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110話 花と獣狩り その終わり

ガルド戦決着です


「──エキジビションマッチもついに終盤か!? 「フィオーレ」の3選手が一斉にガルド選手に迫っていく!」



「フィオーレ」の3人が一斉に突撃をしたことで、エキジビションマッチの終わりを感じ取ったのか、実況がいままで以上に興奮した様子を見せる。


 その勢いに煽られたように、観客席も声援を飛び交わせていく。


「レン様ぁぁぁぁぁ! 頑張ってくださぁぁぁぁぁぁい!」


「ヒナギクさん、ヒナギクさん、ヒナギクさぁぁぁぁん!」


「「タマモさん、がんばぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


 その声援の中でとびきり大きかったのは、4つの声。


 フィナンたち「一滴」の3人と今大会では出場していない「フィオーレ」のユキナの声が、何万人もいるであろう闘技場内で特に目立っていた。


 4人それぞれが熱狂的なタマモたちのファンであり、今回のエキジビションマッチにおいて、その熱量は他を圧倒するほどだった。


 レンフリークであるマドレーヌは、声を嗄らさんとばかりに、全身に力を込めて大声で叫んでいた。その手にある「レン様」と書かれた旗を握りつぶしかねないほどに必死の形相を浮かべていた。


 ヒナギクの大ファンであるクッキーは、観客席の最前席に駆けつけて、身を乗り出す勢いでヒナギクの名前を連呼していた。その勢いは周囲のプレイヤーがどうにか押しとどめるほどであった。


 そしてタマモガチ恋勢であるフィナンとユキナに至っては、マドレーヌ同様に応援旗を握りしめながら全力で叫んでいる。すでにふたりとも声が嗄れているのだが、それでも関係ないとばかりに叫び続けていた。


 4人それぞれが自身の推しを全力で応援し続けていた。その小さな体からは信じられないほどに、どうやってその体から出しているんだと思うほどの大音声で叫び続けていた。4人全員両肩が大きく上気しているものの、それでも構うものかと必死の大絶叫を続けている。


 そんな4人に触発されるように、「フィオーレ」ファンの面々たちも、声援の大合唱を行っていた。


「あの子たちに負けられないよ!」


「あんなに小さい子たちが、あんなに大きな声をあげているってのに、このくらいでへばっている奴なんざいねえよなぁ!?」


「現実の体でも声が嗄れてもいい! いまが今日という日なんだぁぁぁぁぁぁ!」


 4人に負けてられないとそれぞれのファンたちの中心人物が揃って声を上げる。その声に呼応して「フィオーレ」ファンたちの心はひとつとなり、会場を震わせるほどの大音声での声援が飛び交っていく。


 その声援に後押しされるように、タマモたちは加速した。


 まず反応を見せたのは、いつものようにレンだった。


 その手にあるミカヅチを再び長刀に戻すと、その刀身を帯電させた。帯電させた長刀を肩で担ぐようにして構えると、そのまま全力で振り下ろした。まだガルドとの距離は開いているというのにも関わらずだ。


