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55話 逆転

部屋が暑い←汗

 圧勝で終わった第5試合。


 だが、それ以降の試合では、圧勝劇はなく、どの試合も一進一退の攻防を繰り広げていた。それは第6試合から第11試合まで変わらず、自ずと白熱した試合が続いた。


 そうして第11試合までが順調に消化し、残る試合もわずかとなった第12試合が始まりを告げた。


 第12試合は、バルド率いる「フルメタルボディズ」が出陣した。


 対するは、今大会唯一の生産職のみで組まれたチーム。その名は「ザ・ハンマーズ」だった。


 3回戦まで勝ち進んだとはいえ、「ザ・ジャスティス」所属の「聖剣」を打ち破り、快進撃を続ける「フルメタルボディズ」相手に生産職では相手にならない。


 そう試合前は誰もが思っていた。


 だが、その予想は大きく覆されることになった──。



「どっせい!」


 裂帛の気合いとともにハンマーが振るわれる。


 ハンマーと一口に言っても、通常のハンマーとは大きく異なっていた。


 まず、柄が非情に長い。柄だけで使い手の身の丈を大きく超えていた。


 それだけであれば、ある程度のSTRがあれば、誰でも使うことは可能だろう。


 しかし、そのハンマーの真の異質さはその先、長柄の先にあった。


 長柄の先、つまりハンマーヘッドにあたるそれは、通常のハンマーとは大きく異なっていた。


 基本的な形は、誰でも一度は見たことがあるであろう金槌と同じだ。


 金槌を人の丈よりも巨大化させたと言えば、想像はつきやすいだろう。


 要は巨大な金属の塊の中央に穴があり、その穴に柄と楔を打ち込んでいるということ。


 だが、それだけでは異質とは言えない。


 真に異質なのは、ハンマーの片側と楔にある。


 片側──打突部分はよく見る金槌そのもの。若干丸みを帯びた扁平な形をしている。


 それだけを見れば、超巨大な金槌という風に見える。


 しかし、その扁平な打突部分の逆側は、打突部分同様に若干丸みを帯びていた。丸みを帯びているものの、その部分で攻撃すれば斬撃可能なのではと思えるほどに先端は鋭利になっていた。


 打突部分と鋭利な逆側は、見ようによっては超巨大なネイルハンマーという風にも見える。鋭利な逆側はいわば、ネイルハンマーで言う釘抜きと捉えることも可能だった。


 だが、そこに楔が加わると、感想がまた変化することになる。


 なぜなら、ハンマーヘッドと柄を繋ぐ楔。その楔こそがそのハンマーにおいて、もっとも異質だからである。


 それは、本来楔と扱われるものではなかった。


 いや、それを楔にしようという発想自体、誰もがしないことであろう。


 なぜならそれは、楔として打ち込まれているそれは角だった。


 赤みを帯びた長い角。


 それが長柄とハンマーヘッドを繋ぐための楔として打ち込まれており、その楔部分だけでも槍として使えそうなほどに鋭利になっていた。


 つまり、そのハンマーはハンマーであるはずなのに、斬撃も刺突も行えるという「本当にハンマーなの?」と言わざるを得ない代物となっていた。


 むしろ、ハンマーというよりかは、ポールウェポン系と言った方が正しいのではないかと誰もが思うことであろう。


 もっと言えば、戟と言う方が正しいだろう。


 しかし、「EKO」において、その武器はハンマーとして成立してしまっていた。


 その名も「ビックネイルハンマー」である。


 たとえ、刺突可能な槍と思わしき楔部分があろうとも、運営的には「巨大なネイルハンマー」として認識されているということである。


 その理由は、ヘッド部分において打突部位が大半を占めているため。つまり楔部分がもっとも異質ではあるが、そもそも攻撃可能部位としてカウントされていないということだ。


 そして、この「ビッグネイルハンマー」は、EKではない。プレイヤーメイドの武器である。

 現在流通する金属において、もっとも強靱である魔鋼製の武器にして、「ザ・ハンマーズ」がここまで勝ち残ってきた理由でもある。


 本来、この「ビッグネイルハンマー」は通常のヒューマン種では扱うことができないほどの重量を誇る。STRとDEXの必要数値が30以上であるためだ。


 STRの数値だけであれば、ヒナギクも装備可能であるが、DEXの数値が足りていないため、ヒナギクでも装備は不可能である。


 タマモであれば、五尾の力を借りれば装備可能となるが、URランクのEK持ちであるため、わざわざプレイヤーメイドの武器を使う理由がないうえに、仮に使ったとしても「ビッグネイルハンマー」の重量のせいで、タマモの持ち味のひとつであるスピードが死ぬことになるため、二重の意味でタマモにも縁がない武器である。


