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23話 極炎毛

 そこはまるで地獄の顕現とも言える場所だった。


 至るところには灼熱という言葉でさえ生ぬるいほどの、超高温の溶岩が流れている。


 その影響からか、溶岩から離れていても地面は赤熱していた。赤熱化した影響からか周囲の温度は自然と高くなっていた。


 そのうえ、日の光さえ届かない地下だからか、全体的には薄暗い。溶岩が流れている箇所だけは明るいが、溶岩から離れているとほとんどなにも見えないほどに暗かった。


 閉所での戦闘を余儀なくされる「紅き古塔」から一転し、タマモたちは焦炎王の居城の地底火山にと赴いていた。


 その地底火山の一角、焦炎王が玉座代わりにしている大岩。かつてレンが消滅させてしまったものの代わりとして新たに用意された大岩の下でタマモたちは、ユキナの新装備のため素材を得に素材元であるフェニックスとの対話を行っていた。


「私の産毛、ですか?」


 フェニックスは久しぶりに顔を合わせたタマモたちからの思わぬ言葉に、唖然としながらもその話を聞いてくれていた。


 対するタマモたちは神妙な顔つきで頷きながら、「とこしえの産毛」を譲ってもらための交渉を行っていた。産毛とはいえ、フェニックスの体の一部だ。その一部を欲するのであれば、当然相手の体が採取する必要がある。


 とはいえ、相手は対話可能な相手だ。通常のモンスターからの採取とは違い、交渉の余地がある。それも素材は相手の命と引き換えというものではなく、生え替わりでいくらでも採取できるものだ。わざわざ戦闘を行う必要はない。そもそも戦闘を仕掛けてもいまのタマモたちでも勝てる見込みが一切ない相手であるので、交渉は当然と言えるだろうが。


「私の産毛ねぇ」


「譲っていただけますか?」


「ん~」


「ダメ、ですか?」


「いや、そういうわけでもないんですけど」


 フェニックスとの交渉は、あまり順調とは言えなかった。


 というのも、当のフェニックスがあまり乗り気ではない態度であるからだ。


 やはり産毛とはいえ、自身の体から採取されるのはあまり好ましくないのだろう。


 それでもユキナの装備のためには「とこしえの産毛」は必要な素材である。


 どうにかフェニックスを説き伏せねばならない。


 タマモたちはいくらか前のめりになりつつも、フェニックスとの交渉に挑もうとしていた。

「……フェニックスよ」


「なんでしょう? 我が主」


「産毛くらい、いくらでもくれてやればよかろう? 別におまえの命をよこせと言われているわけではなく、生え替わりでいくらでも採取できるものではないか。ならそう邪険にせず、さっさとくれてやればよかろうに」


 あまり乗り気ではないフェニックスとの交渉に挑もうとするタマモたちを哀れんだのか、焦炎王が口利きをしてくれたのだ。


 さしものフェニックスも主である焦炎王の言葉に「邪険にしたつもりはないんですけどねぇ」とあまり乗り気ではなかった姿勢を改めていた。


「そもそも、なんでそんなに乗り気ではないのだ?」


「いや、まぁ、乗り気ではないと言うか。ちょっと意味がわからないと言いますか」


「意味がわからない?」


 姿勢を改めたフェニックスに、そもそもなんで乗り気ではないのかと焦炎王が尋ねると、フェニックスは苦笑いしつつその理由を口にした。その理由は「意味がわからない」というもので、その返答にタマモはふたりの会話につい口を挟んでしまう。


 だが、フェニックスも焦炎王も気にした素振りは見せなかった。それどころか、穏やかな笑みをそれぞれに浮かべていた。


「えぇ。ちょっと勘違いしてしまうような態度になってしまいましたけど、正確に言わせていただきますと、タマモ殿たちの要求は私には意味がわからないものだったのですよ」


「どういうことでしょうか?」


「いや、だって、私の産毛なんてなにに使うんですか? こんなものでよければいくらでもお渡しできますけど」


 そう言って、フェニックスは身に付けていたローブの一部を何気ない仕草で毟り取った。毟り取られたローブの切れ端は、見る間に産毛にと変化していた。その産毛を見てタマモたちの目の色が変わっていく。その様子に焦炎王もフェニックスも苦笑いを見せていく。


「……こんなもの、私にとってはいくらでも用意できるものなんですけどねぇ。なにに使うと言うのやら」


「それはそこの娘っ子の装備にじゃろ。タマモたちと揃いのものを用意するために、おまえの産毛が欲しいのじゃろうよ」


「あぁ、そういうことですか。でしたらもっといいものをお渡ししましょうかね」


 そう言うやいなや、フェニックスは手に持っていた産毛を手放すと、ふっと息を吹きかける。吹きかけられた産毛は瞬く間に燃え尽きてしまった。燃え尽きた産毛にタマモたちは「あぁ!」と目を見開いて残念がる。そんなタマモたちの姿を楽しそうにニコニコと見守るフェニックス。


