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34話 特別へと至るために

 検証もどうにか終わりを告げ、レンはテンゼンとの模擬戦を繰り返す日々に戻った。


 もともと模擬戦は、ミカヅチの進化のために行っていた。その進化はすでに済んだが、もうひとつの目標であるクラスチェンジは、なんのとっかかりもなかった。


 進化の条件は早い段階で、検証班が答えに達していたが、クラスチェンジに関してはまだ謎な部分が多い。


 一部のプレイヤーはすでにクラスチェンジを果たしている。だが、その数は本当に一部であり、選ばれた者のみが~という枕詞が付随しそうな状況になってしまっている。


 とはいえ、選ばれたプレイヤーだけがクラスチェンジできるというのは、さすがに暴動が起きかねない。というか、ありえない。


 この手のゲームにおいて、クラスチェンジはつきもの。それが一部のプレイヤーだけが行えるというのは、「暴動を起こしてもいいですよ」と運営が言っているようなものだ。


 クラスチェンジ自体は全プレイヤーが行えるはず。


 ただ、その条件がいまいちわかっていなかった。


 いや、正確には、進化できる条件は判明しつつあるのだが、そのための必須条件の取得方法がわかっていないと言うべきだろう。


 検証班が導き出した答えは、「称号を取得する」というもの。


 ただし、称号ならなんでもいいわけじゃない。


 クラスチェンジ専用の称号が必要になるのではないかというのが検証班の考察だった。


 その証拠のひとつとして、運営からのレポートには、取得称号の一覧という項目があるのだが、その項目にはいままでなかった複数の称号が記されていた。


 その中にはタマモが得た「連理へと至りし者」も含まれていた。他には「渾身に至りし者」や「疾風を愛する者」などいままで聞いたことのなかった称号が新しく追加されていた。

 新しく追加された称号から、検証班は「クラスチェンジには特殊称号というべきものが必要なのではないか」という考察が為されていた。


 なにせ、クラスチェンジ第一号であろうタマモこそが、その特殊称号の持ち主のひとりであるからだ。


 タマモが得た称号は「連理へと至りし者」というのは、やはり運営からのレポートで知れ渡っている。


 というのも、タマモの見目は武闘大会やらで広く知れ渡っていた。そのタマモが少し前から、「タマモのごはんやさん」をオープンしたときには、以前とは姿が大きく変わっているのだ。「鑑定」を行えば彼女の種族名が変わっていることもわかる。


 誰もがタマモがクラスチェンジしたのだと導き出すだろう。そのうえ、運営からのレポートで「連理へと至りし者」なんて称号が新しく追加されていたら、「クラスチェンジにはなにかしらの称号が必要なのではないか」と誰もが考えることだろう。


 それ以降のレポートでも続々と新しい称号が追加されたうえに、クラスチェンジを果たしたプレイヤーも増えていった。


 こうなれば、クラスチェンジには特殊称号が必要というのは明かな話だ。


 問題となるのは、その特殊称号の取得方法である。


 いまのところほぼ判明しているのは、「紅華」のローズが取得した「疾風を愛する者」だけ。


 その取得方法はローズ自身が、掲示板で書き込んでいるのだが、その内容はどう考えてもローズ専用としか言いようがない。


 ローズが「疾風を愛する者」を取得したのは、戦闘終了後だった。ローズの戦闘スタイルである高速機動からの一撃離脱をいつものように行い、戦闘を終了させると、「疾風を愛する者」を取得し、その流れで「疾風戦士」なる職業へのクラスチェンジが可能となったのだ。

 称号名と職業が一致していることから、特殊称号を得たからこそのクラスチェンジであることは間違いない。


 取得方法もその称号名から高速機動からの一撃離脱を規定回数行うというものだろうと判明している。


 なにせ、「疾風を愛する者」の詳細には、「相対する者に影すら踏まさず翻弄する姿。まさに疾風の如く」とあったのだ。


 その詳細を踏まえれば、「疾風を愛する者」は圧倒的な速度で相手を翻弄すること、高速で移動し、バックスタッブを行い、反撃を喰らう前に離脱することが条件であるというのは覗える。


