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43話 気の遠くなる話

「──しかし、タマモは思っていた以上に筋がいいな」


 焦炎王に頭を撫でて貰った後、焦炎王はいくらか頬を綻ばせながら言った。


 当のタマモにとっては寝耳に水という体であったため、いつものように「ふぇ?」と首を傾げた。


 タマモの反応に焦炎王は愛おしげに目を細めながら、再びタマモの頭を撫で始める。焦炎王はそれだけで済んだのだが、タマモLOVE勢である妖狐のふたりは時が止まったかのように体を硬直させていた。硬直させているのだが、その硬直はそれぞれに異なっていた。


 アンリは目をきらきらと輝かせて鼻息を荒くして硬直していた。それを硬直と言っていいのかは定かではないが、動きが止まっているという意味合いであれば紛れもなく硬直はしていた。


 一方、エリセはというと、物の見事に硬直していた。これ以上に「硬直」という言葉が似合う姿がないと言い切れるほどに、物の見事に硬直はしている。が、タマモを見やる目は非常に鋭かった。狐という生物が根っからのハンターであることをその目は雄弁に物語っていた。


 アンリは散々お預けを喰らっていたということもあるが、エリセに至っては思う存分に堪能していたはずだったのにこれである。ふたりともどれほどにタマモにぞっこんであるのがよくわかる。そんな光景に焦炎王は若干遠い目をしながら言った。


「……なんというか、タマモは好かれておるのぉ」


 妖狐ふたりの反応を見て、若干引き気味な焦炎王だが、それだけタマモが魅力的な存在であるということは理解しているので、あえてそれ以上はなにも言わずにタマモの頭を撫でていく。


 焦炎王に頭を撫でて貰いながらタマモは「ほぇぇ?」と気持ちよさそうな声を上げた。その姿に妖狐ふたりはまたそれぞれの反応を示すのだが、それは割愛する。


「……アンリちゃんもエリセさんも若干ヤンデレ気味だよね?」


「……言ってやるなよ。あぁいう好かれた方はしたくないけども」


「……どうしてだろうね? なんだか将来的にあんたもああなりそうな気がする」


「ないない、そんなことないってば。俺がそんなモテるわけねぇし」


「……だといいけどねぇ」


 タマモのモテっぷりを見てヒナギクとレンは他人事な話をしていた。なお余談だが、将来的にレンはタマモ以上のモテっぷりかつヤンデレに囲まれ、日常的に命の危機に陥ることになるのだが、このときのレンがそのことを予見することはできるはずもなかった。


 そんな、ある意味レンの将来の姿とも言えなくもない状況に陥っていたタマモだったが、「ところで」と話題を切り換えることにした。


「焦炎王様、ボクって筋がいいのですか?」


「うん? あぁ、そうさな。思っていたよりかはよい。とはいえ、別段優れているというわけでもないがの。だが、才なしとまでは言わんがな」


「ん~。それってどっち付かずってことですよね?」


「ははは、そうとも言うな。だが、まったく可能性がないわけではない。鍛えれば「深奥」に至ることも夢ではなかろう」


「「深奥」ですか。……ここでは見せられないのですよね?」


「あぁ、こんな美しい光景を見せてくれる場所で使うものではない。そもそも「炎焦剣」が、いや、5大流派自体、こんな場所で使うべきものではないのだよ。その「深奥」となればなおさらのことだ」


 焦炎王は佇まいを直して、とても真剣な表情を浮かべた。「炎焦剣」がどれほどに危険なものであるのかがその一言で理解できた。その一方でわからないことがひとつ増えてしまった。


「……5大流派ってなんですか?」


 聞いたことのない単語が飛び出てきた。「炎焦剣」を取得するときには、そんな単語は一切表示されていなかった。が、焦炎王の口ぶりからして「炎焦剣」はその5大流派のひとつなのだろう。


 加えておそらくではあるが、「氷結王の料理番」で取得した「結氷拳」もそのひとつだろう。なにせスキルの説明がかなり似通っているうえに、取得に必要なボーナスポイントの量も同じなのだ。これで「結氷拳」は違うというのはさすがにないだろうが、いまひとつ核心はない。それだけ未知の単語であったのだ。掲示板を眺めても答えが出ることはあるまい。


(レポートでは、たしか「結氷拳」はボクしか取得者がいなかったですね。「炎焦拳」はそもそも表示されてさえいなかったですし)


 先日運営から送られてきた運営からのレポートを見る限り、現時点で「結氷拳」はタマモだけしか取得していなかった。それは「炎焦剣」も同じだ。つまり、このふたつは現時点ではタマモのユニークスキルのような存在になっているということだった。ゆえに5大流派の答えが掲示板にないのは当然のことだ。むしろタマモ自身が書き込まない限りは、誰も知らない単語であることは間違いなさそうだった。


「あぁ、そうか。タマモは知らぬか。口伝であっても「炎焦剣」自体は途切れてしまっているからのぉ。まぁ、途切れてしまっているのは他の4つも同じではあるがな。特に5つ目に至っては最初に至った者以来、誰もそこまで到達できた者もおらぬ代物だしな」


 しみじみと頷く焦炎王。きな臭くはないが、かなり問題のある発言であった。


(かなり習得難易度が高いということでしょうか? 実際「結氷拳」も「炎焦剣」も取得するのに25点も必要でしたから。残りの3つを取得しようとしたら75点も必要になるということに)


「結氷拳」も「炎焦剣」と同じ5大流派であったとしたら、残りの3つも同じ量のボーナスポイントが必要になる。つまり75点もの大量のポイントがだ。そしてもし、「結氷拳」と「炎焦剣」同様に禁術も取得可能となったら、その分のポイントも必要になると考えると、総数は恐ろしい数値──約200ポイント必要となる。


(100回レベルアップしたら到達できますけど、それまでにどれだけの経験値が──気が遠くなりそうです)


 考えれば考えるほどドツボにはまりそうだったが、考えずにはいられないことだった。その分強力なスキルを得られるのだろうが、それでも考えると気は遠ざかってしまう。


(……無駄遣いは避けてコツコツと貯めていきましょうかね)


 取得可能になるかはわからないが、少なくとも可能性はありそうな将来を考えると、非常に頭が痛い。無駄遣いは避けてコツコツと貯めていこう。そう心に決めたタマモであった。


「ちなみにだが、5大流派のうち4つは「四竜王」がそれぞれ極めている。残りのお二方に会うことがあれば、おそらくは教えていただけると思うぞ? 最後の1つはまぁ、いま考えなくてもよかろう」


 ある意味予想通りな一言を告げられるタマモ。「やっぱりかぁ」と思いながらも、「貯蓄は大事ですね」と改めて思い直すのだった。

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