表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

533/1007

39話 気まずい空気

「──まぁ、いろいろとあって遅れましたが、ただいまですよ、アンリさん、エリセさん」


「はい、お帰りなさいませ、旦那様」


「お帰りなさいませ、旦那様──あたたた、なんか頭痛いぃ」


 エリセのハグから開放され、タマモは改めてふたりに帰ってきたことを告げていた。


 アンリはいつものように三つ指突いて迎え入れてくれた。エリセもまた三つ指突いていたのだが、突如として襲ってきた頭痛に顔を顰めて、頭を抑えていた。


 もっとも、突如としてというのはエリセ本人だけの感覚であり、タマモとアンリからしてみれば、当然の結果としか言いようがない。むしろ、あれだけ飲み干したというのにも関わらず、頭痛だけで済んでいるのだから、どれだけうわばみなのかと言いたくなる。


 そんなうわばみなエリセでも、さすがに泥酔はするようだが、その代償が頭痛だけというのはとんでもないことだとタマモとアンリは揃って思っていた。


 なお、現在のエリセは完全に酒が抜けているうえに、泥酔していたときの記憶はすっかりと抜け落ちていた。


 酒に酔うと、記憶を失うタイプは一定数はいるし、逆にどれだけ酔っ払ってもしっかりと憶えているタイプもいる。残念ながらエリセは記憶を完全に失ってしまうタイプのようで、泥酔中の自身がどれだけやらかしているのかを憶えていない。


 ゆえに、なぜ頭痛に襲われているのかという疑問に対する答えを、一切持ち得ていないのだ。


 その疑問に対する答えを持ち合わせているタマモとアンリだが、それぞれに別の理由であえて答えを教えないでいる。


 タマモは鼻の下を伸ばすのを避けるためなのと、アンリは単純に嫉妬ゆえにである。


 タマモにとってエリセのハグは、本人が思った通り「ここに住みたい」と願うほどに心地よかったのだ。その感触もぬくもりもまさに至高であったのだ。だからだろうか、タマモは気を抜くとエリセの胸元をガン見しそうになってしまうのだ。


 できることであれば、ほぼ恒常的にああしてハグをして欲しいと思ってしまっているのだ。もしタマモが男性であれば完全に事案であった。ただ、事案であってもタマモとエリセのどちらの事案であったのかは、タマモの外見次第になっていたのは言うまでもないことだが。


 だが、タマモは男性ではなく女性であるため、事案には一応はならない。ただ、鼻の下を伸ばしてだらしなく笑ってしまいそうになるので、その表情を見れば誰であろうと事案発生と思うことは間違いない。


 もっとも現在コテージ内にいるのは、アンリとエリセというタマモにぞっこんな美少女ないし美女であるため、残念ながら事案にはならない。それどころかだらしなく笑うタマモを見てもふたりは「かわいい」と思うだけであるのは間違いない。


 あばたもえくぼという言葉があるとおり、好きな相手であれば、欠点であっても愛おしく感じられるもので、タマモの嗜好というか、性癖はどう考えても欠点であるのだが、その欠点さえもアンリとエリセにとっては「かわいい」という反応にしかならない。なお余談だが、クランのメンバーであるヒナギクとレンがその表情を見た場合の反応が、通報一択になるのだが、いまは割愛する。


 とにかく、タマモがエリセの疑問に答えないのは、「いくらなんでも思い出し笑いを、自分でも気持ち悪いだろうなぁと思うレベルの思い出し笑いをしてしまうのを避けるため」というある意味切実な理由である。


 タマモとは違い、アンリが答えないのは、まだ成長する余地があるとはいえ、エリセの胸部装甲よりもはるかに劣るがため、仮にアンリが同じようにタマモをハグしたとしても、エリセがハグしたときほど、タマモを満足させられないというのがアンリ自身理解している。エリセがなにをしたのかということに答えると、アンリはみずからエリセに劣っていることを、タマモを満足させれないということを暴露しなければならなくなるのだ。それだけは避けたいがために、アンリもまたなにもいないのだ。