 そんな「ビッグネイルハンマー」を「ザ・ハンマーズ」のメンバーは全員が装備していた。

 生産職であるため、DEXの数値を伸ばすのは当然であるが、それに加えて「ザ・ハンマーズ」のメンバーは全員がドワーフであるので、もともとSTRとDEXの数値が高かったことがメンバー全員が「ビッグネイルハンマー」を装備できた理由であった。


 とはいえ、たとえドワーフであったとしても、「ビッグネイルハンマー」のような質量武器を装備すれば、相対的にスピードは犠牲になる。


 だが、スピードを失ってもその圧倒的破壊力の前では微々たる欠点でしかなかった。彼らが3回戦にまで勝ち残ってきたこそがそのなによりもの証拠である。


 それでも、個人戦のダイタンやポンタッタ同様のネタ枠という扱いでしかない「ザ・ハンマーズ」では、「フルメタルボディズ」には敵わない。


 そう、誰もが思っていた。


 だが、現在、「フルメタルボディズ」対「ザ・ハンマーズ」の試合は、「ザ・ハンマーズ」が優勢に試合を進めていた。


 その理由は試合早々に「フルメタルボディズ」の司令塔であるサブマスターのロイドが戦闘不能においやられてしまったからだった。


 いつも通りに試合を進めようとしていたバルドたち「フルメタルボディズ」だったが、彼らの意表を衝くようにして、「ザ・ハンマーズ」は動いたのだ。


 なんと、試合開始早々に、全員が一斉に「ビッグネイルハンマー」を投擲したのだ。


 それもただ投げたわけではなく、ハンマー投げの如く全員がその場で回転してからの投擲だった。


 その投擲はすべてロイドに集中してしまった。


 さしものロイドもいきなりそんな奇襲を仕掛けてくるとは想定していなかった。


 加えて、いくらなんでもすべての投擲が自身に集中するわけがない。いくつかは見当違いな方へと飛んでいくと思っていた。


 だが、その油断が仇となり、すべての「ビッグネイルハンマー」の直撃をロイドは受けてしまった。


 全員が重装備の「フルメタルボディズ」と言えど、遠心力を加えられた質量兵器の弾幕の前には為す術なくHPバーを消し飛ばしてしまった。


 結果、「フルメタルボディズ」は早々に司令塔を失うという大ピンチに追いやられてしまったのである。


 それでもバルドを筆頭に残るメンバーでの逆襲を行い、いくらか盛り返すことができたのだが、現在「フルメタルボディズ」の人数はバルド含めて3人に対して、「ザ・ハンマーズ」は4人。「フルメタルボディズ」はいまだに人数不利な状況へと追いやられていた。



「エイリーク選手の振り下ろしが決まったぁぁぁぁぁ! バロン選手のHPバーは残り少ないぞぉぉぉぉ!」



 実況の白熱した声が響く。


 その内容の通り、「ザ・ハンマーズ」のひとりであるエイリークが「フルメタルボディズ」のバロンにと「ビッグネイルハンマー」を振り下ろし、その振り下ろしがバロンのHPバーを大きく削ったのだ。


「バロン!」


 バルドの切羽詰まった声が響く。バロンはいまのエイリークの攻撃によって「朦朧」を引き起こしてしまっていた。そこにエイリークがトドメとなる一撃を放った。


「舐めん、なよぉ!」

 

 だが、エイリークが攻撃を放つと同時に、バロンはエイリークのがら空きとなった胴体に攻撃を放った。それは見事にカウンターとして決まり、エイリークのHPバーを消し飛ばすことに成功した。


 だが、エイリークのHPは消し飛ばせたものの、すでにエイリークの攻撃は成立していた。結果、エイリークの最後の攻撃はバロンに直撃し、バロンの残り少ないHPを削りきってしまった。


 