「暴走か」と思われたとき、ミカヅチの刀身から黒い帯電する斬撃がガルドへと飛来していく。


 それはミカヅチが進化した際に得た「武術」のひとつ。字の如く飛ぶ斬撃である「飛雷刃」だが、レンはそれだけでは終わらなかった。


 なんと先行する「飛雷刃」へと突進したのだ。その勢いは「飛雷刃」に迫るほど。その勢いのままレンはガルドへと肉薄する。再びミカヅチの刀身を帯電させていた。


 その間にもすでに放っていた「飛雷刃」はガルドへと迫っている。その「飛雷刃」を叩きぶそうとガルドが「狼夜」を振り上げる。


 そこに帯電させていたミカヅチを手にしたレンが追いついた。


 レンは、すでにガルドの目の前へと至っていた「飛雷刃」へと帯電するミカヅチの刀身を叩き込んだ。


 それは通常の「飛雷刃」の上からゼロ距離の「飛雷刃」を叩き込む。この場で思いついたばかりの二連斬。その名を──。


「──飛雷十字刃!」


 ──「飛雷十字刃」とした連撃を叩き込む。


 それと同時にヒナギクもまたガルドへと一撃を叩き込んでいた。


 それはこの試合で何度も放った「虎墜牙」だった。


 ただ、いままでの「虎墜牙」とは違っていた。


 そもそもヒナギクが放っていた「虎墜牙」は本来の「虎墜牙」ではなかった。


 正確に言えば、「虎墜牙」の途中だったのだ。


「虎墜牙」はレンたちの流派である「神威流宗家」の無手術において、通常の流派であれば奥義とされるもののひとつ。


 なぜ奥義とされると言うのか、それは「神威流」には奥義とされるものは存在していないからである。


「神威流宗家」を学ぶ者はいずれそれぞれの奥義と呼べるものに至ることになる。ゆえに一般的な意味合いでの奥義とされるものは存在していない。


 だが、奥義へと至れる道筋は存在している。それが「虎墜牙」を始めとした技である。「神威流宗家」の使い手が奥義と至る道筋。それは「神威流宗家」の技の中から最も自身が得意とするものを見つけ、それを発展させていくことである。


 ゆえに、ヒナギクがいままで使っていた「虎墜牙」は、「神威流宗家」における「虎墜牙」ではあるものの、ヒナギクが放とうとしている「虎墜牙」とは異なっていた。

 

 では、ヒナギクが放とうとしている「虎墜牙」とはなにか。「虎墜牙」は虎が獲物を組み伏し、必殺の牙を叩き込む様から連想されたもの。だが、ヒナギクはそこに疑問を憶えたのだ。


 それは「なんで一撃だけなのか」というもの。


「神威流宗家」における「虎墜牙」とは、全体重を乗せた渾身の力を込めた一撃を放つというもの。


 それはたしかに虎が獲物を組み伏した得物を屠る様には見える。


 しかし、虎の牙は決して一本だけではない。


 であれば、「虎墜牙」も一撃だけではないのではないか。


 そんな疑問を抱いたヒナギクが、突き詰めた結果辿りいたもの。それがヒナギクの「虎墜牙」であり、その「虎墜牙」がいま牙を剥いたのだ。


 飛び掛かるようにしてガルドへと放ったヒナギクの右拳。それはこの試合で散々見た「虎墜牙」であったが、ヒナギクの「虎墜牙」はそれだけでは終わらなかった。


 何度も使ったからこそ、ガルドもまた「虎墜牙」には慣れていたのだろう。必殺の右拳を「狼夜」の柄でガルドは防いでいた。が、そこからはガルドの想像を超えた一撃が放たれた。

 ヒナギクは右腕を振り抜いて、「狼夜」の柄を弾き飛ばしたのだ。そしてそのまま着地をすると今度は空いていた左拳でのアッパーカットを、地を這うようにして勢いよく放たれたアッパーカットをがら空きの顎に向けて放ったのだ。


 ヒナギクの「虎墜牙」とは、必殺の右と追撃の左からなる二連撃。虎は虎でもサーベルタイガーを思わせる二対の牙による必殺連撃。それが──。


「──虎墜牙!」


 ──ヒナギクの「虎墜牙」であり、その「虎墜牙」の直撃をガルドは受けていた。


 奇しくもレンとヒナギクそれぞれが二連撃を放った。


 その二重の二連撃により、ガルドの蘇生回数はその分だけ消費されるも、まだガルドは倒れていない。


 そこにひとつの影が躍り込む。


「これが終わりです、ガルドさん!」


「フィオーレ」のマスターであるタマモ。今大会において、それぞれのクランのエースを次々に打倒したことにより、密かに「エースキラー」と呼ばれ始めているタマモが放つのは、バルド戦での最後の一撃となった「風聖道」における深奥「花鳥風月」──。