 問題はその規定回数がどれくらいなのかということ。


 ローズ曰く「千や二千なんてとっくの昔に超えている」というくらい、ローズは高速機動からの一撃離脱という戦法を常に行っている。


 なのに、千や二千が規定回数であれば、とっくの昔にくらいで「疾風を愛する者」が取得できていないとおかしい。


 となれば、規定回数はそれ以上と考えるべき。となれば、規定回数は区切りよく一万回くらいではないかという考察が上がったのだ。


 一万はさすがに多すぎるという意見もあったが、それもローズ曰く「たぶん、正式リリースしてからならそのくらいはしているかも」との言葉に、「疾風を愛する者」の取得はおそらく高速機動からの一撃離脱を一万回行うという仮の答えが出ることになった。


 しかし仮の答えとは言え、その一万回行うべき高速機動からの一撃離脱という戦法は、めちゃくちゃに難しい。


 ただAGIを上げればいいだけではない。ローズ曰く相手の隙を衝いてのバックスタッブは思い切りの良さも必要だが、それまでの経験ももちろんいるし、洞察力だっているとのこと。

 ローズ同様にAGI高めのプレイヤーが、実際に試してみたところ、バックスタッブだけであれば、そこまで難しくはないが、反撃を喰らわずに離脱するのが難しすぎたという報告を上げた。


 一回もできないわけではないが、何度も行うのは集中力が続かないとも報告されている。


 そのプレイヤー以外にも、何人かが挑戦してみたが、ローズのまねをするのは無理だという報告は上がり続けた。やはり集中力が続かず、どこかで反撃を喰らってしまうようだ。累計か連続かはわからないが、少なくとも一万回という大台を狙うのは、時間も根気も足らないから無理という結論である。


「お正月トライアスロン」で、ローズに勝利しているレンとて、ローズの戦法を真似るのは無理だった。


 ミカヅチが進化して間もなく、シュトロームに頼み、模擬戦に付き合って貰い、試してみたのだが、レンではバックスタッブはおろか、シュトロームを振り切ることはできなかったし、それはシュトロームの部下にあたるスライム軍団はもちろん、御山のどのモンスター相手でも同じだった。


 レベル差がありすぎるということもあるが、ミカヅチが進化したことでの弊害が、常に帯電することで生じるスパーク音が、レンの現在地を正確に相手に教えてしまい、背後を取ることができなかったのだ。


 それはレンだけではなく、テンゼンもまた同じだ。レンとは違い、テンゼンでは単純に地のAGIが足りないという結果が出た。


「お正月トライアスロン」でローズと対峙し、名勝負を演じたふたりでさえも行えないということは、「疾風を愛する者」の取得条件を満たせるのは、事実上の取得者であるローズのみということになる。


 ゆくゆくは取得できるかもしれないが、現時点で取得するための時間が足りない。貴重な情報ではあるものの、レンは泣く泣く「疾風を愛する者」の取得を諦めた。


 ただ、「疾風を愛する者」の情報は福音でもある。


 なにかしらの特殊な行動を規定回数行うというのが、特殊称号を得るための条件だというのがわかるからである。


 そして「疾風を愛する者」は、その名の通りスピード特化系プレイヤーのためのもの。その中でも極一部のプレイヤーしか取得はできそうにないが、同じスピード特化系でも似たような条件の特殊称号があるのではないかと検証班は考察している。


 というのもスピード特化系のプレイヤー用の称号が「疾風を愛する者」だけというのはどうにも考えづらいためである。取得条件があまりにも厳しすぎるので、もっと簡単な取得条件のものが、マイナーダウンした汎用的な特殊称号があると考えるのが妥当であった。


 逆に言えば、「疾風を愛する者」のような極一部のプレイヤーしか取得できない特殊称号があるのではないかとも考えられている。


 レンが目指しているのは後者だった。


 なにせシュトロームからの情報で、ヒナギクがクラスチェンジを果たしたことを伝えられたのだ。その際に得た称号は「渾身に至りし者」である。


 ヒナギクが得た「渾身に至りし者」はマイナーダウンとはとてもではないが言えない、厳しいものだった。いわば、特別な特殊称号である。


 そしてふたりがクラスチェンジと進化を目指す切っ掛けとなったタマモが得たのは「連理へと至りし者」であり、どう考えても特殊称号の中でも特別なものだろう。なのに、レンだけ汎用的な特殊称号というのはあまりにもかっこ悪すぎる。


「本当にバカじゃないの?」とヒナギクに言われかねないことだろうが、それでもひとりだけ汎用的なのはなんだか嫌なのだ。


 そのため、レンは特別な特殊称号を得るために、今日も今日とてテンゼンとの模擬戦に精を出す。特別を目指すための戦いに身を置くのだった。

この頃は、特別という言葉に憧れているレンですが、将来的にその特別に苦しむことになるなんて思ってもいません。

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