「エイリーク選手とバロン選手相討ち! いまだ「フルメタルボディズ」の劣勢は続きます!」



 両者相討ちという形で倒れ伏したエイリークとバロン。痛み分けではあるが、展開はいまだに「フルメタルボディズ」の劣勢であることには変わりなかった。


 加えて、「フルメタルボディズ」は「ザ・ハンマーズ」に囲まれての波状攻撃を受けている。その波状攻撃にさしものバルドも防御に徹していた。


 試合開始前までは「フルメタルボディズ」の順当勝ちと思われていた第12試合。


 だが、蓋を開ければ、「フルメタルボディズ」の敗色は濃厚となりつつあった。


 エースでありマスターであるバルドのHPはまだ8割残っている。


 しかし、「ザ・ハンマーズ」の猛攻の前には、たとえ8割HPが残っていようと、風前の灯火としか言いようがない。


 その光景に、誰もが「フルメタルボディズ」の敗北を確信してしまっていた。


 当のバルドとそしてそんなバルドを応援するタマモ以外は。


「バルドさん! こんなところで負けるなんて、ボクは許さないですよ!」


 劣勢に陥るバルドたちへとタマモが声援を送る。


 その声援を聞いたほとんどのプレイヤーは「無茶を言うなよ」と思ったことであろう。


 だが、その声援を聞いてバルドは自身を奮い立たせていた。


「……たしかに。たしかになぁ。言ったよな。中ボスを無視すんなってな」


 それは1回戦終了後に、バルドがタマモにと言い放ったセリフであった。


 そのとき、バルドは言ったのは。


 一気にラスボスに向かうのは筋違いだと。


 中ボスを経るのが筋書き通りなのだと。


 みずから中ボスを名乗ることには、忸怩たるものはあったものの、壁として立ち塞がると決めたのだ。


 その壁が勇者と相対するまえに敗れ去る。それは到底受けいれられることではなかった。


 なによりも──。


「そんなの、カッコわりぃにもほどがあらぁなぁ!」


 ──そんなカッコ悪い結果なんて御免被る。


 バルドは叫んだ。叫びながら、背中合わせに立つ残るメンバーであるガイアにサインを送った。そのサインにガイアは頷くと、バルドと共に大きく踏み込んだ。


 ふたりが同時に踏み込んだ、そのとき。舞台が大きく揺れ動いた。


 それはバルドが「聖剣」のバルドスとの一騎討ちを制した要因の通称「謎ジャンプ」が行われたときと同じもの。


 その突如の揺れに「ザ・ハンマーズ」たちが動揺を示す中、それは起きた。バルドとガイアがともに宙を舞ったのである。



「ば、バルド選手だけではなく、今度はガイア選手もまさかのジャーンプ! いったい、ぜんたいこれはなんなんだぁぁぁぁぁぁ!?」



 バルドとガイアが揃っての「謎ジャンプ」を行う姿に、さしもの実況も驚愕を見せる。それは対戦相手である「ザ・ハンマーズ」の面々も同じで、彼らもまた言葉を失って、その光景を見つめていることしかできずにいた。


 そこにバルドとガイアの絶叫が響いた。


「合わせろ、ガイアぁぁぁぁ!」


「おうよぉぉぉぉ!」


 バルドとガイアの叫びが重なり合う。


 その声に「ザ・ハンマーズ」が我を取り戻すも、すでに時遅し。


「ザ・ハンマーズ」がいる舞台へと向けて、バルドとガイアの斧が揃って振り下ろされたのた。


「「喰らえ、「轟雷陣」!」」


 バルドとガイアの「轟雷断」の合体技である「轟雷陣」。正確に言えば、ガイアは「轟雷断」を放つことはできない。だが、バルドとともにであれば、擬似的に「轟雷断」を放てた。

 そうしてふたつの「轟雷断」の合体技でる「轟雷陣」が「ザ・ハンマーズ」を襲いかかった。


 その一撃は、バルドス戦のときのように舞台どころか、地面さえも砕いた。それが二重となって「ザ・ハンマーズ」に襲いかかったのだ。


「ビッグネイルハンマー」の重量のせいで、重装備ができなかった「ザ・ハンマーズ」では、その一撃に耐えきることはできず、3人いた「ザ・ハンマーズ」の面々は全員が揃ってHPバーを消し飛ばした。



「「ザ・ハンマーズ」全員の戦闘不能を確認いたしました。これにより、「フルメタルボディズ」の勝利といたします」



 淡々としたアナウンスが流れる。


 そのアナウンスに合わせてバルドとガイアはその手の斧を高々に掲げた。


 それに合わせて惜しみない拍手がふたりを包み込んだ。


 こうして敗色間際だった「フルメタルボディズ」は逆転勝利を掴んだのだった。 

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