12話 タマモの嘆き
「あ、あの、タマちゃん?」
レンが気を使ったかのように声をかけた。
レンは気の毒そうな目を向けてくれているが、タマモにはもうその視線に気を使う余裕はない。
「ふふふ、どうりでレベルアップが遅いわけですねぇ~、あははは」
「た、タマちゃん?」
「3倍かぁ。あははは、大変だなぁ。あははは、はぁぁぁぁぁぁーっ!?」
タマモは笑っていたが、我慢の限界を越えてついに叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
「なんですか、通常の3倍の経験値が必要となるって!? ここの運営はどこまでド腐れ鬼畜野郎共ばかりなんですかぁぁぁーっ!?」
心の底から叫び、いや、魂からの咆哮をするタマモ。そんなタマモにレンはなにも言えなくなった。
とっさに耳を手で押さえながらもほろりと涙を流してしまった。しかしタマモの怒りは収まらない。
「どうしてボクばっかり意味がわからない難行が襲いかかるんですかぁ! ボクはいつからヘラクレスになったんですぅ!?」
空に向かって叫ぶタマモ。その叫び声は小川の向こう側にある畑にも届いており、近隣のファーマーたちが驚き様子を伺うほどだ。
だが、タマモはもうそんなことはどうでもよかった。
ただ叫ばずにはいられなかった。
「どうしてボクばっかり、大変な目に遭わなきゃいけないんですか! ボクにもまともにゲームをさせてよ!」
それはタマモの本音だった。
荒れ地を耕しているのは、すべてはまともに経験値を得られないからであり、まともに経験値を得られるのであれば、荒れ地を耕すなんてことはしていなかった。
希望が言うような攻略組になれていたかもしれないのだ。
だが運営の悪ふざけのような理不尽すぎる仕打ちのせいでこんなことになっている。
そのうえで必要経験値が3倍である。どこまで人を小馬鹿にすれば気がすむのだろう。タマモは地面に体を投げ出し、そして──。
「バガぁぁぁぁぁぁっ!」
──思いっきり泣いた。いろいろと運営には言いたいことはあった。
だが、言いたいこと以上に涙が出てしまったのだ。
いままで頑張ってきたのに。これからも頑張って行こうと思っていた矢先にこれだ。
泣くなと言う方が難しい。
タマモは子供の頃に戻ったように泣きわめいていく。
夕日が目に染みて、余計に涙が零れていく。
でもどんなに泣いたところで現実が過酷な現実が変わることはないのだ。
そんなことはタマモとてわかっていた。わかっていても涙が出てしまう。
涙が止まらなかった。涙を止めることができなかった。
止められないまま、タマモはただただ泣き続けた。
「タマちゃん」
泣きじゃくるタマモにレンは名前を呼ぶことしかできなかった。
(なんて言えばいいんだよ、これ)
同情するのはたやすい。
しかし同情ではより一層タマモを惨めにするだけだ。
レンはタマモを惨めにするつもりはない。
だが、どう声を掛けていいのかがわからなかった。
わからないまま、泣きじゃくるタマモを見つめていることしかできなかった。
レンの方がタマモよりも年上だったり、レンが親であったりすれば、まだ掛けられる言葉はあっただろうが、まだ十代のレンにはタマモにどう声を掛けていいのかがわからなかった。
「ばが、ばが、ばがぁぁぁぁ!」
何度も「バカ」と空に向かって叫ぶタマモ。
それが誰に対してなのかは考えるまでもない。なんとも言えない心苦しさにレンが感じていた、そのとき。
「きゅ!」
「ぐえ!」
突如ヒュルルルという妙な頭上から聞こえてきた。そう思ったときには、緑色の塊がタマモの腹部にダイブしていた。
カエルが潰れたような声をタマモから上がるのと独特な鳴き声が聞こえてくるのは同時だった。
「きゅ、きゅ、きゅ!」
「な、なにをするんですか、クー!」
そう、タマモの腹部に突貫したのはほかならぬクーだった。
どうして空から落ちてきたのかは振り返ったらわかった。
リトルビートルたちがまるで砲台を思わせるかのように折り重なっていた。
そして別のリトルビートルたちの角には絹糸が何重にも巻かれている。
おそらくスリングショットの要領でクーを上空に飛ばしたのだろう。
そして上空からのボディプレスをタマモにと放った。
そういうことだろう。どうしてそんなことをタマモにしたのか、なんとなくだがレンにはわかった。
「……「タマちゃんらしくないよ」ってクーちゃんは言っているんじゃないかな?」
「え?」
レンが言おうとした言葉をヒナギクが代弁していた。ヒナギクはひらひらと手を振ってから改めてタマモに言った。
「経験値3倍はたしかに大変だよ? でもさ、それでもタマちゃんはレベル3になったじゃない。一生懸命に頑張ってレベル3になったじゃない。そんなタマちゃんの姿をクーちゃんは誰よりも長く見てきたんだよ? だからこそいまのタマちゃんの姿は「らしくない」って思ったんじゃないかな?」
そう、いまのタマモの姿はあまりにも「らしくない」のだ。
「調理」をしないとまともに経験値も得られない。自身のステータスは最低値。そんな理不尽にタマモは抗っていた。
そんなタマモと誰よりも長く接してきたクーだからこそ思うことがあった。
「そんなのタマモらしくないだろう」とそう思ったのだ。
実際クーは「きゅ!」と頷いている。
自分が知るタマモはその程度で諦めるような奴じゃない。そう言うかのようにクーは強い視線でタマモをじっと見つめていた。
嘆く主人公を励ます仲間ってわりと好きな光景です。……内容はダンチですけど←汗




