24話 玉森家メイド隊の苦労
今回も引き続きリアル視点でのお話となります。
今回もわりと攻めました←ヲイ
「いただきまーす」
「はい、召し上がれ」
早苗に姫抱きされて食堂へとやってきたまりもは、定位置である下座に腰掛けて早苗手製のサンドイッチを頬張っていく。
そんなまりもを眺めつつ、早苗はとてもきれいな仕草で紅茶を注いでいた。それだけを見ると一枚の絵になるような光景ではあるのだが、紅茶を淹れながらも早苗の目はまりもの一挙手一投足に注がれていた。
(あぁ、おちょぼくちで食べるお嬢様もかわいい。あぁ、なぜあたしはあのサンドイッチではないんだ!?)
まりもでもドン引きするような心の叫びを上げながら、完璧な仕草、完璧なタイミングでまりもの前に紅茶を置く早苗。そんな早苗の内心の叫びをなんとなく予想しつつ、壁際にて待機している玉森家メイド隊の面々だった。
(隊長ってなんであんなにお嬢様が好きなんだろうね?)
(というか、隊長の変態っぷりにどうして気づかないのかな?)
(見た目は完璧なメイドだから、あの人。特にお嬢様に対しては)
(ああ、だから隊長の変態っぷりに気付かないのかぁ)
(まぁ、お嬢様もわりと変た──)
声を出さずにまぶたを開いては閉じてでモールス信号のように会話を交わしていくメイド隊たち。しかしひとりのメイドがうかつなことを言おうとした瞬間──。
(……誰が変態だって? いい度胸だなぁ、てめえら)
──当の早苗がメイド隊たちの使っていたモールス信号の会話に乱入してきた。それもまりもには気づかれないように笑いながらだ。メイド隊たちが独自で編み出した方法であり、早苗には教えていなかったにも関わらず、だ。
(き、気付かれたぁぁぁ!?)
(こ、今回は気付かれないと思っていたのにぃぃぃ!?)
メイド隊の面々はモールス信号を使いながら叫んでいた。素直に悲鳴を上げた方が速いのでは、と思ってはいけない。メイドにはメイドとしての尊厳があるためである。その尊厳が野蛮に悲鳴を上げると言う行為を許さないのである。
(おまえら、あとであたしの部屋に来い。説教だ)
(ご、ご寛恕を!)
(許さん。あたしのことをなんと言おうと勝手だが、お嬢様を変態と抜かしたことだけは許さん)
(で、ですが。お嬢様はわりと変態で)
(バカ野郎! 胸が好きなことのどこが変態だって言うんだ!? 胸とは母性の象徴だ! つまり胸が好きということは、お嬢様が内心でお母君である奥様のことを恋しく想われているということだ! あたしらは奥様にはなれん。しかしその代りになることはできる! そのことを誉れと思わず、変態とは何様のつもりだ!?)
まりもに気付かれないように目を見開く早苗。しっかりとモールス信号をした後に目を見開いているのだから、無駄に芸が細かい。
(で、ですが、隊長。それは奥様の代りと言えるのでしょうか?)
早苗の勢いに呑まれそうになるメイド隊たち。しかしひとりのメイドが早苗の現状に疑問をぶつけていた。
現在の早苗は朝食を食べ終えたまりもに抱き着かれていた。まりもは早苗の胸に顔を埋めて顏をぐりぐりとこすりつけている。その表情は鼻の下が伸びてちょっとだけだらしないものだった。
「早苗さんのお胸は今日も最高ですねぇ~」
「ん。ダメ、です。お嬢様。皆の前でこんな、んん!」
「いいじゃないですかぁ。早苗さんのお胸はボクのものですぅ~」
「も、もうお嬢様ったら、だ、だめ!」
身悶えする早苗と惚けた笑顔で顔をこすりつけていくまりも。その光景は早苗が力説していた「母親を求めているお嬢様」という光景とはかけ離れたものである。
(……明らかに奥様を恋しく思うからという光景ではないような)
(お嬢様も人間だ。人間であれば倒錯的な趣味に走られてしまうこともあるだろう、ん!)
(いや、言っていることおかしくないですか!?)
(単純に隊長がお嬢様に大甘ってだけじゃないですか!?)
(なんで私たちまで巻き込まれなきゃ──)
(うるせぇ、黙れ!)
身悶えしながら目を見開く早苗。その目に強制的に黙らされるメイド隊の面々。
玉森家メイド隊とは表向きは玉森家の面々に付き従う見目麗しきメイドたちの総称だが、実際は隊長である早苗による恐怖政治を受ける集団であった。
しかしそのことをまりもは知らない。知らないまま、早苗の胸を堪能していた。
(ん~。やっぱり早苗さんの胸がいまのところ最高なのですよぉ~。アオイさんほどのフィット感はないですけど、この安心感は何物にも代えがたいのです)
なんとも言えない幸福感に浸りながら、まりもはメイド隊たちの惨状に気付かないまま、早苗の胸の感触を堪能していったのだった。
……気付いたら一話分になっていたのはどういうことだろう?←汗




