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19話 レンのやらかし

「EKの特殊進化」についてを読み終えた「フィオーレ」の面々。


「EK」のランク帯による性能差という、「EKO」における命題に関しての運営からの答えは、タマモたちは一定の納得ができるものだった。


 とはいえ、タマモたち3人の「EK」はSSR以上であるため、「特殊進化」についてはほぼ関係がない。関係があるのは、この場ではユキナだけ。そのユキナにしても「……こんなところですよね」と「特殊進化」の内容については納得していた。


 Rランク以下の「EK」の所持者にとっての救済策であり、「EK」のランク帯格差を埋めるための是正策でもあるが、あまり下位ランクの所持者だけに対策をすると、上位ランクの所持者からの反発もある。


 かといって、下位ランクの所持者を切り捨てるということは、運営の立場からはするべきではない。


 ゆえに、今回の「特殊進化」という一手が打たれた。


 その内容は、どのランク帯の所持者から見ても、一応の理解を示せるものだった。


 現にユキナ本人が今回の内容については納得を示している。


 おそらくはほかの低ランク帯の所持者もまた納得していることだろう。


 というか、これ以上は「優遇しすぎ」になるとも思っているはずだ。


 中には「もうちょっとなんとかならなかったかなぁ」と言うプレイヤーもいるだろうが、大多数が納得や理解を示す中で、一定数は不満を抱く者というのはどうしても生じるものだ。

 今回の「特殊進化」についても変わらないが、いまはそれは割愛する。


「ユキナちゃん。使い勝手を確かめる?」


 最初に口を開いたのはヒナギクだ。


 ユキナの手にあるSSRランクへと進化した「ブレス」を指差した。


 ユキナは指差された自身の「EK」を手に取り、じっと見つめながら、「できることなら」と小さく呟いた。


 なんだかんだでゲームを始めてからずっと使い続けてきた自身の「EK」が、どのように進化したのかが気にならないわけがなかった。


 それもRランクから一気にSSRランクへと進化したのだ。使い勝手がどれほどに変化したのを確認したいと思うのも無理からぬこと。


 そしてそれはタマモたちも同じだ。


 ヒナギクはそこまでではないものの、「EKO」というゲームにのめり込んでいるゲーマーであることには変わりない。そのゲーマーに新要素というものを目の前に突き付ければ、飛びつかないわけがないのだ。


 たとえ、自分たちにはあまり関係がないことであっても、「新要素」という魅力ある単語に抗うことはできないのだ。


「じゃあ、早速ボス戦でと言いたいところだけど、もう何連戦目ってところだからなぁ」


 ボス戦で試し切りと言おうとしていたレンだが、すでにレッドタイガーを何回マラソンしたかもわからない。慣れ親しんだという言葉でさえも、無理があるほどにマラソンしているのだ。


 そろそろ別の刺激を求めたい。そうレンが思うのも無理もない。


 それはレンだけではなく、タマモとヒナギク、さらには当人であるユキナもまた同じだ。


 すでにレッドタイガーの動きは全員が見切っており、どう動けばダメージを負わされることもなく戦えるのかという状態にまで至っている。もっともユキナのEKを進化させるために、わざと攻撃を食らってユキナに回復してもらうというサイクルをしていたため、実際にはノーダメージで戦闘を終わらせたことはない。


 だが、それでもノーダメージで完封するにはどうすればいいかくらいはわかるほどには連戦していたのだ。実際、連戦終盤では最後に1回わざと攻撃を食らうまでレッドタイガーを封じ込めることができるようになっていた。ユキナのレベリングのためにわざと攻撃を食らっていたが、そのまま完封することは十分に可能である。


