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56話 緑と獣

 バルドたち「フルメタルボディズ」が奇跡の逆転勝利を掴んだことで、より熱気に包まれ始めた「闘技場」だったが、それも終わりを告げる時が訪れた。



「──さぁ、本日最終試合です」


 実況の淡々とした声と共に、東西の門が一斉に開いた。


 最終試合とあってか、それまでは交互に開いていた東西の門が、同時に開き、最終試合を彩る両クランを舞台へと迎え入れる。


 いままでにない演出に、観客席からはどよめきが止まらない。


 だが、どよめきを気にすることなく、両クランはその姿を現した。


 西門より現れたのは、全員の装備が統一されたクランだった。


 装備は頭からつま先まで、一切金属系の素材は使われておらず、すべて鞣された革をふんだんに使われていた。色は緑色でやはり統一されている。武器はそれぞれのEKによるが、サブウェポンとして全員が弓ないし長杖を背負っている。そして一番の特徴は、その体にあった。


 そのクランは全員がとんがった長い耳を持ち、全員が美しい金髪に非常に整った顔をしていた。



「西門より出でしは、クラン「深緑の守り手」! 今大会で初参戦ながらもここまで快進撃を見せてきた注目クランのひとつ! なによりも、注目するべきは、全員がエルフだということです!」



 実況が西門より現れたクラン「深緑の守り手」を紹介し始める。実況の言う通り、「深緑の守り手」は全員がエルフ族であるという一風変わったクランである。


「ブレイズソウル」のエリシアのように、エルフ族のプレイヤーが交じったクランというのはそれなりに参加しているが、全員がエルフ族で纏まったクランというのは「深緑の守り手」のみである。


 単一の種族のみのクランという観点で見れば、そこまで珍しいわけではない。単一種族のみという括りであれば、通常のヒューマンのみで構成されたクランも単一種族のみのクランに含まれる。


 だが、通常のヒューマン種以外という条件を加えると、その数は一気に減る。


「EKO」だけに限った話ではないが、ファンタジーを題材にしたゲームにおいて、一番数が多いのは通常のヒューマン種なのはお約束のようなものである。


 突出した能力はないが、それを補うために数という力を用いる。それがファンタジー系のゲームにおいて、通常のヒューマン種の共通設定であり、お約束ともいえる要素。その要素は当然「EKO」においても採用されている。


 そのため、通常のヒューマン種以外の種族というものは、基本的に人数が少なくレア種族と扱われる。


 もっとも、「深緑の守り手」のようなエルフ族や「ザ・ハンマーズ」のドワーフ族は、通常のヒューマン種を除くとポピュラーな存在として親しまれているので、通常のヒューマン種以外であるものの、レア種族として扱われることはない。


 なにせ、通常のヒューマン種ではないものの、それ以外の種族の中で大多数を占めているのがエルフ族とドワーフ族である。あくまでも「EKO」の中ではだが。


 通常のヒューマン種を除けば、大多数の片割れであるエルフ族。そのエルフ族のみで構成するクランは、数が多そうに見えて実はそう数は多くなかった。


 むしろ、「一滴」のように獣人族のみで構成されたクランの方が数が多いのだ。


 逆に片割れのドワーフ族のみで構成されるクランはそれなりに数がいた。


 通常のヒューマン種を除けばという条件付きであれば、ドワーフ族と比肩するほどの数がいるはずのエルフ族単一クランの数が少ない理由。それはこれまたファンタジーにおけるお約束が関わっている。


 それはエルフ族という種族は、肉体的にはやや脆弱であるということ。中には鍛えに鍛え抜いた結果、筋骨隆々の暑苦しい笑顔を常に浮かべるエルフ族という、「おまえの種族なんやねん?」というツッコミが入りそうなエルフもいるにはいるが、そういうエルフはごく少数であり、大多数のエルフはお約束から外れない肉体的にやや脆弱に陥りやすい。


