45話 うちひしがれて
オグリの賢さサポカで二万爆死しました←トオイメ
なんでキタちゃん来んねん。もう完凸しとるわ←orz
まぁ、それはさておき。
今回は短めです。
「……まぁ、今日はこんなところだろう」
背の高い広葉樹越しに、淡い緋色の光を放つ太陽が見え隠れしている。
当初はずいぶんと高かった太陽が、いまは広葉樹に隠れるほどの高さになっていた。
その高さに合わせるように、空の色が変わっていく。
透き通った青の空が、いまや緋色の空に移り変わっていた。
その空もじきに黒へと染まる。
真っ黒な夜空へと、星々と月の光に彩られた空へと変わっていく。
いまは昼と夜の中間の緋色の空。その緋色の空の下には大勢のプレイヤーがいる。
そのプレイヤーの中で、ことさら対照的な姿を見せる一組のプレイヤーたちがいた。
片やフード付きの外套を深く被った女性アバターを使うプレイヤー。その手には鞘から抜き放たれた、抜き身の刀が、若干安っぽい造りの刀が握られている。
もう片方はそのプレイヤーの前で、仰向けに倒れる男性アバターを使うプレイヤー。仰向けに倒れている姿から想像できるように、その胸板は大きく上下し、手には黒い刀が握られているが、女性アバターのプレイヤーとは違い、その刀からは安っぽさなどは一切感じられない。特別製のものだというのがよくわかる。
なにからなにまでもが対照的な一組のプレイヤーたち──テンゼンとレンのふたりは、前述の通りどこまでも対照的な姿だった。
息も絶え絶えとなり倒れ伏すレンと、余裕の表情でレンを見下ろすテンゼン。
その姿を見れば、どちらが有利に戦っていたのかなんて一目瞭然だろう。
もっともふたりがいままで行っていたのは、実戦ではなく、実戦を意識した模擬戦だった。
その模擬戦の勝率がどちらに傾いていたのかは、いまのふたりの姿を見れば、すぐにわかるだろう。
そんなあまりにも対照的すぎるふたりのうち、テンゼンは倒れ伏すレンを見遣りながら、どこかつまらなさそうに目を細めながら、握っていた刀を静かに納めた。
その納刀の音とは裏腹に、テンゼンの周囲はひどいものだった。
根元からへし折れて倒れた大木、その大木が立っていた地面は落雷でもあったのか、黒く焼け焦げていた。そしてそれはひとつやふたつではなく、半径十数メートルにあるもののすべてがそうなっていた。
端から見れば、自然災害でもあったのかと思える光景。
だが、実際のところは自然災害ではなく、テンゼンとレンの模擬戦の余波によって起きたものである。
要はふたりの模擬戦の煽りを受けて、まだ折れるはずもなかった大木が根元からへし折れ、地面も落雷があったかのように黒く焦げてしまっているのだ。
ふたりの争いがどれほどまでのものだったのかを、これほど雄弁に物語るものも早々ないだろう。
そんな自然災害を巻き起こしたふたりではあるが、それぞれにとんでもない実力でありつつも、ふたりの間には明確な差が生じていた。
その差をこれでもかと突き付けられたレンは、納刀したテンゼンを見て悔しそうに歯噛みしている。
だが、テンゼンはそんなレンを無視するかのように、もう興味を失ったかのように背を向けた。その瞬間、もう動けないかのように手足を投げ出していたレンの体がいきなり躍動的に動いた。
声どころか、音を出すこともなく、テンゼンの無防備な背中へとレンは握っていた刀を納めていた鞘を思いっきり投げ飛ばす。
迫りくる鞘。
だが、まるで最初からわかっていたかのように、テンゼンは迫り来る鞘を納刀した刀で弾く。テンゼンにそれまでなかった隙が生じる。その隙を衝くようにして、レンは重たい体に鞭を打って駆け寄った。
レンの口からは喉が張り裂けてもおかしくないほどの声量での、裂帛の気合いが轟く。その気合いに呼応するかのように、レンの持つ刀からは黒い雷が迸った。その迸る雷を刀身に乗せながら、レンは大上段からの振り下ろしを放つ。
それはテンゼンがレンの鞘を弾いて呼吸にしてひとつくらいの短い時間だった。
たったそれだけの時間で、レンは必殺の一撃を放とうとしていた。どう考えてもテンゼンには対処など不可能。誰もがそう思ったことだろう。
しかし、現実は小説よりも奇なりであり、裂帛の気合いを乗せたレンの一撃が切ったのは、なにも空間だった。そこにいたはずのテンゼンはどこにもいない。
さすがに当たると思っていたはずの一撃が外されたレンは、驚きで目を見開いた。テンゼンの実力はわかっていたはずだった。それでもなお、その光景はレンにとって想像だにしていないものだった。
その光景がわずかな、ほんのわずかな隙をレンに作り出してしまう。しかし、その隙ができていた時間も隙同様にほんのわずかなものだった。だが、そのほんのわずかな時間であってもテンゼンには十分すぎる時間だった。
「狙いはいい。だが、残念だったな」
トンと軽い音と共に後ろから肩を叩かれた。同時にやはりトンと軽く首筋を固いもので叩かれた。
それが意味することがなんであるのか。レンには言われずとも理解していた。
「……負けました」
「よろしい」
首筋を叩いた固いものが離れていく。
同時にレンはその場で跪いた。
レンの肩が静かに震えていた。
その様を見遣りながらテンゼンは静かに息を吐いた。
「また明日だ。いいな、レン」
そう言って、どこかに立ち去っていくテンゼン。
さきほどとは違って、奇襲を仕掛けることなく、レンはその背中を一瞥するだけだった。
「……また勝てなかった」
ぽつりと呟きながら、レンは背中から地面に倒れた。その双眸からは幾筋もの涙が零れていた。
だが、どれほどに涙を流しても結果は覆らないし、テンゼンとの実力差は覆ることもない。
「……もう10日もないのに」
テンゼンと模擬戦を繰り返して20日近い日数が経った。
それでもなお、レンは目的をいまだ叶えられないままだった。
「どうしたらいい?」
涙を流しながらレンは誰充てでもない問いかけを口にする。
しかし、その問いかけに答える者は誰もいない。
「どうしたらいい?」
レンは再び問いかけを口にする。
だが、何度問いかけても答えは返らない。
返ってくるのは、遠くから聞こえる鳥の声と茂みに潜む虫の羽音だけ。
そんな物悲しい雰囲気の中で、レンは大地に手足を投げ出してひとり静かに涙を流すことしかできなかった。




