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17話 幕間~レン~

 なんとも言えない展開だったとレンは思った。


(……土壇場での覚醒って言えば聞こえはいいんだろうけれど)


「お年玉獲得レース」と「年賀状配布レース」のふたつのレースにおいて、レンが所属する「フィオーレ」のメンバーであるヒナギクとタマモがトップを取るというまさかの事態になってしまった。


 ふたりともそれなりの成績は残せるんじゃないかなぁとは思っていたが、双方ともにトップを取ってしまうとは予想だにしていなかった。


 正確に言えば、ヒナギクはトップ争いを行えるだろうとは思っていたが、タマモに関してはまったくの想定外だった。


 そもそもの話それぞれのレース内容もなかなかに想定外の連続ではあったものの、こと「年賀状配布レース」はそこまでの波乱が起こることはそうそうないと思っていたのだ。


「エターナルカイザーオンライン」は学生メインのゲームではなく、全年齢対応のゲームである。プレイヤーの中には社会人だって当然いるのだ。その社会人の中には年賀状に関わりあるリアルで郵便局員、つまり本職の人だっている。


 その本職と年賀状の仕分けの速度を競い合う。どう考えても本職の圧勝としか思えない。いくらタマモにある程度のアドバンテージがあろうとそれは変わらないだろうと思っていた。

 だが、蓋を開ければまさかの独走のまま圧勝だった。


(考えてみれば、郵便局員=絶対的に有利とは言えないよなぁ。それぞれ働いている場所が違ううえに、普段扱っている住所とはまるで違うんだから、リアルで働いているときほど速くは無理だもんな)


 そう、郵便局で年賀状を仕分けるするという内容だったからこそ、郵便局員ないし郵便局でアルバイトとして働いているプレイヤーが有利かと思われたが、普段とは別の局のうえ、扱う住所も異なる。そうなれば業務中の速さでの仕分けは無理だろう。ノウハウというアドバンテージはあったとしても、肝心の仕分けの速さはどのプレイヤーも横一線になってしまう。それでも若干の優位性はあっただろうが、その優位性をタマモは見事に食いちぎり、結果圧勝劇になった。


 そのうえどうにも特殊なイベントが起こったようでもあるし、タマモにとっては非常に実入りのいいイベントになったようである。


(たしか、それぞれのレースで入賞を果たしたプレイヤー個人個人にボーナスポイント付与だったっけ?)


 さほど特徴のない開会式の際に、3つのレースそれぞれで10位までに入賞した場合、その順位によってボーナスポイントを付与されるという話だった。加えて3つのレースで総合優勝になったクラン全員にボーナスポイントと賞金を貰えるという話もあった。


 ボーナスポイントはそれぞれのレースで10位~7位までは1ポイント、6位~4位までが2ポイントだが、3位からは5ポイント、2位は10ポイント、1位にはなんと20ポイントもののボーナスポイントを貰える。総合優勝の場合はその倍の40ポイントという破格すぎるポイントに加えて一千万シルの賞金も付いてくるのだ。


 10位と1位では貰えるボーナスポイントの差があるどころか、文字通りに桁が違っている。1位になれれば実入りは非常にいい。総合優勝になれれば、それ以上だ。


 だが、いま思えばそれだけのボーナスポイントを貰えるということは、それだけの難易度だったということの裏返しだったのだろう。


 いま思えば、ボーナスポイントの量がおかしいことを踏まえれば、高難易度のイベントのかもしれないと勘ぐることもできただろうが、誰もが桁違いのボーナスポイントに目が眩んでしまったがゆえに阿鼻叫喚となってしまった。


 賞金そのものは「武闘大会」の時と同じ金額だったが、ボーナスポイントの量をあまり考えていなかったなといまでは思える。


(いまのところ、うちのクランが総合優勝に一番近いかぁ)


 それぞれのレースのハイライト映像が流れていたモニターには現在の総合順位が表示されている。なお、ボーナスポイントとは別で、入賞した場合は順位によってのポイントが付与されており、現時点では「フィオーレ」は2つのレースでトップを取ったため、20ポイントでトップを独走中である。


