリアの分析を否定することなく、その分析を踏まえた上で最終的なプランを口にするアオイ。


 人数差はいまのところない。


 だが、最初にひとりを集中的に叩き、数を減らせば人数差は生じる。


 そうなれば、いくら相手が他クランのエース級のメンバーであったとしても、こちらも他クランのエース級のアッシリアとデューカスのふたりで抑えることは十分に可能である。


 とはいえ、アオイが言うほど「たやすい」わけではないが、それでもアッシリアひとりでヒナギクとレンを抑えるよりかは「たやすく」なる。


 おおよそ、間違っていないプラン。むしろ、そうするべきであるプラン。そのプランニングを聞いて、アッシリアは「……まぁ、それなら」と頷いた。


「よし。では、「宵空」の魔弾を目くらましにして一気に──」


 アオイはアッシリアの同意を得て、プランを開始しようとして、そこでアオイは間の抜けた声を上げることになった。


「……ほえ?」


 アオイらしかぬ間の抜けた言葉に、アッシリアは「なによ?」と首を傾げながら、正面を見やり──。


「は?」


 ──アッシリアもまた唖然とした声を上げた。


 なぜならば、数秒前までそこにいたはずの「フィオーレ」の3人の姿がどこにも存在していなかったのだ。


 目の前にはなにもない虚空が広がるだけ。3人で固まっていたはずの「フィオーレ」の姿は見えなかった。


「ど、どういうことじゃ!?」


 思わず、アオイが叫び声を上げる。アッシリアは叫び声を上げなかったが、気持ちとしてはアオイと同じく、動揺の最中にある。


 ただ、動揺しつつも、アオイもアッシリアも状況の確認を行っていく。そしてすぐに答えを出す。

「「後ろか!」」


 ふたりが出した答えは、「フィオーレ」もまた「三空」の人数を減らすべく行動に出ているということだった。


 現状、最も御しやすいのは、後方でひとり魔力弾を操るデューカスだろう。


 普段であれば、アオイとアッシリアという屈指の前衛がいるからこそ、後衛であるデューカスを直接脅かすことは至難である。


 だが、もしアオイとアッシリアの虚を衝くことができれば、話は変わる。そして現状、アオイとアッシリアは虚を衝かれた。


 後衛であるデューカスとの距離は開いている。さしものふたりでもすぐに援護に駆けつけることはできない距離。


 そしてそれだけの距離があれば、全員がエース級である「フィオーレ」の3人がデューカスに集中すればどうなるのかなんて考えるまでもない。


 アオイとアッシリアは慌てて振り返った。だが、振り返った先には魔力弾の操作に集中するデューカスがいた。


「フィオーレ」の3人に集られているわけではなかった。


「……どういう、ことじゃ?」


 アオイが理解できない光景に思考を止める。アッシリアもまた意味のわからない状況に思考に狂いが生じ始める。


 それこそ、まるで狐につままれたような状況であった。


「……狐につままれた?」


 ふと脳裏に浮かんだ言葉に、アッシリアが違和感に気付く。アオイはまだ困惑の最中にあったが、アッシリアは足がかりを掴むと、即座に行動に出た。


 すなわち、自身の両頬を思いっきり叩いたのである。


 いきなりの行動にアオイが「明空!?」と叫ぶのと、頬に走った鋭い痛みにアッシリアが顔を顰めたのは同時だった。


 だが、その瞬間アッシリアの目に映ったのは、想像を絶する光景であった。


「……む、無念」


 アッシリアが目にしたもの。それは「フィオーレ」3人の集中攻撃を受けて、ゆっくりと倒れ行くデューカスの姿であった。


「「宵空」殿!」


 アッシリアが叫ぶ。だが、その叫びに反して、無情なアナウンスが流れていく。



「「三空」のデューカス選手の戦闘不能を確認しました」



 無情なアナウンスとともに、デューカスのHPバーが消滅するのを確認するアッシリア。


 それとともに観客席から大きな歓声が沸き起こる。



「「フィオーレ」がまさかの先制ぃ! 「魔弾」のデューカス選手を撃破しましたぁぁぁぁぁ!」



 実況がここぞとばかりに叫ぶ。その絶叫に煽られるようにして、歓声はより大きなものへと変化していく。


 まるで悪夢のような光景だったが、現実であった。


「……してやられたわね」


 アッシリアは顔を歪めながら、正面を、倒れたデューカスに集う「フィオーレ」を、その中心にいるタマモを見つめる。


 いままで見たことがないほどに、真剣な表情を浮かべる幼なじみであり親友をアッシリアは複雑な感情を抱きながら見つめるのだった。

次回「フィオーレ」のこのとき視点です。

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