6話 イベントのお知らせ
「──えっと、「新年イベントのお知らせ」ですか」
食事中に突如として届いたメール。
その内容はタマモが口にした通り、新年のイベントに対するお知らせだった。
メール自体はそれなりの分量があるもので、目を通すにはそれなりに時間が掛かった。時間は掛かったが内容はとても面白いものだった。
具体的な内容を抜粋すると以下のようになる。
「謹んで新春の祝詞を申し上げます。
昨年は弊社の「エターナルカイザーオンライン」にご登録いただき、誠にありがとうございます。
プレイヤーの皆様方のご要望に少しでもお応えできましたこと大変に光栄に存じます。
本年もさらなるサービス向上に向け、気持ちを新たに運営一堂誠心誠意を以て、励んで参ります」
一般的なビジネス関係の新春の挨拶からメールは始まっていた。
わりとぶっ飛んだ、もとい、斬新すぎるシステムを用意した運営たちだが、こういうところはしっかりと締めるのだなぁと少しだけ関心したタマモ。……社会人であれば当然と言われればそうなのかもしれないが、それでもこういうするべきところをきちんと行う姿勢は好ましいとは思った。
「さて話は変わりまして、本メールの表題である「新年イベント」についてですが、「エターナルカイザーオンライン」が実働開始して初めての新年ということもありまして、急なことではありますが、開催させていただくことになりました。
プレイヤーの皆様方もご都合が付かれますのであれば、ぜひ揮ってご参加いただければ幸いと存じます」
(やけに丁寧ですねぇ。さっさと本題を言えと言いたいところですが、まぁ、ビジネスマナーってこんなもんですからねぇ)
正直なことを言うと、まだるっこしいとは思う。
だが、そのまだるっこしい話をするのも大事ではある。この部分を要約すれば、「新年イベントをすることにしました。急な連絡でごめんなさい。でも、参加できる人は参加してくださいね」ってことになる。二行くらいで済む内容だが、要約した内容と実際の表記とではどちらがより丁寧なのかは言うまでもない。
とはいえ、あまりにも丁寧すぎて本題になかなか入らないのも、かえって失礼になりかねないのだが、今回のメールであれば問題のない範囲だろう。
「ビジネスマナーってこういうところが面倒くさいんですよねぇ」としみじみと思いつつも、タマモはメールを読み進めていった。
「今回の新年イベントは題しまして「新年チームトライアスロン」とさせていただきました。その名の通り、チームを組んでの鉄人レースこと三種競技トライアスロンをしていただきます。
ただし、通常のトライアスロン、すなわち水泳、自転車、マラソンのレースではなく。お正月らしい内容のトライアスロンをしていただきます」
「お正月らしい?」
個人ではなくチーム戦かと思ったが、その内容が通常のものとは違い、お正月らしいものとあるが、そのお正月らしいものとはなんだろうか。
(ぱっと思いつくものがあるとすれば、おせち、お年玉、年賀状、羽根つき、福笑い、あと駅伝とかですかねぇ)
駅伝以外は昔ながらの伝統的なもの。そのうち年賀状というもの自体は郵政が成立してから、つまりは近代から始まったものだが、もはや日本では新年の文化になっているので、伝統的なものという括りにしても問題はないだろう。
ただ駅伝はトライアスロンの内容と被っている。通常のトライアスロンはしないとされているのであれば、駅伝は除外としても問題はないだろう。となると、駅伝以外の内容でトライアスロンするということになる。いったいなにをさせられるのだろうか。怖い物見たさでタマモはメールをスクロールした。
ふと顔を上げると、対面側に座っていたレンとヒナギクも同じようにメールを開き、スクロールしているようだ。これなら意思疎通も簡単だなぁと思いつつ、スクロールした文面に改めて目を通してみた。
「新年らしいものと運営チーム内でも協議した結果、今回のトライアスロンの競技内容はお年玉、年賀状、そしてスプリントとさせていただくことになり──」
「「「スプリント?」」」
ちょうど同じ部分を読んでいたようで、タマモたち3人の声は見事に重なった。
お年玉、年賀状まではなんとなくわかる。たしかにそれらはお正月らしい内容だろう。だが、スプリント、つまり短距離走がどうしてお正月らしいことになるのかがいまいち理解できなかった。
「スプリントというよりもマイルの方が正しいと言えるでしょうが、現実とは違い、そこまでの距離ではないので今回はスプリントということに──」
「……これってどういう意味?」
「マイルってなに?」
ヒナギクとレンは文面の意味することが理解できないでいるようだった。が、タマモはなんとなく察することができた。
「……たぶん競馬ですね、これ」
「え?」
「競馬って、あの競馬?」
「ええ。スプリントもマイルもどちらも競馬のレースの距離の区別ですので。そう言えば、新年はじめの方の中山か中京のどっちかの重賞にマイルがありましたねぇ。それと掛けているんでしょうね」
タマモは競馬に関してはあまり興味もなく、関心もないのだが、父の知り合いに馬主がおり、その関係で何度か観戦したことがあったので、なんとなくは知っているのだ。あくまでもなんとなくであり、そこまで詳しくはないが、ヒナギクたちよりかはいくらか知識はあった。
「今年はどちらかの金杯で大勝ちしたいなぁと思う所存です」
メールの続きにははっきりとそんな一文があった。どうやらメール担当者の個人的な願望が含まれているようである。そんなもん、新年の挨拶に書くんじゃねぇと大部分の人は思うだろうが、「ここの運営らしいなぁ」とも思う。失礼なのかそうでないのか、どっちかにしろと言いたい気分に駆られるタマモであった。
「話は戻りますが、今回の新年イベントはお年玉獲得レース、年賀状配布レース、そしてスプリントレースの3つのレースで競っていただくことになります。具体的な内容に関しましては、別件にて詳細をお知らせさせていただきます」
文末にはそう書かれていた。その部分を読み終えると同時にまた新しいメールが届いた。どうやら時間差で届くように設定されていたようである。
「変なところで手が込んでいるなぁ」と思いつつも、タマモたちは新しく送られてきたメールに目を通すのであった。
最後の方、作者の願望入ってね? と問われたら、否定はしないとだけ言わせていただきます。大勝ちしたいよね←ヲイ