 しかし、今回の「花鳥風月」は前回の「花鳥風月」とはまるで異なっていた。そもそもの話、誰もタマモがガルドに接近していることに気付いていなかったのだ。


 その理由が今回の「花鳥風月」にあった。


 前回の「花鳥風月」は最後に花が咲き誇るような美しき技だった。


 が、それでは「花鳥風月」を修めたとは言えなかった。


 美しき「花鳥風月」は、「花鳥風月」のひとつの姿にしかすぎない。


 なぜならば「花鳥風月」とは4つの姿をもつ深奥なのだ。


 今回の「花鳥風月」はそのうちのひとつ。


 人知れず咲き誇る花のように。音もなく羽ばたく鳥のように。緩やかに吹くそよ風のように。そして夜闇をその身ひとつで払う月のように、とても静かなもの。


 それゆえに技が発動する寸前まで、その姿を認識することは敵わない。逆に言えば、その姿を認識したということは、すでに技は成っている。それがふたつめの「花鳥風月」──。


「「花鳥風月・清月」!」


 静かなる「花鳥風月」こと「花鳥風月・清月」──。


 清く澄んだ月という「清月」の名を冠したふたつめの「花鳥風月」は、いつのまにかガルドの懐へと飛び込んでいたタマモが、渾身のジャンピングフックをその頬に叩き込んだ。


 その一撃により、ガルドの「獣謳無刃」は解除され、ガルドは二転三転としながら地面を転がり、ほどなくしてその場に横たわった。


 ガルドはぴくりとも動かない。


 誰もが「決まった」と思ったとき。


 ガルドは勢いよく立ち上がった。


「あれでまだ終わらないのか」とタマモたちを含めて誰もが息を呑んだのだが──。


「……レンの坊主、ヒナギクの姉ちゃん、そしてタマモの嬢ちゃん」


 ──ガルドはとても穏やかな顔で3人を呼ぶ。3人はいきなり名前を呼ばれたことで最初戸惑ったが、すぐに「はい」と答えていた。その答えにガルドは満足げな笑みを浮かべると一言を告げた。


「おまえらが、俺たちの代表だ。魔王サマ相手に厳しいとは思う。それでもあえて言わせてもらうぜ。──勝って来い!」


 ガルドは目を見開きながら叫ぶ。


 ビリビリと空気が振動した。


 それでもタマモたちはその言葉をまっすぐに受け止めると、力強く「はい!」と叫んだ。


 その返答にガルドは「いい返事だ」と笑うと、静かにまぶたを閉じた。


 そこでガルドの動きは止まってしまった。


 ガルドは一切の身動ぎもしなかった。


 いったいどうしたのだろうと観客席から疑問の声が上がり始めたとき。



「プロデューサーのエルです。ガルド選手の気絶を確認いたしました。これによりエキジビションマッチの終了を宣言いたします」



 それは淡々としたアナウンスだった。


 だが、そのアナウンスが流れてすぐに、ガルドの巨体はゆっくりと崩れ落ちたのだ。


 ガルドは立ったまま気絶していた。


 その事実に観客席から今日一番のどよめきがあがった。


 そのどよめきの中、タマモたちは一斉にガルドの元へと駆け寄っていた。


 激しい戦闘後すぐの介抱を見て、ひとつの拍手が鳴り響く。それが誰のものだったのかはわからない。


 だが、その拍手は次第に数を増やしていき、やがて万雷の喝采がタマモたちとガルドへと注がれていく。


 そうして万雷の喝采を浴びながらも気絶するガルドは、とても穏やかな笑みを浮かべていた。そんなガルドにタマモたちは一斉に「ありがとうございました」と感謝を述べるのだった。


 こうして準決勝最終試合にして、突如行われたエキジビションマッチは「フィオーレ」の勝利という形で幕を閉じるのだった。

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