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37 結果発表

「──それでは、これより優勝チームの発表となりますが、もうすでに皆さんもご存知の結果です」


 レンが無事に、と言っていいかどうかはわからないが、「トリニティボーナス」を取得したうえでのトップで辛くもゴールし終えて、約10分後、「競技場」内では結果発表兼表彰式が行われていた。


 ちなみに、レンの次にゴールしたのはローズとテンゼンだった。ほぼ横一列だったこともあり、同着という形になった。その後は数人がなんとか奮起し、どうにかゴールしたため、上位3名だけしかゴールできなかったという結果にはならなかった。


 しかし大半の参加者は棄権してしまったため、最終レースでポイントを得られたチームは思った以上に少なくなってしまった。そのため、結果発表の順位は前2レースの結果を踏まえたものになってしまっている。中にはゴールできた参加者のチームが順位を上げているということもあるにはあるが、大半は前2レースの結果がそのまま最終順位に直結するという形で「お正月トライアスロン」を終えている。


 なお、準優勝は同着でテンゼンととともにゴールしたが、「トリニティボーナス」の有無で最終レースで2位を取ったローズが率いる「紅華」となった。


 余談だが、テンゼンは結局「トリニティボーナス」を得ることはできなかった。テンゼンが得られたボーナスは「パーフェクト」と「スプリンター」のふたつだけ。「クリーン」に関してはレンへの支援となった「氷雪魔法」の一撃が妨害行為となったために、「クリーン」を得ることができなくなり、「トリニティボーナス」の取得もできなかったのだ。


 そんなテンゼンとは対照的にローズは「トリニティボーナス」を得たうえに、前2レースの結果はそれぞれに入賞していたこともあり、最終レース前の段階でそれなりの順位にいたところに、最終レースでの獲得ポイントによって一気に準優勝まで躍り込んだのだ。


 それでも総合優勝には到底及ぶことはなかった。


 実況の言う通り、総合優勝したチームはすでに誰もがわかりきっていることだった。なにせそれほどの圧勝劇という結果になったからである。


 前2レースはもちろん、最終レースであった「スプリント」でも1位となり、誰がどう考えても優勝チームがどのチームであるのかなどと明らか。


 それでも結果発表はしなければならない。実況は「ご存知の通り」と前置きを置いてから、優勝チームを発表した。


「今回の「お正月トライアスロン」の総合優勝チームは──」


 実況がお約束と言わんばかりにタメを作ると、待っていましたとばかりのドラムロールが流れていく。そのドラムロールが止むと、溜めていた間を開放して実況は叫んだ。


「──「フィオーレ」のみなさんとなりました!!!」


 実況の宣言とともに会場中が一気に盛り上がった。歓声と拍手が交互に織りなす中、「競技場」の中央に座す表彰台の上で身を固くする「フィオーレ」の面々。


「……まさか総合優勝しちゃうとはねぇ」


 歓声と拍手を浴びながら、なんとも言えない表情を浮かべるヒナギク。その隣では苦笑いしながら頷くタマモがいる。そのさらに隣、ヒナギクの逆側からタマモを挟むようにして立つレンはひとり黙って腕を組んでいる。


 ポーズだけを見ると、今回の結果は当然のものだと思っているという風に取られかねない。が、実際にはその逆──今回の結果に満足していないためである。正確に言えば、最後の最後でテンゼンの助力を得たことに思うところがあるようだ。加えてその助力のせいで、テンゼンは「トリニティボーナス」を得られなくなったことも拍車を掛けている。


 とはいえ、もともとテンゼンは正規の参加者というわけではなく、ゲストという形で最終レースだけの参加者だったこともあり、テンゼンが「トリニティボーナス」を得ようと得まいと「フィオーレ」の総合優勝の妨げになることは決してなかった。


 仮にテンゼンが最終レースでボーナス込みで1位になったとしても、前2レースの貯金がものを言って、やはり「フィオーレ」が総合優勝したことは変わらない。


 そのこと自体はレン自身も理解している。納得できていないのは、距離を見誤ったこと、いわば詰めの甘さをテンゼンにフォローして貰ったということだ。


 ほぼ極限状態だったレース中で、最後まで完璧でいられるわけがない。若干のミスはどうしたって発生してしまう。そもそもミスを一切しない人間などいるわけがないのだから、ミス自体は致し方がない。そのミスにしたって大きな問題に繋がるような、それこそ人命に関わるような致命的なものではない。


 もっともあのまま放置していれば、レンがトラップの餌食になったことは間違いなかった。レンがトラップの餌食になれば、今回の結果にはなりえなかったことは間違いない。


 そんな状態を見て、実の家族が危機的状況にある中、なにもせずに放置できるという人はそう多くないだろう。誰だってあの状況であれば、助力をしてしまうのも肉親としては当然のことである。


 ゆえにテンゼンの「トリニティボーナス」の取得失敗は仕方がないことであった。テンゼン自身はその結果でも満足したからなのか、いつのまにか「競技場」内から立ち去っていた。それがどういう感情由来の行動であるのかは人それぞれによって受け取り方は異なるだろうが、少なくともテンゼンなりの照れ隠しだと思う者がいることは間違いないことだ。


 現に「フィオーレ」の面々においては、レン以外の2人にとってテンゼンが照れ隠しのために立ち去ったという同意がなされている。直接的に助力を受けたレンにとっては異なるのが、ややこしいわけなのだが。


 それでもレンも内心では、あれがテンゼンなりの優しさによるものだということはわかっていた。


 わかっていてもなお、納得がいっていないのだ。焦炎王のもとで修行し、それなりの力を得られたはずだったのに、それでも兄の力を借りてしまったということが、棘となってレンの胸に突き刺さっていた。


 上記したとおり、レース中は極限状態だったし、今回のレースは焦炎王に師事を受けたこととはまるで別種の内容であるのだから、助力を受けるのも無理からぬ話。それに助力が嫌だと言うのであれば、タマモたちからの支援もその助力に繋がることになるのだから、はっきりと言えばレンの「納得がいかない」というのはただのわがままである。


 そのわがままを理解してもなお、レンは納得できないと思っている。そのことが余計に事をややこしくしてしまっていた。


「総合優勝した「フィオーレ」にはボーナスポイントをそれぞれに40ポイントと代表者としてマスターであるタマモさんに1000万シルを贈呈いたします」


 実況の言葉の通り、それぞれのボーナスポイントに40ポイントという大量増加とともに、タマモの資金に1000万シルという大金が付与された。


「それではこれで「お正月トライアスロン」は終了とさせていただきます。参加された皆様、観戦させた皆様、揃ってお疲れ様でした」


 実況の声とともにいろいろと波乱だった「お正月トライアスロン」はつつがなく終了するのだった。

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