 2位のクランは12ポイントであり、大きく差を付けているため、最終レースである「スプリントレース」で仮に2位のクランのプレイヤーが1位を取ったとしてもレンが8位までに滑り込めれば「フィオーレ」の総合優勝となる。……絵面としては非常に悪いだろうが。


 それでも必ずしも1位を取らなくてもいいというのは、レンとしては非常に気楽だった。ただし、余計なルールが追加されなければの話だが。


(……バラエティー番組とかだと、最終レースのポイントは倍になるとかあるからなぁ。油断できないなぁ)


 そう、こういう総合優勝を狙う場合、バラエティー番組であればそれまでのレースの結果を踏まえた上で、それまでのポイントの倍のポイントを得られる特別ルールが導入されるというのは半ばお決まりである。


 それまでトップを独走していたチームがその余計なルールのせいで、総合優勝を逃すという展開も含めてのお約束と言えるだろう。


 とはいえ、必ずしもそれまでトップだったチームが総合優勝を逃すということではない。あくまでも逆転の目もありますよという運営の温情と言える措置だ。その措置さえも踏み倒してトップを取れれば、誰も文句なしの優勝となる。


 今回の場合も、仮に2倍のポイントを得られると仮定した場合、仮に2位のクランが最終レースで1位を取った場合、得られるポイントは20ポイント。それまでのポイントと合わせれば総合32ポイントとなる。


 このポイントを超えるには、現在の20ポイントに13ポイント以上の加点が必要となる。仮に最終レースのポイントが2倍となるのであれば、ポイントはすべて偶数となるので、13ポイント以上の加算を狙う場合は、4位に滑り込めればいいのだ。当初の8位よりも厳しい順位にはなるが、それでも必ずしも1位でなければならないというわけではないので、どちらにしろレンにとっては気楽である。


 他のクランにとってみれば、1位は必須条件となる。もっとも1位を取ったところで意味のないクランもいるにはいるが、このまま惨敗してなるものかと最終レースで目に物見せようと気合いを燃やすクランもそれなりにいる。たとえ総合優勝を逃しても、最終レースで1位を取れれば有終の美は飾れるのだ。


 最終レースにおいて1位を取るというのは、まだ説明が始まってもいない現状でもなかなかにハードルの高い行為であることをレンは痛感していた。もっともそれは誰でも思うことであるから、参加者のプレイヤーにとって見れば共通認識のようなものだ。


 少しでも順位を上げるないしは、総合優勝に希望を残すためにも誰もが死に物狂いで1位を目指す。


 最終レースはまさに死闘となることであろう。


(……運営的に万々歳だろうなぁ)


 直近のクリスマスイベントはそうではなかったようだが、その前の「武闘大会」のPVで登録者は増えた。今回のイベントも登録者増加のいい起爆剤となるだろう。掲示板を眺めている限り、すでに2つのレースのハイライト映像が公式HPでアップされているようだった。


「……まぁ、優勝できれば、俺も美味しいからなぁ」


 すでにヒナギクとタマモはボーナスポイントを20ポイント貰っている。このうえ総合優勝すればさらに40ポイント加算される。つまり総合優勝すれば、ふたりはこのイベントで60ポイントという大幅なボーナスポイントを得られるのだ。レンも貰えるのであればボーナスポイントは欲しい。それも多ければ多いほど嬉しい。できればいい順位を狙いたい。それこそ可能ならば1位がいいが、いまのところ倍率が高めであることは間違いない。


(まぁ、俺もやれるだけやりますかね)


 まだ最終レースの説明は始まらない。


 だが、もうじき始まるだろう。会場の熱気も最高潮になっているいま、この瞬間を逃す手はない。そしてその瞬間を運営はやはり逃さなかった。


「これより最終レースの説明を始めます」


 運営のアナウンスととともに歓声が一時的に止んだ。歓声が止んだ「競技場」に運営のアナウンスが再び響くのはほんの数秒後のことだった。

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