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17話 遺憾を示すことと醜き争い

「た、タマちゃん?」


 崩れ落ちたタマモの姿に、ヒナギクは顏を引きつらせた。


 いきなり崩れ落ちたのを見たら、誰だって心配はするだろう。特にそれまでそんな予兆もなかったのにそうなれば、余計にだ。


(えっと、ダメージを喰らったわけじゃないから。となると)


 崩れ落ちたタマモを見て、なぜ崩れ落ちたのかを察するヒナギク。もっとも状況から踏まえるとそれ以外にはありえないのだろうが。


「えっと、幼女扱いされるのが嫌だったの?」


 恐る恐ると尋ねると、タマモは静かに頷いた。


 エターナルカイザーオンラインは最低でも10歳からしかプレイはできない。


 それ以下の年齢の子供ではいろいろと察することができないからというのが運営の考えだった。


 そのため見た目は幼女やショタであっても、中身は大人という、どこぞの少年探偵を連想させる状況は往々にして発生してしまう。


 そしてそれは当然タマモも例外ではない。現実で18歳の浪人生である。まだ飲酒はできないが、すでにある程度の社会的責任が生じる年齢でもあるのだ。


 そんな年齢であるのに幼女扱いされてしまった。


 その傷はそれなりに深く、タマモの心を容赦なく抉ってくれた。結果タマモは崩れ落ちてしまったのだった。


「俺はロリコンじゃないのに」


「ボクはロリータじゃないのです」


 ぶつぶつとロリコンであることを否定するレン。そして幼女であることを否定するタマモ。


 ほぼ同じ理由で運営からの精神攻撃を受けることになったふたりだった。


 そんなふたりの嘆きの呟きをヒナギクは困った顔で見守っていた。


「ま、まぁまぁふたりとも、あくまでも断定されたわけじゃないんだから」


 あははは、と苦笑いを浮かべつつ、どうにかふたりを慰めようとするヒナギク。


 しかしふたりにはヒナギクの言葉は届かない。同じ苦しみの中にいないのだから、それも当然である。


「……服のサイズはちっとも変わっていないですよ。それでもやっぱりロリータはひどいのですよ」


 ヒナギクの言葉を受けて、タマモは呟いた。


 見た目はたしかにロリータかもしれない。


 しかしあえて言いたいのだ。誰がロリータだと。見た目だけでは判断してするな、と。


 たしかに十歳頃から服のサイズどころか見た目が変化していないのだ。


 せいぜい髪の長さが変化しているくらいで、ロリータと言われれば頷くしかない。


 しかしやはり声を大にして言いたい。ロリータではないのだ、と。ちゃんとレディである、と。そう言いたいが、言ったところで無駄であることはわかっていた。


「……幼女はたしかにかわいいよ? 近所のそのくらいの子たちは慕ってくれて、すごくかわいいし」


 レンもまた呟いていた。幼女相手にそういう目を向けるつもりはない。


 たしかにかわいいなとは思うことはある。


 あるが、それはあくまでも一般的な意味であり、「紳士」的な意味ではないのだ、と。そう声を大にして叫びたい。


 それをいきなりコンプレックス扱いされるのは心外である。


 たしかに「そちらの世界」の扉を開きかけたことは事実だが、それでもコンプレックス扱いはひどいとしか言いようがない。


「あ、あははは」


 タマモとレンによる呪詛に近い呟きを受けて、ヒナギクは苦笑いをしていた。


 苦笑いすることしかできなかった。そんなヒナギクを見てもレンもタマモもぼんやりと呟き続けるだけだった。


「え、えっと、げ、元気出そう? ふたりとも」


 ヒナギクはふたりの周囲を回って励ましていく。


 しかしそれでもふたりの顏は上がらない。特にレンは重傷のようだった。


「ロリコンじゃない」と何度も連呼しながら光のない瞳で虚空を見つめているのだ。


「ぶっちゃけ怖い」とヒナギクは思ったが、それくらいで見捨てられるのであれば、十数年も幼なじみをしていないのである。


「が、頑張れ頑張れ!」


 ついにヒナギクはチアリーディングのような応援を始めた。


 方向性が間違っているだろうことはヒナギクとて理解しているが、そうでもしないとふたりが元気を取り戻さないと考えた結果だった。


 そうしてヒナギクが応援を始めるとまずタマモに変化が現れた。


「……ヒナギクさんは優しいですね」


 まだ若干虚ろな瞳でヒナギクの声援を喜んだのだ。


 やはりヒナギクは優しい。持つべきは優しい嫁であって、口うるさい幼馴染みではないということなのだろうとタマモは思った。


 その際タマモの脳内にいる莉亜が「この見た目ロリが」と舌打ちをしてくれた。……たぶん本物も同じことを言いそうである。


(嫁であるヒナギクさんが応援してくれているのです。ここで頑張らずして旦那の名が廃るというものですよ)


 ヒナギクにプロポーズをしたわけでもないのに旦那顏をしながらタマモは立ち上がろうとした。だが──。


「……ヒナギクは俺の嫁な?」


「……いまはそうですね。ええ、いまだけは」


 ──俯いていたはずのレンが顏を上げる。舌打ちをしたい気分になりながらもタマモは笑っていた。


 レンもまた笑い返した。お互いに笑っているはずなのに、タマモとレンとの間で火花が散っていく。


「……結局こうなるのかぁ」


 醜すぎる争いを始めたふたりにヒナギクは心の底からため息を吐いた。そのため息を合図に第二回「ヒナギクは誰の嫁?」舌戦が始まったのだった。

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