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32話 最終段階突入

 ヒナギクとの特訓も無事に終わった直後、三人は資材置き場と化している畑脇の木材に腰掛けながら、穏やかな会話を交わしていた。


 休憩も兼ねたおしゃべりだったが、それぞれの話をしたいだけ行っていた。


 最近は特訓続きだったため、こうしてヒナギクとレンと腰を据えて話をすることがなかなかできなかったため、とても新鮮な気持ちになってタマモはふたりとの会話を楽しんでいた。


 会話の内容はタマモのことがほとんどだった。タマモと初めて会ったときのことや、いままでの頑張り、そしてタマモの問題ありすぎる趣味のことなどいろいろと話をしていた。


 その趣味の話も終わり、次に始まったのはこれまでの特訓の総括のようなものだった。


「しっかし、まだ二週間もあるのに、ここまで来たかぁ」


 レンが嬉しそうに笑っていた。この特訓を始めてそろそろ二週間ほどが経っていた。


「武闘大会」までもやはり二週間先だった。まだ半月。しかし半月前の自分とはまるで違うという自信がタマモにはあった。


「そうだねぇ。タマちゃんって意外と天才肌みたいだし。もっとも「調理」に関しては日進月歩だけども」


「あ、あははは」


 ヒナギクが意地悪そうに笑っていた。だが、言われたことは否定できない事実だった。


 実際なかなか「調理」技術は向上してくれない。こればかりは時間を掛けるしかないというのがヒナギクの考えであるし、タマモ自身すぐに技術が向上していないということも理解していた。


 なのでヒナギクになにを言われても否定できなかった。


「まぁ、レベルは変わっていないけれど、プレイヤースキルはだいぶ上がったことには変わりないな」


「そうだね、レン。いまのタマちゃんはトップレベルとまでは言えないけれど、「武闘大会」の参加者の中で最弱ではなくなったと思うよ。いままでは断トツで最弱だっただろうし」


「あ、あぅ」


 言われたい放題だが、実際間違いではなかった。いままでのタマモは取得経験値という問題がありレベルがまるで上がっていなかったうえに、まともに戦闘をこなしてこなかったこともあり、能力はもちろんプレイヤースキルも最低レベルだった。


 だが、ヒナギクとレンとの特訓により、プレイヤースキルはかなり改善された。


 レベルは変わっていないが、プレイヤースキルが向上したことでだいぶ不利な部分は減ったと言える。


 だがレベルが変わっていない以上、不利な部分があることには変わりなかった。


 言うなれば、いくらかましになった程度であり、「武闘大会」参加者の中でもタマモはまだ弱い部類に入るのだ。最弱から弱いにはなれたが、まだ強いわけではなかった。


「それでも半月でここまで来られたのであれば、たぶん大丈夫かな?」


「そうだね。たぶん耐えられると思うよ?」


 ヒナギクとレンはお互いにしかわらかないことを言っていた。タマモのことを話しているはずなのに、当のタマモを置いてけぼりにしている。なんとも言えない気分にタマモはなっていた。


「あ、あの? おふたりとも。なにを言って」


「うん? 最終段階に入ろうかって話だよ?」


「かなり厳しいけれど、いまのタマちゃんであれば乗り越えられると思うよ」


「さ、最終段階? かなり厳しい?」


 ふたりの言っている意味をすぐに理解することができなかったタマモ。


 厳しいもなにも、いままでの特訓自体がすでに厳しかったのだ。


 それを以てしてかなり厳しいと言うのだから。どれほどの難易度の特訓であるのかは窺い知れた。


「え、えっと。具体的にはなにを」


「え? 決まっているでしょう?」


「俺から始まって、ヒナギクと来れば、次は」


「私とレンの両方とってことだよ」


 ヒナギクとレンが笑った。それもとてもきれいな笑顔でだ。その笑顔にタマモの意識は軽く遠ざかった。


(ふ、ふたり同時ぃぃぃ!?)


 どう考えてもありえない。いままではまだ一対一の特訓というので理解できた。


 しかしなぜ二対一での特訓なんてしなければならないのだろうか? 


 どう考えても無理である。というよりも無謀極まりない。


 しかしヒナギクもレンもニコニコと笑うだけで取りやめるとは言ってくれない。言ってくれそうになかった。


「あ、あの、その、さすがにそれは無茶な」


「あとこれも装備してね?」


「タマちゃんのサイズに合うものを探してきたから」


 親指を立てて笑うヒナギクたち。そうしてふたりから渡されたのはフルフェイスの兜だった。


 顏のほぼすべてを覆う鉄製の兜。この下にフルプレートのアーマーを装備したら完全にタンクだった。


 だがタマモが渡されたのは兜だけであって、その下の装備は渡されてはいなかった。


「えっと? これを装備、ですか? ボクはタンクをするってことですか?」


「ううん、違うよ? その兜だけを装備するの」


「な、なぜに?」


「なんでも。ほらほら装備して、装備して」


 ヒナギクに促されるままにタマモは渡された兜を装備した。


(う、うわぁ。なんですか、この視界のなさは)


 いままで正面のほぼすべてを見られていたのに、いまは兜に空いたわずかな隙間からしか物を見ることができなくなってしまっていた。


 そのうえ鉄で覆われたことで音が聞き取りづらい。視界と聴覚をいきなり奪われてしまったような感覚にタマモはなっていた。


「こ、これじゃまともに動くのでさえもやっとですよ?」


「だろうね。でも、これからタマちゃんにはこれで生活してもらうからね?」


「……はい?」


「俺とヒナギクとの特訓だけじゃなく、ログインからログアウトするまでの間はずっとそれで過ごしてもらうよ」


「は、はぃぃぃ!?」


 ヒナギクとレンがとんでもないことを言い出した。こんな兜を付けたまま、生活しろなんてどう考えておかしいだろう。そもそもファッションセンスがなさすぎるとしか言いようがない。


 だがヒナギクもレンもそろって本気のようだった。


「それじゃ始めようか」


「そうだね、頑張ろうか、タマちゃん」


「ちょ、ちょっと待って。待ってください、ヒナギクさん、レンさん!?」


 木材から立ち上がるヒナギクとレン。しかしふたりはニコニコと笑ってタマモを連行していく。


 タマモがどんなに踏ん張ろうとしてもSTRの差によってどうすることもできなかった。


 どうすることもできないまま、タマモはヒナギクが作りだした特訓用のスペースにまで連行されてしまった。


「じゃあ、いっくよー?」


「頑張ってね、タマちゃん」


「ま、待って。待ってくださいぃぃぃ!?」


 タマモの悲鳴が上がる。しかしふたりはその悲鳴をまるっと無視して特訓を開始した。


 その日タマモの畑からはそれまで同様に、いや、それまで以上に悲鳴が上がり続けることになったのは言うまでもない。

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