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101話 花と獣狩り その3

「ガルキーパー」と「フィオーレ」の試合は、「ガルキーパー」が圧倒的にイニシアチブを握っていた。


 今大会では、どのクランも「フィオーレ」に対して、真っ向勝負を仕掛けて、そのたび「フィオーレ」は凌駕してきた。


 だが、今大会初めて「ガルキーパー」は頭脳戦を、「フィオーレ」の良さを消すための策に打って出た。


「フィオーレ」の3人の長所を封じ、短所を突く。


 どんな戦闘においても、相手の長所を封じて、短所を突くというのは基本である。


 だが、基本であるがゆえに、対抗策への対抗策を練るのも基本となっている。


 それをどれだけ相手に悟らせないか。いわば化かし合いもまた戦闘の基本である。


 その化かし合いをあえて真っ向から行うという、「ガルキーパー」の策は意表を衝く形で完璧と言っていいほどに決まっていた。


 物理単体火力最強のヒナギクは、その火力を発揮できないように回避タンクとしてシーフのイースが。


 嵐のような致命攻撃を放つレンには、致命攻撃を完全無効効果の「絶対防御」持ちのタンクのキースが。


 そして要注意人物と化したタマモには、そもそも攻撃を許さないほどに完成しきったアタッカーである剣士のパリスが。


 それぞれを封じ込めていた。


 これにより「フィオーレ」は、その実力を発揮することができなくなっていた。


 とはいえ、パリスたちも余裕で3人を完封できているわけではない。


 口調のうえでは余裕を見せているものの、タマモたちの実力が埒外であることを理解している。


 試合時間は30分。


 その30分間、タマモたちを完封する。


 それがどれほど途方もないことであるのかはパリスたちも理解していたし、それがほぼ不可能であることもわかっていた。


 特に最難関であるのはヒナギクを抑えるイースである。


 一見パリスたち3人の中で最も余裕そうなイースではあるものの、その実3人の中で最も消耗している。


 なにせ、一撃でも入ればそれだけで終わるほどの一撃が次々に飛んできているのだ。その恐怖は如何ともしがたいものだろう。


 それになによりも、その一撃がどれほどとんでもないものであるのかを、イースは前大会で不意討ちでヒナギクの攻撃を受けて身を以て知っていた。


 しかも前大会よりもヒナギクの力は向上しているとなれば、その恐怖は計り知れない。拳が飛んでくるたびに、拳によって発生する風がイースの髪を大きく煽るのだ。


 そんな一撃をひとりで対処しているイースの消耗具合は半端なものではない。すでにイースの足元には汗による水たまりが生じているし、徐々に肩を上気させつつある。


 とはいえ、消耗しているのはイースだけではなく、ヒナギクもまた同じだ。


 すべての一撃が必殺の威力を持っている。逆に言えば、それほどの力を込めていると言うことであり、その分だけヒナギクのスタミナを削っているということ。費用対効果で言えば、若干高くつくことではあるが、それでもヒナギクという戦力を削りきれなくても、ある程度消耗させられるのであれば、十分に有用すぎた。


 それはヒナギクに対してだけではなく、キースやパリスもまた同じである。


 3人の役目はそれぞれの相手をできる限り消耗させるということ。


 もちろん、その過程で消耗どころか相討ちに持って行ければ言うことはない。


 だが、パリスたちは高望みをしすぎず、実行可能なところまでタマモたちを消耗させようと躍起になっていた。


 すべてはエースであるガルドによる大規模な一撃で、消耗しきったタマモたちを打倒するための布石である。


 いままでの対戦クランの敗北を振り返る限り、総力戦では全員が特殊職にクラスチェンジした「フィオーレ」に打ち勝つのは難しい。


 かといってマスター同士の一騎討ちに持ち込んだところで、その当のマスターであるタマモこそが一番の要注意人物であり、未知のスキルや武術を使われる危険性が高い。


 となれば、できうることは「フィオーレ」の3人にとって天敵や相性が悪い面々で相手取り、できうる限り消耗させること。そして消耗しきった「フィオーレ」に対して、万全の状態のガルドによる一撃をお見舞いする。


 それが「ガルキーパー」が導き出した勝利への方程式だった。

  

