13話 イイ話だなぁでは終るわけがない←
クーに真剣な目で見つめられるタマモ。
しかしどんなに真剣な目で見つめられても、タマモらしくないと言われても現実は変わらない。
タマモの必要経験値が3倍であることは一切変わらない。
「で、でも必要な経験値が3倍は」
「レベル2から3には一日で上がったじゃんか。……大変だったけれど」
必要な経験値が3倍であっても、タマモはレベル3には一日を使って上げることができたのだ。
なら頑張ればこれからも一日でレベルを上げることは可能かもしれない。
レベルが上がれば上がるほどハードルは高くなるだろうが、それでもたどり着けないゴールはない。
どんな形であっても、どんな不格好であってもゴールには必ずたどり着ける。
ほかならぬタマモ自身が実践していたことだった。
「だから3倍であってもタマちゃんなら大丈夫だよ。それに私やレンだって協力するよ。だって仲間だもん」
「そうそう。仲間なんだから、そのくらいの協力は当然だからね」
ヒナギクとレンはタマモに笑いかけた。するとタマモの腹の上にいたクーが「きゅ、きゅ!」と不満げに飛びはねた。
数に入れられていないことを不満に思っているようだった。それはクーだけではなく、他の虫系モンスターたちも同じだったのか、不満げな鳴き声を上げていた。
「私たちだけじゃなく、みんなも協力してくれるって」
「タマちゃんはもうひとりっきりじゃないんだから、俺たち全員も協力するよ」
「きゅ!」
最後にクーが鳴いて締めた。とはいえ、「きゅ!」だけではなにを言っているのかはわからない。
だが、ヒナギクもレンも、そしてタマモもクーがなんて言ったのかはなんとなくだがわかった。
「やれるところまでやってみろ」
クーが言ったのはおそらくそういうことだろう。相変らず外見と中身が合わない芋虫だった。
「それでもダメなら、まぁ、レベルが上がらなくても楽しみようはあると思うよ?」
「他の楽しみを一緒に見つけようぜ」
「きゅ!」
やはり最後にクーが締めてくれたが、もうヒナギクもレンも特に言うことはない。
三人に向かってタマモは前髪を掴みながら笑った。愉快でもなければ、苦笑いというわけでもない。ただ不思議と笑っていた。
タマモの笑い声にヒナギクもレンもそしてクーも気づいたら笑っていた。四人の笑い声はいつまでも続いた。
「……運営にはいろいろと言いたいことがあるのは本当ですけど、でも、これくらいで負けてなんかやらないのですよ」
「じゃあ」
「はい。経験値が3倍必要がなんですか! そんなことにボクは負けないのですよ!」
タマモは起き上がり叫んだ。ただ勢いよく起き上がったせいで、クーが後頭部から地面にぶつかってしまったが。
クーが抗議のように「きゅー!」と鳴く。そんなクーにタマモは慌てて謝った。
そうして謝りながらも自然とタマモは笑顔になっていた。
ヒナギクもレンも笑っている。怒っていたはずのクーもすぐに笑ってくれた。
(仲間ってこんな感じなんですね)
莉亜以外に初めてできた仲間。その仲間のぬくもりをたしかに感じながら、タマモはやれるところまでやってみよう。そう決意を新たにしたのだった──となればよかったのだが、やはり現実はタマモには厳しかった。
「あれ?」
不意にレンが首を傾げた。なんだろうとタマモたちは首を傾げた。
「3倍って通常の妖狐に対してだったよね?」
「そうですね」
「あ」
レンの言葉にヒナギクが気の毒そうな顔を浮かべた。
その表情を見て、レンは自身の考えが正しかったことを知り、そっと顔を反らした。
そんなふたりの反応にタマモはとても嫌な予感を憶えた。
「レンさん、ヒナギクさん? 顔を反らしたり、気の毒そうな顔をしたりするのはどういうことですか?」
「……えっと、ね。妖狐って、あの成長率が大きいって設定なんだけどさ」
「その分、経験値を多く必要とするんだよね」
「……え?」
レンとヒナギクの言葉にタマモの時が止まった。
そんなタマモを尻目にふたりは掲示板を開いた。
そして該当する項目を見つけて、それを見せてくれた。そこには──。
種族 妖狐 最終的な能力は高いが、必要経験値は他の種族の2倍必要となる。
──という無慈悲なるひと言が書かれていた。
「……つまり5倍ですか?」
「いや、その。経験値関係って乗算仕様だから、その」
「2×3=6で6倍になると思う、よ?」
レンとヒナギクは押し殺したような声で呟いた。そしてそれはクーも同じで「……きゅー」と力なく鳴いていた。
仲間たちのそれぞれの反応を確認してから、タマモはゆっくりと空を仰ぎ、そして──。
「てめえらの血の色は何色ですか、運営ぃぃぃぃぃーっ!」
今日何度目かになる絶叫を上げたのだった。
イイハナシダナァでは決して終わらないのが「EKO」運営クオリティ←