 だからこそ、そろそろ次の獲物というか、別の強敵と戦いたいと思うのも無理からぬことだった。


「……そうですね。そろそろ次のエリアに向かうのもありかもです」


「たしかにね。考えてみれば、レンを除いて私たちずっと初期エリアにいたもんね」


「ええ。だから、そろそろ頃合いかもです。北の第二都市に向かうのもありかなぁと思いますし」


「たしか「ベルス」だっけ? 工業都市って話だったけど」


 ちらりとヒナギクがレンを見やる。レンは得意げに「ああ」と頷いた。頷きながら「……ん?」となにか引っかかるのか、怪訝そうな顔をするレン。そんなレンの様子にタマモたちは一斉に首を傾げる。なにかあったのだろうかと。


 当のレンは「なにか忘れているような」と顎に手を当てて考えていた。考えることしばらく、レンは「あ」と愕然としたような顔になり、真っ青な顔をし始める。


 レンの様子にタマモとヒナギクは「こいつ、またなにかやらしかしていたな」と若干呆れ顔になる。ユキナはただ困惑するだけであったが、タマモたちの反応からレンがなにかをやらかしたことは理解できた。


 そうして自身以外の全員に「やからし」を理解されてしまっていたレンは、震える声でその内容を告げる。


「……仲良くなった職人さんが、いまの「不死鳥シリーズ」を作ってくれた職人さんがいるんだけどさ」


「うん」


「……うちのクランのお抱えになりたいって言われていたんだけど」


「……それ、ボク聞いたことないですね」


「うん、言うの忘れていた」


「……あんたって、本当にさ、バカなの?」


 たっぷりと時間を掛けてヒナギクは笑みを浮かべながら言い捨てる。


 その言葉に反論できないのか、レンはそっと顔を逸らすのみ。そんなレンの顔に向かってヒナギクの手がゆっくりと伸びていく。


 直後、その場になんとも言えない悲鳴がこだますることになるが、その発生源がなんであるのかは言うまでもないことであろう。ある意味お家芸とも言えることだった。


「……はぁ、まぁ、そういうことなら「ベルス」に行きましょうかね」


「そうだね。どこかのバカがやらかしていたことだし、その職人さんにも話を付けておくべきだもんね」


「そうですね。ついでにオーバージャケットをもう1着作ってもらえないかを確かめるとしましょうか」


「あぁ、そっか。そうだね」


 こだましていた悲鳴がやみ、「ベルス」に向かうことを決めたタマモたち。レンのやらかしの後始末もあるが、加えて仲間はずれのようになってしまっているユキナのために、オーバージャケットだけでもいいから調達してあげたかったためである。


 現在のユキナは武闘大会が始まって間もなく、タマモがプレゼントした「支援者」シリーズを装備しているものの、同じ「フィオーレ」のメンバーだというのに、ひとりだけ「不死鳥」シリーズを身に付けていない。


 ユキナ本人は気にしていないだろうが、それでも仲間はずれ感は否めなかった。


 ユキナもすでに「フィオーレ」の一員なのだ。


 であれば、同じ「不死鳥」シリーズを身に付けて統一感を出すべきである。


 可能であれば、「不死鳥」シリーズから新しい装備に更新できればいいが、さすがに新しい素材など手に入れていないので望み薄だろうが。


 だが、一番の理由はレンのやらかしの後始末のためである。その当の本人はヒナギクの手の中でぐったりとしているが。


「あ、あの、ヒナギクお姉ちゃん」


「あぁ、装備の代金に関しては気にしないでいいよ?」


「いや、そういうことじゃなくて」


「うん?」


「……えっと、その」


「まぁ、とりあえず行きましょうか」


「そうだね。行こっか」


「え? でも、えっと」


「ほらほら、早く行くよ、ユキナちゃん」


「え、あ、待ってください」


 ヒナギクの手の中でぐったりとしているレンがまるで見えていないかのように振る舞うタマモとヒナギク。そんなふたりに引き気味になりながらも、ユキナはふたりの後を追いかけていく。男性が引きずられていくというホラー的な光景をあえて見ないようにしながら。


 そうしてタマモたち「フィオーレ」は、北の第二都市「ベルス」へと向かうことになったのだった。

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