 その方程式通りに試合は展開していた。


 パリスたち3人は、みずからの力のみでタマモたちを打倒する気は最初からない。そのため、3人は最初から全力でタマモたちを消耗させることに注力していた。


 このまま「ガルキーパー」が「フィオーレ」を押し切るかと誰もの脳裏に浮かんだとき。「フィオーレ」はついに動きを見せた。


 それは試合が開始して10分を過ぎた頃。タマモたちがそれぞれの位置を確認するように、視線を絡ませたのだ。その次の瞬間──。


「雷電!」


 ──キースへと連撃を放っていたレンが、突如高速機動スキルである「雷電」を使用したのだ。キースが何事かと身構えるよりも早く、レンはキースから離れてタマモと対峙していたパリスへと突撃を仕掛けたのだ。


「パリス狙いか! キッカ!」


「おうよ! 行くぜ、「陽炎のミラージュ・ブレイド」」


 一目散にパリスに突貫するレンへと、魔術師であるキッカが「陽炎魔法」のひとつ「陽炎のミラージュ・ブレイド」──不可視の剣を対象に放つ中位魔法を放った。


 レンの機動力を以てしても、不可視の剣を避けきることはできないはずだった。しかし、その「陽炎の剣」へと向かって、なんとタマモが突撃を敢行したのだ。その手にあるフライパンを強く握りしめながら「陽炎の剣」の前へと躍り出ると、タマモはまるで野球のスイングのようにフライパンを振り抜き──。


「「魔法返し」です!」


 ──「陽炎の剣」を打ち返す形で反射したのだ。「ブレイズソウル」戦において、ティアナの魔法を悉く打ち返したときのように、タマモはあっさりとキッカの「陽炎の剣」を跳ね返した。


 跳ね返された「陽炎の剣」をキッカは慌てて回避する。キッカが回避すると同時に「雷電」で移動していたレンがパリスへと斬りかかった。さしものパリスも剣の技量に関してはレンに劣ってしまう。


 個人戦最強プレイヤーであるテンゼンと散々模擬戦を繰り返してきたレンの実力は、パリスをはるかに凌駕していた。パリスは一方的にレンに攻め込まれていく。


「おいおい、マジかよ!」


 いきなりの展開にイースは驚きの声を上げつつも、ヒナギクから目を離さずに張り付くようにして、ヒナギクの前に立っていたのだが──。


「油断大敵。隙だらけですよ、イースさん!」


 ──突如、自身の背後から聞こえてきたタマモの声と、風を切り裂く炎の音に慌てて跳び下がるイース。それからすぐにそれまでイースが立っていた場所へとタマモが「双焦斬」を放っていた。×の時に交錯する炎が空中で描かれていった。


「なんで、タマモちゃんがここに!?」


 突如として現れたタマモの姿に、少し前までキッカの魔法を打ち返したはずのタマモが自身の背後を取っていたという事実に驚きを隠せないイース。


「イース、油断するな! いま」


「それはキースさんも同じですよ!」


「なんっ!?」


 そんなイースのフォローのために「シールドバッシュ」でキースが距離を詰めていた。だが、キースがイースの元へと辿り着くよりも速く、キースの横合いから「鬼鋼拳」を発動させたヒナギクが殴りかかった。


 横合いからのヒナギクの一撃にキースはとっさに大盾でガードするも、その一撃はあまりにも重すぎて一発でキースの腕は痺れてしまった。が、どうにかキースは大盾を落とすことなく、まるでしがみつくようにして全身で大盾を抑え込んでいた。



「圧倒的に優位だった「ガルキーパー」の3人が瞬く間に窮地に追いやられていく! これはいったいどういうことだぁぁぁ!?」



 実況の言うとおり、ほんの数十秒前までパリスたちが優位に試合を展開していたのだ。それがほんの一瞬でひっくり返されてしまった。


 その理由はタマモたちがコンビネーションアタックを仕掛けたからである。


 3人が目配せをしたのは、コンビネーションアタックの発動を意味していた。


 そのコンビネーションアタックは、土轟王の居城「地中農園」内にて、ヨルムを相手に行った名もなきアドリブ攻撃を、土轟王が名付け、そして昇華したもの。それが「フィオーレ」の必殺連携「三花の舞い」だった。


「三花の舞い」により、徐々に窮地へと追いやられていた「フィオーレ」は一瞬で逆転し、パリスたちへと、それぞれの長所を活かせる相手へと攻撃を仕掛けていった。


 これにより試合は振り出しに戻るどころか、「フィオーレ」が大きく押し返す形へと展開していくのだった。

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