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4話 邂逅

 三が日更新二日目です。

 初日から評価をいただけました。

 高い評価ではないですが、とても嬉しいです。ありがとうございました。

 まずは一話目となります。

 目を開けると、それまでの初期部屋ではなかった。


「夕日?」


 世界はオレンジ色に染まっていた。現実ではまだ朝の八時だったはず。それがいま目の前に広がっているのは夕空だった。それに街並みもだいぶ違う。


 まりもが住んでいる街はごく一般的な住宅街だった。


 しかしいま目の前に広がる街は、見慣れた住宅街ではなかった。


 和風な木造建築と洋風なレンガ作りの建物などが入り交じった、オリエンタルとオクシデンタルが混ざり合った街並みだった。


「これが「エターナルカイザーオンライン」の世界、ですか」


 ログインしたのは、塔のような場所の頂上のようだった。歯車の音がそこらから聞こえてくる。どうやら時計塔かなにかのようだ。少なくともまりもが住んでいた街には存在していなかった。


 あまりにも特徴的すぎて、ここがゲーム内世界だというのはすぐにわかった。


 VRMMOは「EKO」でふたつ目ではあるが、以前プレイしていたゲームよりもはるかに作り込まれた世界に、雲ひとつとっても現実世界と変わらないのに、時折遠くの空には竜のような生物や馬のような生物の姿が見える。あまりにも現実離れした幻想的な光景に少しだけまりもは息を呑んでしまった。


「すごいのです」


 いつまでも眺めていたい。そんな気分にまりもは駆られた。


 だが、自分よりも後でログインしてきたプレイヤーたちが少しずつ増えてきていた。


 そして誰もが目の前の光景を眺めてしまっている。あまりいすぎるのも悪いか。まりもは少し先にある階段を下っていく。


「やっぱり時計塔だったんですね」


 ログインした場所はやはり時計塔の頂上のようだった。


 階段はらせん状になっており、中央の吹き抜き部分は時計のパーツなのだろう、いくつもの巨大な歯車によって構成されていた。巻き込まれたらそれだけで死亡確定だろう。


「……ふむ。この時計塔がなにかしらのイベントの舞台になりそうですよね」


 たとえば時計塔の頂上でボスが待ち受けているとか。実にありそうだ。その際らせん階段が消えて歯車に飛び移って上層に向かうなどありえそうだ。


「まぁ、いまはそんなイベントの考察はいいですよね」


 実際にそんなイベントがあるかもわからない。


 しかしまりもと同じことを考えているプレイヤーもいるようで、歯車をじっと眺めている人もちらほらと見かける。中には単純に歯車の巨大さに驚いているだけなのかもしれないが。


 どちらにしろ、歯車を見ているだけでも時間があっという間に過ぎてしまいそうだった。


 せっかくのURのEKの引換券を手に入れたのだから、どんな形状なのかを見てみたい。まりもはやや駆け足でらせん階段を降りていく。


 やがて階段が終わると、大きな扉が開いていた。夕日の光が差し込めている。その光の中にまりもは迷うことなく飛び込み──。


「おぅ?」


「むぎゅ」


 ──とても柔らかなものに顔が包まれてしまった。正確には飛び込んでしまった。


 しかもとても憶えがある感触である。その際声が聞こえた。


 その声はまりものものとは違っていた。そしてその声は明らかに女性のものだった。声はやや低めだが、とても優しそうだった。


「ふふふ、なにやら襲われてしまったの」


 くすくすと笑う声が聞こえてくる。まさか目の前に人がいるなんて思ってもいなかった。まりもは慌てた。慌てたが顏を包む感触は至高そのものである。


(あ、あぁ、柔かさの中にほどよい弾力があるのです。そのうえボクの顏がすっぱりとはまってしまう。まさにジャストフィット!)


 まさに追い求めていたものそのものである。


 残念ながらまりもは見た目相応でしかない。そして莉亜はまりもよりもいくらか大きいという程度でしかなく、揉んでも挟んでもらってもまるで嬉しくないのである。


 そもそも挟めるほどの大きさもないのだ。いわば残念サイズ。


 しかしこれは大きすぎず、かつ小さすぎない。柔かさの中にはほどよい弾力もある。


 そしてなによりもまりもの顏を挟める。まさに至高である。まりもが追い求め続けてきた至高の胸である。


(だ、だけどいきなり突っ込んじゃったのですよ! 早く謝らないといけないのです!)


 そう、いくらまりもが追い求めてきた至高の存在とはいえ、それはあくまでもまりもの中での至高でしかない。


 そもそもその至高の胸を持つプレイヤーに嫌われるなどあってはならない。どうにか怒られないように、かつ嫌われないようにしなければならない。


「……なにかあったかの?」


 女性プレイヤーは不思議そうに言う。声からして困惑しているのは明らかだった。まりもは慌てて、だが名残惜しむように顔を上げた。


「ご、ごめんなさい! 急に突っ込んじゃ──」


「いやいや、我も少しぼうっとしておったので──」


 まりもだけではなく、女性プレイヤーも謝ろうとしていた。


 どうやら怒ってはいないようなので安心したとまりもは思っていた。


 だが女性プレイヤーを見た瞬間、まりもは雷に打たれたかのような衝撃を感じた。


(な、なんですかぁぁぁぁ! この超絶美人さん!? ボクの理想の嫁像なんですけど!?)


 粗相をやらかしてしまった女性プレイヤーは、なにからなにまでが美しかった。


 長く煌めく銀髪に穏やかな青い瞳。髪の色彩によく似た雪のような真っ白な肌。そしてまりも自身が顏を埋めていた胸はもはや言うまでもない。


 右目にはやや小さめな泣きぼくろがある顔は、純日本人というか、これぞ大和撫子とも言うべき顔立ちである。胸は大きいが、それでも和服がとても似合いそうである。


 つまりまりもにとってドストライクな美人さんだった。


 だが、雷に打たれたのはまりもだけではなかった。女性プレイヤーもまた雷に打たれたような衝撃を感じていた。


(な、なんじゃぁぁぁ! この超絶かわいい生物!? わたくしの理想そのものなんですけど!?)


 まりもの容姿に女性プレイヤーは内心で打ち震えていた。


 かわいいものが大好きなこのプレイヤーにとって、まりもの容姿はまさに理想像である。


 某七つの球を集めるアドベンチャーに出て来るあの球が実在していたら、「世界中の女性を一定の年齢から成長しないようにしてほしい」と願うほどに小さい子が好きなのである。


 とはいえ性的な意味ではなく、あくまでも愛でていたいという理由だが、どちらにしろロリコン判定を喰らうのは間違いない。


 お互いにお互いがドストライクな見目をしていた。そんなふたりはしばらくの間、お互いを見やって固まっていたのである。


 そしてこれが長きにわたる宿命のライバルである「おたまの英雄」タマモと「しゃもじの魔王」アオイの出会いとなったのだった。

 趣味がちょっとアレなふたりの邂逅となりました。

 続きは六時になります。

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