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35話 選択肢再び

 レンがクラスチェンジのために、特殊称号を取得しようと躍起になっている頃、ヒナギクはというと──。


「──よしよしよしよし、来た!」


 ──ついにその瞬間を迎えていた。


 レンよりも一足先にクラスチェンジに至っていたヒナギクだが、EKの進化には至っていなかった。


 その一足先にクラスチェンジをしたことが、功を奏すことになった。


 ヒナギクの持つ「セミラミス」が眩い光を放ったのだ。


 その光は、EKが進化可能となったことを意味するもの。


「聖拳士」へとクラスチェンジしてからほんの数日、その数日で「セミラミス」の進化にとこぎ着けたのだった。


「妖狐のときにも見た光だな。もしや?」


「はい。進化するみたいです!」


「そうか、ヒナギク殿の目的がふたつとも叶ったわけか」


「はい!」


 シュトロームの言葉に満面の笑みで返すヒナギク。


 進化したことで大幅にMPが増加したということも、進化が早まった切っ掛けではあるが、直接的な理由ではない。「セミラミス」が進化の早まった理由。それはクラスチェンジして得たスキルのひとつ「聖闘技」にあった。


 この「聖闘技」だが、その名の通り、聖属性の武術を使用できるというものだが、クラスチェンジしたばかりのヒナギクでは、その種類はとても少ない。その少ない種類の武術の中で、現在のヒナギクにとって特に有用なものがあった。


 その武術は「聖陣」というもの。


「聖陣」とは使用者の周囲に円形の距離の円陣を描くもの。その円陣の範囲内にいるプレイヤーのHPとMPをリジェネレートする効果がある。


 リジェネレートの効果は、毎秒HPとMPを1点ずつ回復させるというもの。現時点のヒナギクだと全快するまでにはだいぶ時間は掛かるものの、長期戦には必須級の武術である。


 だが、デメリットもあり、「聖陣」発動中、使用者はその場から一歩も動けないという制限がある。一言で言えば、杖系の武術であるメディテーションがHPも回復できるようになったというところか。


 この「聖陣」の効果は、ヒナギクにとってはまさに福音であった。


 毎秒少しずつではあるものの、MPが回復することにより、治療魔法の使用回数が伸びた。クラスチェンジしたことで増量したMPの分も含めて大幅に回数が増えた。


 だが、福音はそれだけではなかった。


 その効果そのものがヒナギクにとっては福音だったのだ。


 というのも、HPとMPのリジェネレートも治療魔法としてカウントされることがわかったためである。


 ちなみに、HPとMPのリジェネレート効果は、それぞれリジェネレーションとマナリジェネレーションという別の治療魔法が存在しており、「聖陣」発動中はそのどちらも使用しているというカウントになっている。


 ヒナギクがそのことを知ったのは掲示板で「治療魔法の種類について」というものが語られており、その中にリジェネレーションとマナリジェネレーションについても言及があったのだ。


 そこでは、リジェネレーションとマナリジェネレーションでも「治療魔法のカウント」があるのかという質問があったのだが、その回答は「問題なくカウントされる」というものだった。


 さらに「満タンになるまでが一回とカウントされるので、効果が継続しているときに満タンから少しでも減って回復すれば、別途で一回とカウントされる」という驚きの内容でもあったのだ。


「聖陣」を使用するだけで、HPとMPのリジェネレートに加えて、治療魔法を使うことでクラスチェンジ前の三倍の効率だった。


 そこにまさかのリジェネレーション系の効果が加わることで、効率はさらに上がった。


 クラスチェンジする前は、あともう半月あっても足りなかったはずの回数が当初の予定よりも大幅に早まった結果、今日ヒナギクの「セミラミス」も進化を果たすことになったのだった。


「これでようやくタマちゃんに並べた」


 特訓前までは、タマモにおんぶに抱っこの状況になっていたヒナギクとレン。


 その状況の打破のために、ふたりは個々人での特訓をすることになった。その目的は非常に明確で、タマモと並び立つことであった。


 レベルこそヒナギクとレンの方が高い。あくまでも現在は。


 そのレベル差も急激に詰めれている。レンはともかく、ヒナギクに関してはまだかろうじてタマモよりもレベルは高いものの、武闘大会本番になる頃には完全に追いつかれるのは目に見えている。


 そのことを踏まえれば、クラスチェンジだけではまだタマモに並び立つことなどできない。だが、クラスチェンジと進化することにより、ようやくその資格を得られたのだ。ヒナギクの喜びもひとしおであろう。


 ほんの少し前までであれば、ヒナギクもレンもタマモを捻ることはたやすかった。とはいえ、十回模擬戦して十回とも勝てるかと言われれば、答えは否であった。


 タマモには高火力のスキルである「結氷拳」や「炎焦剣」があり、その高火力スキルを振るわれれば、ヒナギクとレンとて無事には済まない。それが十回とも勝てないという理由だ。

 それでもいままでのタマモならば、勝つ可能性はせいぜい一、二回程度。最低でも八回は勝つ自信がヒナギクにはあった。

 

