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57話 始まりの日

 レンが帰還してから数日が経った。


 その間、「フィオーレ」内での連携を高めていた。


「タマモのごはんやさん」の営業は、午前の部だけにして、午後からは連携を高めるための時間にした。


 すでに常連となっているプレイヤーたちもいたが、事前に説明して納得して貰うことはできた。もっとも説明と言っても「武闘大会が近いので」と言うだけで、納得して貰えた。


 そのあまりにもあっさりとした対応に、タマモは少々唖然とした。タマモとしてはもっとごねられると思っていたのだ。それがあっさりと受け入れられてしまったことが不思議だった。


 その疑問をそのまま伝えると、常連の面々はもともと「フィオーレ」のファンの集いであるため、推しである「フィオーレ」の活躍のためであれば、午前の部だけの営業となってしまうのも致し方なしなのだ、と言われたのだ。


 その際に「頑張ってくれ」や「応援します」ともエールを貰った。


 そのエールにタマモは若干涙ぐんだが、その涙を拭って「はい」と力強く頷いたのだ。


 そうして後顧の憂いはなくなったタマモたちは、午後のログイン時間を目一杯使って、連携の向上に勤しんだ。


 一ヶ月前まであれば、タマモがメインとなっていた連携。いや、タマモに比重が置かれすぎていた連携だった。なにせ、攻撃も防御もすべてタマモが主軸になっており、真っ当な連携と言えないものだった。


 半ば、ヒナギクとレンはタマモに寄生するようなものだったのだ。


 だからこその、一ヶ月の特訓だった。特訓を経て、ふたりとも成長を果たした。


 その結果、ふたりはタマモに見劣りしないほどの強さを得たのだ。


 むしろ、各々の得意分野において、タマモを凌駕する力を得た。


 一ヶ月の特訓は決して無駄ではないことをそれぞれに認識することができた。


 そしてそれはふたりだけではない。


 タマモとて、この一ヶ月で成長を続けた。


 一か月前まではレベルは10だったタマモ。だが、いまのタマモのレベルは大幅に上がり、現在レベルは20。つまりヒナギクと同じになった。そのステータスは──。


 タマモ LV20


 種族 白金の狐


 職業 双剣闘士、コック、幻覚師、漁師長、予言者


 HP 617


 MP 617


 STR 15


 VIT 15


 DEX 15


 AGI 18


 INT 14


 MEN 14


 LUC 7


 ──となっている。


 クラスチェンジ前の、「金毛の妖狐」の頃とは比べようもないほどに強くなっているが、現時点の能力を総合的に踏まえると、平均的な能力の持ち主というところ。


 もっとも前回の武闘大会では、全ステータスが一桁であり、全参加者の中でぶっちぎりで最弱だった。


 現在の素のステータスは最弱は抜け出せているだろうが、それでも下から数えた方が早い程度でしかない。


 しかし、その弱めのステータスであっても、そのステータスをカバーできるほどのスキルを持っている。特に氷結王と焦炎王から授かった「結氷拳」と「炎焦剣」に「氷結魔法」と「焦炎魔法」があり、その破壊力はおそらく全参加者の中でも屈指のものだ。


 加えて、所持している称号の効果において、ステータスを増加させることができる。


 素のステータスだけを見れば、弱めであっても称号の効果を含めたら、その能力は決して低いとは言えない。


 総合的に踏まえれば、現在のタマモは個人戦に参加しても優勝を狙えるかもしれないほどに強くなっていた。まぁ、個人戦では最強のテンゼンがいるため、タマモを以てしても優勝はほぼ不可能だろうが。


 それにタマモたちが参加するのは、個人戦ではなく、クラン同士の戦いであるクラン部門。そのエキスパート級に参加する。


 個人部門ではテンゼンが圧倒していたため、ほかの参加者のことはほぼわからない。だが、クラン部門では強敵がとても多い。


 たとえば、前回でも戦ったガルド率いる「ガルキーパー」、その弟分である「フルメタルボディズ」は前回どうにか勝てたものの、運の要素が非常に大きかった。今回は前回のような油断は両クランにはないだろう。真っ向からの総力戦になることは間違いない。


 前回敗北したローズ率いる「紅華」は、前回ではローズとタマモの一騎打ちの末の敗北であり、クラン同士のぶつかりによる敗北ではない。あのとき参戦しなかったリップやヒガンも上位プレイヤーであり、ダークホースである新人のサクラとて侮れない。


 PKKたちの選抜チームも今回参戦するだろうし、ほかのクランとて侮れるような面々ではない。


 そして中でも前回の武闘大会において、クラン部門を制したチーム「三空」は最大の強敵だろう。


 特に「三空」のリーダーにして、PKの一大クランである「蒼天」のマスターでもあるアオイはタマモにとって因縁の相手である。


 クラスチェンジして間もない時の戦いでは圧倒できた。


 しかし、あれから一か月あったのだ。その間にあのアオイがただ手を拱いているとは考えづらい。確実になにかしらの手立ては打っているだろう。もしくは彼女自身クラスチェンジを果たしている可能性が高い。


 前回はタマモがクラスチェンジしたことにより、その能力に差が生じていたからこそ圧倒できた。しかし、もしアオイもクラスチェンジしていたのであれば、今回も圧倒できるとは言い切れないことだった。


 それでも対峙すれば勝つしかない。それ以外にタマモに残された道はなかった。


 すべてはアンリを取り戻すための戦い。


 その戦いの日々は──。


「タマちゃん、準備いい?」


「俺たちはできているよ」


 ──いま切って落とされる。


 タマモの前には、不死鳥シリーズを身に付けて、準備万端となったヒナギクとレンがいる。その傍らにはユキナとエリセが手を重ね合わせて祈りを捧げている。


 連携を高める日々を過ごしていると、気づけば、大会当日となっていた。


 一か月の準備期間はもう終わったのだ。あとは結果を残すのみ。


 タマモは大きく深呼吸をした。


 まだタマモたちの出番はない。


 しかし、出番が来れば、決して負けられない戦いが始まる。最後の最後まで勝ち抜かなければならない戦いの日々が始まる。


 だというのに、不思議と緊張はしなかった。むしろ、高揚感だけがタマモにはあった。


 その高揚感のまま、タマモは目の前の仲間たちを見遣り、口を開く。


「……はい。行きましょう。アンリを取り戻すために」


 ヒナギクとレンからの問いかけに、タマモは力強く頷いた。


 その日、「エターナルカイザーオンライン」における第二回武闘大会は始まりを告げた。


 後にネットゲーム史において、伝説として語られる大会にして、「エターナルカイザーオンライン」自体を伝説のゲームのひとつして数えられるようになる理由。その始まりは、とても静かなものだった。


 だが、それぞれの参加者の胸には断固たる決意と覚悟が伴っていた。それぞれの決意と覚悟のぶつかり合う熱く激しい冬の戦いは、こうして始まったのだった。

次回から特別編です。

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