95話 生産スキルと四竜王
タマモはにゃん公望とフレンドとなり、今度一緒に釣りに行くという約束まで果たせた。
生産スキルは、これで3つ。農耕と調理、そして宝石研磨を所持しているが、この調子では釣りも獲得することになりそうである。
スキルを獲得すること自体に忌避感はないのだが、経験値が目減りしそうではある。もっとも生産スキルに関して言えば、それぞれのスキルで経験値は独立して取得するので、いくら所持しても問題はない。
とはいえ、生産スキルを網羅する気はない。むしろ、したところで管理しきれる自信がタマモにはない。
釣りを含めてもあと2つ、計5つが管理できる限界だろう。それ以上の取得は完全に管理しきれなくなることは請け合いだ。
そもそも、称号の時点でいま何種類取得しているのかもわかっていなかった。それなりに取得しているという自負はあれど、どれがどういう効果を持っているのかも若干あやふやである。
管理する必要のない称号でさえ、すでに飽和状態であるのだから、管理する必要のあるスキルまで飽和していたら堪らない。
もっとも、戦闘系スキルに関して言えば、いまさらではあるのだが。
なにせ、四大流派はすべて取得しているうえに、四大禁術も取得している。流派に関してはレベルで「武術」を得ているわけではないが、禁術に関してはレベルが一定値になるたびに追加されているようなのだが、通常の魔法とはまるで異なっている。
通常の魔法は、それぞれの属性を頭文字にしたボール系の魔法が最初に取得するが、禁術の場合はボール系ではなく、特殊効果系の魔法が基本となる。氷結魔法で言えば、「凍てつく空」がそれに当てはまる。
その特殊効果系魔法をそれぞれの禁術で得ており、それだけ魔法は4種類。その次が攻撃系魔法となり、その次がまた特殊効果系となる。次の特殊効果系魔法を取得した段階で、すでに魔法は12種類。
魔法それぞれの効果に加えて、射程、消費MP、詠唱速度とそれぞれに異なっており、適時取り扱うのはこの時点でかなりの難問となる。
しかも、今後もまた増えていくことを踏まえたら、いったい何十種類の魔法を管理することになるのかと思うと、気が遠くなりそうだった。
それに比べれば、生産スキルが5つ程度、なにするものぞと思わなくもないが、生産スキルは生産スキルでレベルがあがるたびに、「作業」という項目が追加されていく。いわば、戦闘スキルにおける「武術」が、生産スキルの「作業」となる。
その「作業」は「農耕」スキルひとつとっても、様々なものがある。たとえば、最近追加したものだが、「種苗選別」というものがある。
これはその名の通り、畑に植える種苗の品質をより選別できるものだ。同じ品質であっても、その品質内でもグレードが存在していた。もっとも、さすがに何段階も存在するわけではなく、タマモの「農耕」スキルのレベルだと良、並、悪の3つがわかるくらいだが。
ただ、この「種苗選別」は、どうにも他のファーマーも追加されていない「作業」のようだった。以前他のファーマーにも尋ねてみたが、誰も知らなかったのだ。となると、この「種苗選別」はおそらく「土轟王の教え子」の効果ゆえのものだろう。もしくは「風土の寵児」だろう。
どちらにしても、「種苗選別」に関しては現時点ではタマモのみが扱えるユニークスキルのようなものだった。
「四竜王」関連の称号を複数得ているうえに、いまや「四竜の寵児」の称号も得ている。もっとも「四竜の寵児」に関してはほぼ効果はわかっていないのだが。それでも、「種苗選別」のようになにかしらの生産スキルに関して特別な「作業」が追加されることは間違いない。
特に今後確実に取得することになる「釣り」は、おそらくだがなにかしらの特別な「作業」を追加されることになるのは間違いない。
その理由は氷結王の称号だ。土轟王が「農耕」、焦炎王は本人の口振りからして「鍛冶」だろう。それぞれ土と火に関係する生産スキルだった。となると、氷結王の場合は水系の生産スキルとなる。そうなると一番ありえそうなのが「釣り」スキルだった。
しかも、氷結王はタマモの視点からしてみれば、「四竜王」の中で一番関係の深い相手であることを踏まえると、いったいどんな「作業」が追加されてしまうのかがまるで想像もできなかった。
本当に「釣り」スキルを獲得するべきなのかと若干迷うが、一度約束した以上は受けないわけにはいかなかった。
そこまで考えて、ふとタマモは思うことがあり、タメトモこと柚香に声を掛けた。
「柚香さん」
「なにかございましたか、お嬢様?」
「ちょっとお聞きしたいんですが、風に関係する生産職ってなにか思いつくものありますか?」
「風に関係する生産職で、ございますか?」
「ええ、なにかありますかね?」
「そう、ですねぇ」
やや無茶振りかなと思うタマモではあったが、柚香は思案顔を浮かべている。それは柚香だけではなく、にゃん公望たちも考えている素振りを見せていた。簀巻きのうえに猿ぐつわを咥えさせられているデントもなにかしら考えているようである。
ほどなくして、柚香たちが口にしたのは──。
「そうさにゃ~。正確には生産職と言えにゃいけれど、狩人はわりと風系じゃにゃいかにゃ~?」
「ええ。私も同じ意見ですね。生産板では「食肉加工職人」という扱いを受けておりますが、たしかにそういう部分もなきにしもあらずですから問題はないかもしれませんが」
「あれは完全に姐さんの言いがかりだったからにゃ~」
「あれに関しては私に落ち度がありますから。まぁ、それはさておき。実を言うと、私の職業である「狩人」は基本的に弓系の武具の所持者でなければなれないものですが、「狩人」になるとですね、「風の加護」なるスキルを得られるのです」
「「風の加護」ですか?」
「まぁ、大層な名前ではありますが、実際は弓の命中率を底上げしてくれるというものです。あとは動物の鳴き声や気配を察知できるようになるという効果もありますね」
「それでいて、DEXの数値が物を言う職業でもあるからにゃ~。半分生産職と言ってもいいけれど、実際は戦闘職にゃもんなぁ~」
「私自身時折「狩人って生産職では?」と思うこともありますからねぇ。ほかの狩人のフレンドに聞いても「え? 俺たちって生産職でしょう?」とか「あれ? 戦闘職だったっけ?」とか言うほどですから」
「とはいえ、狐ちゃんの疑問に答えとしてはどうかにゃ~と思うんだけど、思いつくのはこのくらいだからにゃ~」
柚香もにゃん公望も完全に納得しているというわけではないが、一応の解をくれた。「風の加護」というまんまな加護名からして、おそらくは「狩人」のスキルが聖風王の称号と関係するのは間違いない。
間違いないが、どうにも違和感はある。
もっとも聖風王のありようを踏まえれば、ありえなくはないとしか言いようがない。
「これに関しては、もう少し調査してみるべきですかねぇ」と思いつつ、タマモは「いえ、答えてくれてありとうございます。参考になりました」と柚香たちにお礼を言う。当の柚香たちは恐縮していた。
その後、タマモは柚香たちと一言二言会話を交わしてから、本来の持ち場であるカウンター席へと戻ったのだった。




