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18話 特殊進化の概要

「──特殊進化?」


 それは誰が呟いた一言だったのか。


 たっぷりと時間を掛けてから、誰かが呟いた一言だった。


 目の前にはレッドタイガーのドロップアイテムが置かれているものの、その場にいた「フィオーレ」の面々は、ただただ呆然となっていた。


 レッドタイガーのドロップアイテムに激レアが混ざっていたということではない。


 レッドタイガー戦の後に起きた現象に対しての反応だった。


 そしてそれはより加速していく。



「特定プレイヤーが条件を満たしましたことにより、「EKの特殊進化」がアンロックされました。詳細はTipsにて確認をお願いいたします」



 不意にワールドアナウンスが流れていく。


 ユキナのEKが特殊進化してから、それなりに時間が経ってからのワールドアナウンスだったが、現在の「EKO」の状況を踏まえると納得できることである。


 現在の「EKO」は「武闘大会」の最中である。


 当然現在も試合は行われている。


 だが、その試合の真っ最中にいきなりワールドアナウンスなんて流れてしまえば、そっちに気が向いてしまうというプレイヤーもいるだろう。


 下手をすれば、そのせいで負けてしまったというプレイヤーも中にはいるかもしれないし、タマモたちのようにボスと対峙しているときに気が逸れてしまい、その結果というプレイヤーもいるかもしれない。


 どういう結果にせよ、事故が起きる可能性が大いにあることだった。


 となれば、それらの状況が起きない状態まで待ってからワールドアナウンスを流したのだろう。


 そう考えれば、タイムラグにしてはあまりにも長すぎる時間の理由もわかるというものだった。


 まぁ、どういう理由があるにせよ、タマモたちにはさほど関係のないことであった。


 タイムラグに関してはさっくりと「そういうところだろうなぁ」と考えてから、タマモたちは一斉にメニューから「Tips」の項目を、ご丁寧に「New」と表示されている「Tips」を選択した。


「……「EKの特殊進化」について。これか」


 真っ先に「Tips」の確認をしたのはレンである。


 レンに続いてほかの3人もそれぞれに確認を始める。一番遅かったのは当のユキナであるが、無理もないことだ。


 なにせ、Rランクだった自身の杖がいきなりSSRランクに特殊進化するなんて状況に陥ったのだ。


 状況への理解がおいつけなくなるというのも無理からぬことだ。


 ただ状況への理解はいまだに追いつけていないものの、「Tips」内の項目を一番食い入るように見つめているのもユキナである。


 そんなユキナの姿に、タマモたちはそれぞれに微笑みを浮かべつつ、「特殊進化」の項目を読み進めていった。


「特殊進化」の概要としては以下のものとなる。


 1:Rランク以下のEKであること。


 2:進化ごとに特殊進化の発生の抽選が行われること。


 3:一度特殊進化したEKは以後特殊進化はしないこと。


 4:元のランクから2ランクアップすること。


 5:ランクアップしても、元々のランク帯のものにはいくらか劣ること。


 以上の5点が「特殊進化」の概要であった。


 一つ目のRランク以下のEKのみが「特殊進化」を果たせることは、Rランク以下のEKの持ち主にとっては福音とも呼べることだろう。


「ともに成長する」といううたい文句である「EK」だが、その能力はランクによって定められている。どれほど高性能だったとしても、CランクがUCランクに勝るということはない。絶対的な序列が「EK」には存在している。


 その序列を下位ランクのEKの所持者は、痛いほどに理解している。だが、今回の「特殊進化」のアンロックが、その序列を覆すための一手となったのだ。


 事実上の救済措置と言えるだろう。


 2つめの「特殊進化」の発生が進化ごとに行われるというのもまた救済と言える。


「EK」の進化は所持者のレベルが5から行える。レベル5であれば、レベル5×100回使用するという条件になるのだが、これは低ランクのEKほど条件を満たしやすい。


 というのも、タマモのような例外を除くと、基本的にEKはランクが上がれば上がるほど、高性能になっていく。


 たとえば、剣という括りであれば、レンの持つ「ミカヅチ」とCランクの「粗鉄の剣」だと当然「ミカヅチ」の方が圧倒的に高性能である。だが、高性能であるため、1度の攻撃でモンスターを仕留められることも多いため、1度の戦闘で攻撃できる回数はおのずと少なくなってしまう。


 逆に「粗鉄の剣」の能力は低く、初期エリアのモンスターである「角ウサギ」相手でも、撃破するのに数回の攻撃が必要となる。クリティカルが発生すれば、一撃で倒せることもあるが、非常に稀である。


 初期エリアの最弱モンスター相手でも攻撃を繰り返させられるほどにCランクのEKの能力は低い。それは剣だけではなく、ほかの武器種でも同じだ。


 しかし、それは逆に言えば、進化に必要な使用回数を稼ぎやすいということでもある。その分使用者のレベルアップがなかなかに大変ではあるものの、低ランクのEKの所持者はレベル5に到達するときには、ほぼ間違いなく使用回数を満たしているため、レベル5に到達とともにEKの最初の進化が行われる。


