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28話 ノー甘酸っぱい。イエス血生臭い

 クランの名前まで行かなかったよ←

 リーンによる「候補」を聞き、そのままタマモは畑にまでまっすぐに向かった。


 畑にはすでにヒナギクとレンがキャベベの収穫を代行してくれていた。「EKO」では許可があれば持ち主以外のプレイヤーでも収穫を代行することはできるという仕様のため、ヒナギクたちが収穫の代行をしていてもなんの問題もなかった。


 ただしその収穫物を持ち主──タマモの許可なく売りさばいたり、所持したままでいたりすることは禁じられている。初犯であれば間違いということもあるため、注意勧告だけで済むが、これが度々行われたり、明らかに意図的に行われたりしている場合は、最悪アカウントの凍結さえある。


 もっともヒナギクとレンの場合はタマモの手伝いのために行っているうえに、タマモの代りにキャベベを餌付けしてくれている。が、まだふたりは「クロウラーの理解者」の称号を得てはいない。というよりも現在はまだふたりとも「クロウラーの反省者」の称号であるからだ。


 ヒナギクとレンはタマモと出会う前に一度野生のクロウラーと戦い、その戦闘で絹糸を手に入れてしまっていた。掲示板では「運がいいな」と言われていたが、のちにタマモが「クロウラーの理解者」の称号を得たことで状況は一転してしまった。


 もっともそれ以降はクロウラーと戦うことはしなかったため、「敵対者」の称号はあっさりと「反省者」に置き換わった。


 だが、意図的ではなかったとしても、同族を倒し、その亡骸から戦利品を漁ったということは変わらないとクーが考えているのか、意図的に餌付けする回数を調整されていた。


「理解者」の称号は同一個体に複数回の餌付けとなるが、その複数回の餌付けができないようにクーが常に別の個体を呼び、ふたりの餌付けの回数が増えないようにしている。


 そのことにヒナギクもレンも、そしてタマモも気づいていたが、タマモの畑内において、虫系モンスターのリーダーとなっているクーが許可を出さない限りは、ヒナギクとレンの禊は終らない。


 とはいえ、クーもヒナギクとレンを憎しと思っているわけではない。ヒナギクたちとクーとの関係はタマモという存在を仲介してなくても良好ではある。


 がそれはそれ、これはこれとクーは判断しているし、ヒナギクたちも情報開示がされていなかったとはいえ、クーたちの同族の亡骸を漁ったことには変わりないため、素直に禊を受け入れていた。


「あ、おはよう、タマちゃん」


「今日も一日頑張ろうね」


「あ、はい、おはようございます」


 レンは片手を上げて、ヒナギクは餌付けをしながらニコニコと笑いながら挨拶をしてくれる。ヒナギクの言葉がなぜか強調されて言われたように感じられたが、おそらくは気のせいだろう。気のせいであってほしい、とタマモは願いつつ、小川を渡り、ふたりの元へと向かう。そして──。


「レンさん、ヒナギクさん。ボクたちクランの名前についてなんですけど」


 ──リーンによる「候補」を胸に抱きながら、ふたりに話すとなぜかヒナギクもレンもしかめっ面になった。ただしお互いを一度睨んでからだったが。


「あぁ、そのことか。いまヒナギクと「どうしようか」って話をしていたんだよ」


「そうなんですか?」


「うん。でもレンってばネーミングセンスがいちいち厨二臭いんだよねぇ」


「なんだよ、ヒナギクだって、ファンシーすぎる名前ばかり言っていただろう!?」


「はぁ!? 「水と緑の贈り物」のどこがダメだって言うの!?」


「誰が聞いてもファンシーすぎると言うわ! なら俺の「鋼の友血」でもいいだろう!?」


「意味不明すぎますぅ~! うわぁ、この子マジ厨二ぃ~。すごくいた~い」


「なんだとこのアマぁぁぁ!」


「やるってのこの厨二野郎!」


 ヒナギクとレンが一触即発という雰囲気でにらみ合う。お互いにしかめっ面になりながら、手を組み合っていまにも殴り合いに発展しそうな勢いである。


(……幼なじみってもっと甘酸っぱいイメージがあるんですけどねぇ。あ、でもそうでもないですね)


 たしかに「幼なじみ」と言うと甘酸っぱいイメージがある。しかしだ。よくよく考えてみればタマモとて莉亜という幼なじみがいるが、甘酸っぱさは皆無であった。むしろ莉亜に対しては甘酸っぱさよりも血生臭さの方が似合っている。


「今日こそは決着を着けてやるぜ!」


「それはこっちのセリフだっての!」


(まぁ、おふたりも血生臭いと言う方が合っていますけどねぇ)


 決着を着けてやると言うくらいだ。ふたりの関係に甘酸っぱさは皆無なのだろう。実際お互いの頬にそれぞれの拳が突き刺さっている。いったいいつのまに手を出し合ったのだろうか。


「……話し合いできそうにないですねぇ~」


「きゅー」


 ストリートファイトを始めたヒナギクとレンを見やりながらため息を吐くタマモといつのまにかタマモの肩に登って同じくため息を吐くクー。


 しかしそんなひとりと一匹の様子など目に入ることもなく、ヒナギクとレンによる決戦は続いたのだった。

 ヒナギクとレンの殴り合いは、傍から見ると「男が女に手をあげるなんて」と思われる光景でしょうね。まぁ、この場合はなんの問題もありませんけどね

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