 かたや愛想を尽かされるのを避けるため、かたや自身が劣っていることを伝えないためというそれぞれの理由はあれど、エリセの疑問に答えないという一点に限っては同じだった。


 かく言うエリセも自身を襲う頭痛の答えを得られないことに対して、思うところはある。普段であればタマモとアンリのどちらかは答えてくれるはずなのに、今回に限ってはどちらも答えてくれないことから、自分が相当なにかしらのやらかしをしてしまったのだという結論に至っている。


 とはいえだ。そのなにかしらがどういうことなのかまではわかっていないので、怖い物見たさで知りたいとは思っている。思っているが、ふたりの反応からして生半可なやらかしではないだろうなぁとはわかっている。知りたいとは思うが、その一方で絶対知りたくないとも思ってしまっているのだ。


 それゆえにエリセも深く追求はせずに、自身を蝕む頭痛に耐えていた。


 そんな三者三様のなんとも言えない雰囲気が現在コテージの中で充満していた。そんな3人の有り様を我関せずと言わんばかりに、クーはひとり呑気にクー用に用意されているおせち料理に舌鼓を打っていた。


 おまえの食性ってなんだっけと言わんばかりの食事内容なのだが、そのことを指摘できる人物は誰もおらず、かと言って、いまの微妙な空気に対してなにか言える人物もまた存在していなかった。


 そんな気まずい空気が漂っていたコテージ内だったが、そんな気まずい空気も不意に一転することになった。それは──。


「邪魔するぞ、タマモ」


 ノックの音とともにひとりの女性がコテージ内に顔を出したのだ。その女性は髪から装備までもが赤で統一されている、勝ち気そうな美女であった。その女性を見てタマモとアンリはすぐに顔をあげた。エリセはふたりの反応を見たというのもあるが、単純に女性の纏う雰囲気を、絶対強者とでも言うべき雰囲気を感じ取り、ふたり同様に背筋を伸ばした。


「これは焦炎王様。あけましておめでとうございます」


「あけましておめでとうございます、焦炎王様」


「え? 焦炎王様って、「四竜王」のおひとりの?」


 タマモとアンリの言葉に唖然とするエリセ。そんなエリセの言葉を受けて、焦炎王はエリセを上から下までじっと眺めてから──。


「……ふむ。タマモの嗜好的にドンピシャな女子だな。しかし、どこかで見たような」


 ──とエリセがタマモの嗜好ど真ん中であることを言い当てていた。その言葉にエリセは嬉しそうに頬を染めつつ、焦炎王の疑問に答えた。


「おそらくは、私の父を知っているがためかと思われます。私の父は「水の妖狐の長」でしたので」


「あぁ、そういうことか。たしかに「水の妖狐の長」のところには、歴代屈指の才を持った娘がいたな。とはいっても我が会ったのはまだ赤子だった頃だったはずだが、たしかエリセだったか?」


「あ、はい。そのエリセです」


「ほう? あの赤子がこんな立派に。聖風王殿も自身の膝元の里長がここまで立派になったのを誇っていることであろう」


「いえ、さすがにそのようなことは」


「ははは、謙遜するな。しかし、たしかそなたはいまの里長になっているはずだったが、なぜタマモの所に?」


「それは話すと長くなるのですが」


「構わん、構わん。タマモ、食事の準備を頼むぞ。その間にエリセと話をさせて貰うが」


「あ、はい。それは構いません。それじゃアンリさん、手伝ってくださいね」


「はい、旦那様」


 とんとん拍子に話が進んでいくことに、それまでの空気が一変したことに「さすがは焦炎王様だなぁ」といろんな意味で関心しながらも、タマモとアンリは焦炎王の食事を用意を始めるのだった。

料理番関係までいかなかった←汗

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