「……このアホ鳥は本当に」


 自身の眷属の長の所業に、焦炎王は頭を抱えていた。いくらでも用意できるものとはいえ、それを欲している相手の前でその欲するものを燃やすというのは、どう好意的に捉えても鬼畜の所業である。


 どうしてこいつはこんないい性格をしているのだろうかと焦炎王はため息を吐いた。そんな主の葛藤をよそにフェニックスはニコニコと笑いつつ、自身の長い髪をそっと掴み、おもむろに一本引き抜いた。


 引き抜かれた髪は、見る間にひとつの大きな羽毛へと変わった。それは極彩色の羽毛だった。どう見ても「とこしえの産毛」よりも格上である。


 そんな羽毛をフェニックスはそっとタマモたちに手渡した。


「はい、産毛の代わりにこちらを進呈しますよ」


 フェニックスに手渡された極彩色の羽毛を、「あ、どうも」と頷きながら受け取るタマモ。 

 そうして受け取った羽毛を何気なく鑑定すると──。



 とこしえの極炎毛


 レア度25


 品質S


 不死なる鳥王の羽毛の中でも、特に品質がよいものの総称。その炎の力は身から離れてもなお息づいている。



 ──またもやトンデモアイテムだった。


 あまりのレア度に開いた口が塞がらないタマモたち。その様子にニコニコと笑うフェニックス。本当にいい性格をしているよなぁ、こいつと焦炎王はフェニックスの様子に呆れている。


 だが、タマモたちにしてみれば、「産毛」で十分だったというのに、それ以上の素材を貰ってしまったのだ。開いた口が塞がらなくなるのも無理からぬこと。


「こ、これ、本当に貰っていいんですか?」


 恐る恐るとフェニックスに尋ねるタマモ。そんなタマモにフェニックスは「ええ、もちろん」と頷いていた。


「どうせなら、それでいまの装備を新調されてくださいな。少なくともいまの装備を強化することは可能でしょう。いや、強化するならもうひとつあげますね」


 そうやいなや、フェニックスは自身の髪の毛をもう一本引き抜くと、それも手渡してきた。手渡された髪の毛は「とこしえの極炎毛」にと変わった。レア度も品質も同じものだった。


 あまりの展開に再び開いた口が塞がらなくなるタマモたち。対してフェニックスは相変わらずの笑みを浮かべていた。そんな目の前の光景に肩を竦める焦炎王。


「これでタマモ殿たちの装備とそちらのお嬢さんの装備の両方を拵えることができるでしょう。ですが、そうですねぇ」


 いまだ衝撃が抜けていないタマモたちにと穏やかな笑みを浮かべていたフェニックスだが、なにか考える素振りを見せた。これ以上なにがあるのだろうかと戦々恐々とするタマモたち。そんなタマモたちにフェニックスが続けたのは──。


「どうせなら私と同格の相手から素材を貰って、組み合わせるというのも面白そうですよねぇ」


 ──という、「なに言ってんの、この人」と言いたくなるものだった。


 実際、タマモたちにとって「この人なにを言い出してんだ?」としか思えなかった。


 だが、フェニックスはタマモたちの視線を浴びても、気にも留めず焦炎王を見やると──。

「というわけですので、我が主。どちらの方がよろしいですかね?」


「……そうさなぁ。おまえとの相性を考えると、ちび助の方がよかろうて」


「あぁ、なるほど。彼の方の眷属の方が私との相性もいいですね。長様の方はどちらかと言えば、イム美さんの方ですし」


「じゃな。というわけで、行くか」


 ──よくわからない会話をはじめるふたり。なにを言っているんだろうと思っていたタマモたちだったが、不意に大岩から降りた焦炎王がタマモたちの側にと赴くと、魔法陣を描いたのだ。


 あまりの展開の速さになにがどうなっているのか理解できないタマモたち。


 だが、焦炎王もフェニックスもタマモたちの困惑をまるっと無視していた。


「では、行ってくる」


「はい、お帰りをお待ちしておりますね」


「うむ」


 焦炎王がフェニックスに声を掛け、フェニックスが恭しくカーテンシーを行った。その次の瞬間にはタマモたちの視界はふっと一転し──。


「よし、到着じゃな」


 灼熱地獄を思わせるような地底火山から、強い日差しと一面の砂の海、そして──。


「……来るなら来るで一報くらいくださいよ、姐さん」


 ──貫頭衣のような衣裳を身につけた、呆れ顔の少年と対面することになったのだった。

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