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37話 頑強と聖剣

 ローズたち「紅華」はかなり一方的な試合だった。


 それこそ「虐め」と言う言葉がこれ以上となく似合う試合展開だったが、それでも今大会における最速勝利を記録したこともあり、会場は大いに盛り上がることになった。


 そんなひとつ前の試合とは異なり、現在の試合「フルメタルボディズ」対PKKのクランである「ザ・ジャスティス」が誇る最高幹部のひとりバルドスが率いる「聖剣」のぶつかり合いは、一進一退の攻防と化し、ひとつ前の試合とは異なる形で会場を盛り上げている、


「ブレイズぅ、ブレイドぉぉぉぉ!」


「聖剣」のリーダーであるバルドスが大剣の武術である「ブレイズブレイド」、「ブレイズソード」が進化した武術をバルドへと向けて放った。


 その「ブレイズブレイド」をバルドは自慢の大盾を以て防いでいた。


 しかし、さしものバルドと言えど、バルドスの渾身の一撃を防ぐことはできても追撃を仕掛ける余裕まではない。その証拠にバルドは大盾を両手で持ち、鉄壁の防御でバルドスとの対峙を行っていた。


「バルドス選手の「ブレイズブレイド」が放たれるも、バルド選手の必死の防御が抑え込むぅぅぅ! 名前がそっくりなだけあって、戦力も互角なのかぁぁぁぁ!?」


 実況が叫ぶ。その内容に笑わされてしまう観客もそれなりにいたようだが、ほとんどの観客はバルドスとバルドの一騎討ちを固唾を飲んで見守っている。


 そう、「フルメタルボディズ」と「聖剣」の試合は、マスター同士の一騎討ちとなっていた。


 今大会において、クラン部門での一騎討ちはほとんど見かけられなかった。前大会でもわずかに見受けられはしたものの、今大会ではこの試合まで一騎討ちはなかった。


 あえて言えば、本戦1回戦でタマモとバルドがそれぞれ相手クランにひとりで戦いを挑んだ程度。とはいえ、それを一騎討ちとは普通は言わないが、ある意味一騎討ちと言えなくもないものだった。


 しかし、現試合はまさにスタンダードな一騎討ちであった。


 それもトッププレイヤー同士の行う一騎討ち。


 バルドもバルドスもそれぞれに重装備ではあるものの、その仕様は異なっていた。


 バルドスは一撃必殺の大剣を軸に戦闘を組み立てるのに対して、バルドは鉄壁の大盾で相手の一撃を防ぐのが基本スタイル。


 同じ重装備であるものの、その戦闘スタイルはまるで異なっていた。互いに狙い澄ました一撃を放てるという面では同じだが、それ以外はまるで違っている。


 ある意味では、両極にあるとも言えるふたりの戦いは自然と長引いていた。


「ふぅ、ここまでやっていまだにクリーンヒットはなし、か。さすがは「頑強なるバルド」とまで謳われた御仁だ」


 バルドの大盾に大剣で斬りかかりながら、バルドスは口元に笑みを浮かべていた。その目には侮りの色はなく、心の底からの称賛をバルドへと送っている。それはバルドスだけではなく、対峙しているバルドもまた同じ。


「はっ、それはこっちのセリフだよ。これだけ防いだってのに、まだ気持ちが折れていない

どころか、次々にいままで以上の一撃を叩き込んでくるんだからな。さすがだぜ、「聖剣のバルドス」さんよぉ」


 バルドスの言葉にバルドは不敵な笑みを浮かべながら返答する。


 バルドの鉄壁の防御を前にしたら、大抵のプレイヤーは心がぽっきりと折れてしまう。特にバルドスのように攻撃特化のプレイヤーであれば、一撃必殺の大火力を自慢とするプレイヤーであればあるほど、バルドの鉄壁に屈してしまうものだ。