 その反面、魔法的資質に優れており、本腰を入れて鍛えれば非常に優秀なマジックユーザーになりやすい。加えて聴覚などの感覚に優れているため、狩人などの弓の名手として名を馳せる者もいる。


 長短合わせて見ても「エルフ族といえば?」の問いかけに対して、大きく外れることがない。それが「EKO」におけるエルフ族であり、斜め上に邁進しやすいこのゲームにおいて、古典的なファンタジー観をそのまま踏襲している要素のひとつだった。


 そんなエルフ族で構成される「深緑の守り手」たちは、入場すると一斉に45度の角度でのお辞儀を行った。


 それも背筋をきちんと伸ばしたうえに、一切動きがずれることがない。まるで息を合わせたかのような、それはそれは見事なお辞儀であった。


 そんなお辞儀を「深緑の守り手」の5人は一斉に行ったのである。


 それは彼らなりの入場パフォーマンスである一方、常日頃から鍛え抜かれた性でもある。


 というのも「深緑の守り手」たちは、全員がいわゆる社畜組だった。


 日常的にお辞儀や挨拶などを繰り返してきたことにより、「「入場パフォーマンス」ってどうすればいいんだろう?」という疑問への答えとして導き出したのが「お辞儀する?」だったため、彼らは入場にお辞儀をするという一風変わった入場パフォーマンスを行っている。

 一般的なエルフ像というと、高慢や選民主義という言葉が当てはまるものの、「深緑の守り手」の面々は全員非常に腰が低いし、非常に丁寧な物腰である。


 もっともそれは「深緑の守り手」たちだけに限った話ではない。


 ゲームプレイの一環としてエルフらしい態度を取るプレイヤーもいるにはいるが、大半のエルフ族プレイヤーは一般的なエルフ像からはかけ離れたプレイヤーばかりである。その中でももっともかけ離れているのが、「深緑の守り手」たちでもあった。


 そんな「深緑の守り手」たちだが、今大会からの初参戦ではあるものの、その実力はたしかである。オーソドックスな魔法戦士という言葉を体現していた。それゆえに穴が少なく、仮に穴があったとしても、他のメンバーがそれを埋めるという形で相互関係で隙をより少なくし、安定した実力を示している。


 ゆえにか、「深緑の守り手」は目が肥えたプレイヤーにはそれなりに人気のあるクランだった。


 とはいえ、新人プレイヤーには人気がないのかと言われると、そうでもない。ただ、「すごいのはすごいんだけど、どうすごいのかがわからない」という評価をされがちであるからか、「あまりパッとしないなんだけど、強いクラン」と謳われており、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないというのが本人たちの感想である。


 その「深緑の守り手」と逆側の東門からはガルド率いる「ガルキーパー」が現れる。


 歴戦のクランと謳われる有名クランのひとつであるため、「ガルキーパー」の人気は非常に高い。


 高いのだが、その声援の大多数は男性からのものであり、女性人気に関してはいまひとつである。


「深緑の守り手」のファンは逆に女性が多いため、その声援は黄色いものである。


 その黄色い声援を受ける「深緑の守り手」を見やるガルドたちの目は、かなり据わっている。


 その据わった視線を感じて「深緑の守り手」たちの表情が思いっきり引きつるが、両クランへと注がれる声援はそれを後押しするように続いていく。



「東門からはガルド選手率いる「ガルキーパー」が現れたぁぁぁ! 本戦からは大トリを担う「ガルキーパー」ですが、はたして4回戦からも大トリを飾れるのか!?」


 

 実況の紹介を素直に受け止めきれないガルドたち。好き好んで大トリになっているわけではないと言いたいのだが、実際大トリを飾ってしまっていることは事実であるため、反論できなかった。


 そうして両クランが無事に入場し終わった。


 互いのクランがそれぞれに陣形を整えると、実況が叫んだ。



「さぁ、3回戦も締めの一番! 第16試合開始です!」



 実況の声と共に「深緑の守り手」と「ガルキーパー」の戦いは始まりを告げた。

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