 だが、クラスチェンジを果たしたいまのタマモには、確実に勝てる自信などヒナギクにはない。それはレンとて同じだろう。


 幻影の邪眼による幻覚と先見の邪眼の行動予測のコンボに加えて、一撃必殺の「結氷拳」と「炎焦剣」を喰らえば、それで終わり。


 幻覚と行動予測のコンボが発動するまでにタマモを打倒する。それくらいしかいまのタマモに勝てるビジョンがヒナギクにはわかなかった。


 そのビジョンでさえも、ほぼほぼ無理ゲーに近いレベルであった。なにせそのビジョンっはヒナギクとレンに対して、タマモがコンボを発動させることを躊躇うという前提あってこそのものだからだ。


 仮に前提が崩れた場合、少し前のヒナギクではレンとコンビを組んだとしても、一方的に攻め込まれるのが関の山だったであろう。


 でなければ、タマモが主軸となって攻撃も防御も行うという、寄生じみたチームプレーなどになるわけがなかった。


 すべては特訓前のヒナギクとレンがクラスチェンジを果たしたタマモよりも弱すぎたということが原因だった。


 その弱さを克服するための特訓が、いまこうして花を開いてくれたのだ。


 ヒナギクは心の底からの安堵と歓喜に満ち満ちていた。


 その両方に背を押されるようにして、ヒナギクは自身のステータス欄を開き、EKの進化を選んだ。


 その瞬間、ヒナギクの目を眩ませるほどの光が放たれ──ることはなかった。


 ヒナギクの前には眩い光ではなく、複数のポップアップが表示されたのだ。


「……あれ? クラスチェンジのときと同じ?」


 クラスチェンジのときも複数のポップアップがあり、そのそれぞれに複数の特殊職が表示されていたが、セミラミスの進化もクラスチェンジのとき同様に、複数のルートが解禁されているようだった。


「……面倒だなぁ」


 てっきり眩い光とともに進化していると思っていたところに、まさかの肩すかしである。

 

 それでも根が真面目であるため、表示されたポップアップを吟味していくヒナギク。


 セミラミスの進化ルートは4つあった。


 バフ、デバフ特化の魔杖セミラミス。


 回復特化の聖杖ユニコ。


 攻撃魔法が解禁となる妖杖ルフェ。


 そして、魔杖と聖杖のいいとこ取りとも言える天杖ヴィヴィアンだった。


「……名前からして魔杖ルートが正常ルートなのかな?」


 進化したEKはたいてい元の名前からなにかしらの枕詞とも言うべき、名称がそれぞれに付属する。タマモを例にあげるとすれば、「おたま」が「銀のおたま」になったようにだ。


 それはほかのプレイヤーのEKでも同じようで、基本的に元の名前からなにかしらの名称が付属されていた。


 その方式から言えば、「魔杖セミラミス」が正常の進化する姿なのだろう。その能力は治療魔法は強化されつつも、バフデバフの強化が著しいというもの。具体的に言えば、魔杖自体に付属するスキルに「治療強化(弱)」と「強化魔法効果上昇(大)」と「弱化魔法効果上昇(大)」があった。どう考えても回復よりもバフとデバフをばらまけと言わんばかりのスキルであった。


 聖杖はその逆で「治療強化(大)」と「強化魔法効果上昇(弱)」と「弱化魔法効果上昇(弱)」があった。バフとデバフもまけるけど、基本的に回復しなさいという意思を感じるキル構成だった。ただどちらも共通しているのは実に治療師らしい立ち振る舞いができるものだ。


 その点、妖杖は上記ふたつと比べると異端だった。魔杖と聖杖にあった治療強化や強化弱化魔法の効果上昇は存在せず、「下級魔法効果上昇(大)」と「下級魔法範囲上昇(大)」と「下級魔法」というスキル構成であり、治療師というよりも魔導師らしいスキル構成になっていた。治療師としても活動できる魔法アタッカーになれという言葉が聞こえてきそうな内容だった。


 上記3つのルートはどれも魅力的だった。


 特に妖杖ルートなんてレンだったら、喜んで選びそうなルートだ。


 だが、レンほど小器用に立ち回れる自信がないし、回復かバフデバフかと言われても選ぶこともできない。

 

 それゆえにヒナギクの関心が強いのは最後の天杖ルートだった。


 天杖ヴィヴィアン


 SKILL 「治療強化(中)」、「強化魔法効果上昇(中)」、「弱化魔法効果上昇(中)」、「MP消費減(弱)」



 ヒナギク的には最有力である「天杖ヴィヴィアン」のスキルは、魔杖と聖杖ルートのいいところ取りの構成となっている上に、この特訓で悩まされてきたMP消費をわずかにだが、減少させるという、今後も決して腐りそうにないものだった。


「……効果自体は特化型に比べると減少しているけれど、でもいいところ取りなのは魅力だなぁ」


 妖杖ルートも魅力がないわけではないが、「聖拳士」にクラスチェンジしたことを踏まえると、若干かみ合わせが悪い。というか、やることが増えすぎてしまい、混乱が生じかねない。


 近接格闘もこなしつつ、治療師としても活動するのであれば、天杖ルートが一番現実的と言える。


 魔杖ルートと聖杖ルートでも問題はないかもしれないが、特化しすぎというのも考えものではある反面、いいところ取りでは対応できない局面でも力を発揮できそうではある。一方で遠距離火力が求めれることもありえる。


「……さて、どうしたものかな?」


 魔杖か聖杖か、それとも天杖か、はたまた妖杖か。


 表示された4つの選択肢。


 その選択肢を前にヒナギクは腕を組み、頭を悩ませることになったのだった。

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