 だが、バルドスは屈するどころか、まるで駆り立てられるかのように、バルドの大盾にと攻撃を仕掛けていた。


 時には高笑いをしながら、バルドの大盾に大剣の一撃を打ち付けていた。まるでバルドのような鉄壁の防御を持つプレイヤーとの戦いを待ち望んでいたかのようにである。


 高笑いするところだけを見れば、バルドスが圧倒しているようにも見えるが、実際の所は一進一退の攻防を繰り広げていた。


 バルドスがどんな攻撃を放とうとも、バルドは一切後退しないどころか、その攻撃を完全に抑え込んでいた。それでもバルドスは何事もなかったかのように大剣を振り下ろす。


 大盾と大剣。


 どちらも相当の質量を誇る金属の塊同士のぶつかり合いは、自ずと白熱し、観客席さえも巻き込んでいた。


「堪えろぉぉぉぉぉ、「頑強なる」ぅぅぅぅぅ! 「聖剣」をうちまかしてくれぇぇぇぇぇ! 全財産あんたに賭けているんだよぉぉぉぉぉ!」


「そこだぁぁぁぁぁ、「聖剣」の旦那ぁぁぁぁぁぁ! 「頑強なる」の鉄壁を打ち破って、大金くれぇぇぇぇぇぇ!」


 ……なお、一部の観客は投票権を握りしめながら、目を血走らせて叫んでいるのだが、その手の輩がなかなかに多いのがなんとも言えない。まるで競馬などの競技場の光景のようである。そのうち、「差せぇぇぇぇぇ」と叫ぶ観客が出てきそうでもある。


 そんな別の意味での熱い声援が飛び交う一方、ちゃんとした声援も飛び交っていた。


「バルドス! 打ち勝て!」


 観客席の最前席でバルドスへの声援を送るプレイヤーがいた。彼の名はクルス。バルドスと同じく「ザ・ジャスティス」の最高幹部にして「疾風」のリーダーであり、前大会でバルドスと予選でぶつかり合い、惜しくも敗北を喫したプレイヤーである。


「俺の猛攻を受け凌いできたんだ! 「頑強なるバルド」が相手でも絶対に打ち勝てる!」


 クルスの声援がバルドスへと飛ぶ。その声援を受けて、バルドスは「応!」と叫び返した。

 一方バルドはと言うと──。


「堪えろ、バルド! 中ボスって言うんだったら、こんなところで負けんじゃない!」


 ──ローズからの声援を受けていた。いや、ローズだけじゃない。リップたち他の「紅華」の面々ももちろん、タマモたち「フィオーレ」の声援もその背中に受けていた。なによりもバルドを奮い立たせるのは──。


「ボクと戦う前に負けないでください、バルドさん!」


 ──バルドの獲物であり、バルド曰く「ライバル」であるタマモからの声援だった。


 その声援を受けたバルドは「はっ!」と短い笑い声をあげると──。


「言ってくれるねぇ! 「聖剣」の旦那には悪いが、ここで負けてなんかいられねえよなぁ!」


 ──獣のような獰猛な笑みを浮かべた。そしてバルドは現在の膠着した展開を打破する一手を打った。それは──。


「貸して貰うぜ、タマモちゃん! シールドバッシュぅぅぅぅ!」


 ──タマモお得意の変則シールドバッシュのひとつであるゼロ距離からのシールドバッシュだった。


「バルド選手のゼロ距離シールドバッシュが決まったぁぁぁぁ!」


 タマモのそれよりもバルドのシールドバッシュはスピードという点では劣る。しかし威力と破壊力という点においては、タマモ版を大きく上回っていた。


 その一撃をバルドスは直撃を受け、大きく仰け反り、後退を余儀なくされた。その体勢は大きく崩れており、バルドスは地面に膝に着いてしまっていた。誰がどう見てもチャンスである。


 その千載一遇の機会を逃すバルドではなかった。


「もういっちょぉぉぉ! シールド、バッシュぅぅぅ!」


 追撃のシールドバッシュをバルドは放った。バルドスの体勢は崩れたまま。


「バルド選手の追撃のシールドバッシュぅぅぅ! バルドス選手、絶体絶命のぴぃぃぃんち!」


 いまにも身を乗り出していそうなほどの熱い実況だが、そうなるのも無理がないほどにバルドとバルドスの一騎討ちは佳境であった。そしてどちらが優勢であるのかはもはや火を見るよりも明らか。