 つまり、すでにEKの進化が行われていたとしても、今後も特殊進化を狙うことが可能ということだった。もし最初の進化限定であったら、いまのアバターを捨てて新しいアバターの再作成を行うプレイヤーもいただろうが。


 続いて3つ目となる「特殊進化」を果たしたら以後「特殊進化」は行われないというのは、誰もが納得することであろう。


 そもそも2度目の「特殊進化」を行えたとしても、対象は元がCランクのEKだけである。現在一番所持者が多いのはRランクのEKである。Cランク、UCランクの持ち主もいないわけではないが、ソーシャルゲームでもCランクやUCランクのキャラというのは使い物にはならない。最低でもRランクからであれば、どうにか使い物になるというパターンが多く、「EKO」でもその傾向は変わらず、どんなモンスターであってもRランクからなら使い物になるのだ。


 ほとんどのプレイヤーは高ランク帯のEKを狙いに行くが、大半のプレイヤーは確率という名の悪魔に敗北を喫してしまうものだ。


 そして救済措置として5回の抽選中、Rランク帯のEKは1度は確実に抽選されることになる。もっともそれは初回から4回目の抽選までであり、5回目の抽選を選択すると、そのときに排出されたランクが問答無用で選択されるという仕様でもあるため、大半のプレイヤーは4回目までしか抽選を選択しない。


 だが、中には最後の可能性を追い求めるプレイヤーもおり、その結果高ランク帯を手にするプレイヤーもいれば、Cランクという結果に終わるプレイヤーもいる。現在CランクないしUCランク帯の所持者はそうして夢破れたものであり、その数はそこまで多くはなかった。


 なのに、Cランク帯のEKのみが2度目の「特殊進化」を果たせるとなれば、救済措置としてはやりすぎになってしまう。ゆえに「特殊進化」は1度だけというのは致し方のないものである。


 それは4つ目の「特殊進化」すると2ランクアップするというにも繋がる。


 Rランク帯のEKが2ランクアップすると一気にSSRランクになるが、基準をCランクに当てはめると2ランクアップしてもCランクからRランクになるという程度である。Rランク帯からどんなモンスター相手でも使い物になるという事実を踏まえれば、2ランクアップするという性質はわりと妥当である。


 これがもし1ランクアップだけであると、UCランクまでは救済になるが、Cランク帯の所持者にとってはUCランクに上がって多少マシになっただけであり、救済というにはいくらか無理がある。


 かといってCランク帯だけ2ランクアップとすると、「優遇しすぎだ」と騒ぎ立てられる可能性がある。特にUCランク帯の所持者は黙っていないだろう。では、UCランクも2ランクアップすると今度はボリュームゾーンのRランク帯の所持者が一斉に騒ぎ立てることになる。


「「特殊進化」できるという点では同じなのに、ランク帯によって上昇幅が違うのはおかしい」と思うプレイヤーは決して少なくないだろう。


 であれば、一律で2ランクアップするというのはわりと妥当な範囲であった。


 そして最後の「もともとのランク帯にはいくらか能力が劣る」というのは、不平不満への対応策である。


 下位ランクの所持者にとってすれば福音かつ救済である「特殊進化」であるが、上位ランクの所持者にとってみれば、まったく関係ないこととは言い切れない。特にSRランクの所持者にしてみれば、割りを食うことになる。


 なにせ、せっかくSRという高ランク帯を手に入れたというのに、Rランク帯のEKにランクを抜かれるというのは我慢ならないというプレイヤーも中にはいる。SSRランクの所持者にしても「なんでもともとRランクのEKに並ばれなければならないんだ」と憤慨する者も出るだろう。


 それらの対応策として元々のランク帯よりも能力をいくらか劣らせるという手段に出たのだろう。


 性能としてはそのランクに相応するものの、そのランクの平均よりも低くする。要はソーシャルゲームにおける配布キャラの立ち位置とも言える状態にするというのが運営の出した対応策なのだろう。


 ランク帯によって絶対的な序列のあるEKではあるが、同じランク帯でも上位と下位にわかれる。上位のものはひとつ上のランクと比較対象になれるし、下位のものはひとつ下のランクとあまり変わらないのだ。


 よってSSRランクにランクアップしても、実質SRランクとあまり変わらないというのは、これ以上とない対抗策であった。まぁ、中には割りを食う者もいるにはいるだろうが、全員が割りを食わないという対応策は存在しない。どう対応しようとも、誰かしら割りを食うことになるが、その割りを食う人数をできるだけ減らすというのが対応策というものだ。その答えとして運営が選んだものこそが「能力を平均よりも下げる」ということ。


 実質下のランク帯と変わらない能力というのであれば、まだ納得はできる。誰もが手放しで受け入れられるというわけではないが、まだ納得はできる。それが運営の出した答えだった。


 以上が「特殊進化」の概要である。


 その概要を読み、タマモたちは「まぁ、妥当か」と頷いたのだった。


 それはほとんどのプレイヤーも同じで、「まぁ、こんなもんかな」と誰もが一応の理解を示した。


 そうして「特殊進化」についてはどのプレイヤーも一応の理解とともに受け入れられることになったのだった。

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