17話 特殊進化
武闘大会の八日目は無事に終わりを告げた。
波乱はあると言えばあったものの、全体的には平和に進んでいった。
八日目の試合は、すべてクラン部門のエキスパート級で行われていたが、九日目は個人部門のエキスパート級となり、その翌日がクラン部門のビギナー級、その翌日が個人部門のビギナー級となっている。
ただ、それ以降もその流れで試合が行われるわけではない。12日目の試合も個人部門のビギナー級となり、13日目はクラン部門のビギナー級、14日目が個人部門のエキスパート級、15日目にクラン部門のエキスパート級となる。以降の試合はその順番で日ごとに行われるそうだった。
つまり、クラン部門のエキスパート級の続きの試合は1週間後ということだ。
クラン部門のエキスパート級を本戦初日にしたのは、同じエキスパート級でも個人部門よりもクラン部門の方が迫力ある試合が多く、中だるみを防ぐ布石だろうというのが、一部の識者による見解であり、タマモたちも同じように解釈していた。
その解釈を聞いて、「なるほど」とユキナは思った。
たしかにクラン部門のエキスパート級の試合は、個人部門のエキスパート級よりも迫力溢れる試合が多かった。一方的な蹂躙劇になる試合もあるにはあったが、それがすべてだったわけではない。
大抵の試合は手に汗握る攻防だった。ときにはあえて劣勢を装い、相手の隙を衝くということもあれば、最初からお互いの最高の手札を切り合うというものもあった。その迫力や展開は武闘大会における最高峰の試合群であることを如実に物語っていた。
その最高峰の試合群を本戦初日に持ってきて、続きの試合は1週間後というのは、中だるみを防ぐという面においても納得ではあるし、飽きさせないための工夫というのもわかる。
とはいえ、中にはビギナー級は無視してエキスパート級だけを狙って観戦するプレイヤーも多いだろうが、そのあたりは個人個人の自由であるから、運営もとやかく言うことはないだろう。
そして観戦しない間に、個々人のプレイヤーがなにをしてすごすかもまた個々人のプレイヤーによる。
それはタマモたち「フィオーレ」も同じだった。
武闘大会9日目。
個人部門のエキスパート級の試合が行われている中、タマモたちは──。
「──双炎斬」
──北部第1エリアの攻略に勤しんでいた。
北部第1エリア。そこはかつてレンがひとり旅を行い、踏破したエリアであるが、タマモたちはまだだったこともあり、ついでにユキナのレベリングも兼ねて第1エリアの踏破を行うことにしていたのだ。
そして現在タマモたちは第1エリアのフィールドボスであるレッドタイガーとの戦いを行っていたが、ユキナ以外は全員推奨レベルを超過していたため、レッドタイガーとの戦いは非常に簡素なものだった。
ユキナ以外の誰もがレッドタイガーを簡単に討伐できたのだ。
レンであれば、攻撃を当てる部位によっては一撃。ヒナギクは問答無用で一撃撃破だった。
なぜ、それぞれの戦果を口にしたのかというと、現在レッドタイガー相手にマラソンするプレイヤーなどいないためである。
ならばとユキナのレベリングにとレッドタイガーを用いることにしたのだ。
若干パワーレベリングないし寄生に近い状態になるが、タマモたちは誰も気に留めていなかった。
当のユキナは若干引け腰になっていたものの、最終的には押し負けてレッドタイガーとの連戦を行うことになったのだった。
その一方でユキナのEKの進化も行うことになった。
ユキナのEKはRランクの回復用の杖だった。
パワーレベリングを行ったときには、すでにユキナのレベルは5に到達してしまっていたこともあったため、タマモたちはいろいろと手を打っていた。
たとえば一戦一戦ごとにユキナのMPが枯渇するまで回復を行い、その後はユキナのMPが回復するのを待ちながら、ユキナの護衛をし、MPが回復したらレッドタイガーを討伐する。それが一戦ごとの内容だった。
そんな戦いを行うこと10回。ときどき休憩をしたり、たまたま第1エリア踏破をしていたパーティーないしクランに譲ったりして、時間を空けての10連戦を行い、ようやく──。
「あ、EKが」
──ユキナのEKである回復用の杖が輝いたのである。
ユキナのEKの名前は「回復杖」という、そのまんまなネーミングである。
SSRランクの凝った名前や見た目とはまるで異なり、大量生産品の中でも上質なものという風にしか思えないものだった。
それでも育て方によっては最終的にはそれぞれに独自の進化が行われるというのがEKの醍醐味である。
その醍醐味であるEKの進化がいま行われる。
「進化開始です」
ユキナは胸を高鳴らせつつも、自身のEKを進化させた。そのとき。
「っ!?」
Rランクとは思えないほどの眩い光がその場を包み込んだのだ。
その光はSR、いや、SSRランクの光とさほど変わらないものだった。
そのあまりに眩い光に、誰もが目を眩ませてしまっていた。
やがて、光が収まったとき、ユキナの手にあったのは──。
「これって?」
──大量生産品のRランクとは思えない一本の杖が、眩く光る真っ白な一本の杖が握られていたのだった。
「おめでとうございます。EKが特殊進化を経て、Rランクからのランクアップを果たしました。これによりSSRランクEK「ブレス」となりました」
あまりにも想定外な状況に合わせたかのような、場違い感溢れるアナウンスが響くも、そのアナウンスに誰も反応できないまま、ユキナの持つEKは日の光によって、眩い光を放つのだった。