 誰もがこれで決まりかと思った、そのとき。


「いまだ! バルドス! 決めろぉぉぉぉ!」


 クルスがバルドスにそれまで以上の声援を送った。その声援を受けたバルドスは「応!」と再び力強い返事をする。


「ここまで追い込まれるとはな。だが、負けるわけにはいかぬのだ!」


 バルドスが崩れた体勢のまま、その手にある大剣を斜めに構えていく。それは剣道における脇構えだった。その構えからバルドスは起死回生となる一撃を放った。


「受けよ! 我が一撃! 極一文!」


 バルドスが放ったのは大剣の武術のひとつであり、剣の武術である「横一文字」と同系統の一撃である「極一文」──大剣版の抜刀術とも言える武術であった。抜刀術が鞘走りが重要であるように、本来なら「極一文」も鞘からの抜刀が基本となる。


 しかし、バルドスはその基本を無視して、STR任せで強引に発動したのだ。基本を無視しての発動であるため、その速度も威力も本来のものよりも数段は落ちる。


 だが、勝利を確信していたバルドを強襲するには、バルドのシールドバッシュよりも早く攻撃を当てることはできる。


「こ、これはバルドス選手のカウンターです! バルドス選手の起死回生の一撃が放たれましたぁぁぁ! 掬い上げるようにして放たれた一撃はどうあっても回避できません! まさかのどんでん返しですぅぅぅ!」


「極一文」が放たれたことにより、体勢有利だったバルドは文字通りのカウンターを受けることになる。実況もこのカウンターを避けることはできないと豪語するほど、そのタイミングは完璧だった。


 どうあっても直撃する。後はカウンターのダメージがどれほどのものになるかでこの試合の勝者が決まると誰もが思った。「極一文」を放ったバルドスもその後の展開をどうするべきかでその思考を埋めていた。


 だが、その予定調和とも言える流れを否定するものがいた。ほからぬバルド自身だった。


 バルドは再び笑ったのだ。そして叫んだ。


「使わせてもらいますぜぇ、師匠ぉ!」


 バルドが叫ぶと同時に、その足がズンと深く沈んだのだ。震動を伴って沈んだバルド。その次の瞬間、バルドの体は宙を舞った。バルドスの一撃で宙を舞ったのではなく、バルドスの一撃よりも早くその身を宙に舞い、バルドスの起死回生の一撃を回避したのだ。


「ば、バルド選手が、と、と、跳んだぁぁぁぁぁ!? ちょっと、これ、ど、どうなっているんですかぁぁぁぁぁ!?」


 それは重武装では決してありえない光景。誰もが唖然とした。運営チームの一因である実況さえも理解不能な光景。その光景に対戦相手であるバルドスも「バカ、な!?」と目を見開いて驚愕していた。が、それは完全な悪手であった。


 バルドは空中を舞いつつも、その手には斧が握られている。守りの要であった大盾を捨て、その大盾に納められていた斧を、バルドは両手で握りしめながら振りかぶっていた。


「バルドス! 防げぇぇぇ!」


 クルスの絶叫にバルドスもようやく現状に気づき、迎撃を選ぶも時すでに遅しだった。


「いっくぜぇぇぇ、轟・雷・断!」


 バルドの奥の手である「轟雷断」がバルドスへと放たれた。バルドスは「轟雷断」を防ぐことも回避することもできなかった。


「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 バルドスの重武装をバルドの斧が蹂躙していく。バルドの雄叫びとバルドスの絶叫がこだまし、ほどなくしてバルドスのHPバーが砕け散り、バルドスは力なく倒れ伏し、バルドは天を仰ぐようにして肩を上気させている。


「き、決まったぁぁぁぁぁぁーっ! バルド選手の奥の手「轟雷断」が直撃ぃぃぃぃぃ! 重装備同士のトッププレイヤーの一騎討ちは「頑強なるバルド」が制したぁぁぁぁぁぁ!」


 渾身の実況が響き渡る。


 観客席は阿鼻叫喚とするもの、涙を堪えるものと様々な反応を示すも、大多数は万雷の拍手でバルドの勝利を祝っていた。


 バルドは天を仰ぎながら、荒く激しい呼吸を繰り返していたが、その手にある斧をバルドは高々と掲げた。同時にそれまで以上の喝采がバルドを包み込んだ。


 その喝采に応じるようにバルドは吼えた。


 腹の底から声を出すようにして、バルドの咆哮が舞台上でこだましていく。


 こうして「フルメタルボディズ」対「聖剣」、いや、バルドとバルドスの重武装のトッププレイヤー同士の決戦はバルドにと軍配が上がり、「フルメタルボディズ」は3回戦の進出を決めたのだった。

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