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42話 裏話その1

 ヒナギクたち「フィオーレ」はアルトの街中を3人揃って歩いていた。


 格好はそれぞれが趣向の異なるサンタ服を身につけていた。ヒナギクはひな壇の上で説明していたときと変わらず、通常のサンタ服──赤いジャケットに赤いスラックスを赤いロングスカートに変更したというポピュラーなものである。


 レンは通常のサンタ服そのものを身に付けているのだが、若干通常とは異なり、背中にはとてもマッシブな体型をし、目元は暗くよどみつつも赤い眼光を携え、肩には「本当にプレゼントなの? もしかしたら死体でも入っているんじゃないの?」と思うようなとても大きな袋を担いだサンタさんが描かれている。……サンタさんというよりも惨駄さんの方が合っているんじゃないかといういかめしい絵柄である。もはや仏像にいそうなレベルの迫力をかもち出すサンタさんだった。


 そしてタマモはと言うと、基本的にはレンのものと同じオーソドックスなサンタ服である。ただし背中にはレン同様にイラストが施されていた。具体的に言えば、レンのサンタさんならぬ惨駄さんと対を成すように、タマモの背中にはトナカイさんが描かれているのだが、そのトナカイさんは「苦理素魔巣上等」と背中に書かれた特攻服を身につけていた。そう特攻服を身につけているのだ。身に付けているのだが、迫力は皆無である。


 なぜならタマモの背中のトナカイさんはとても小さいのだ。いや、幼いと言う方が正しいか。なにせおしゃぶりを口にくわえて「BABOO」と言っている。その状態でいわゆるヤンキー座りしながら、背中を向けているのだ。トナカイさんというよりも、となかいさんという方が正しい。そのとなかいさんは一頭だけではなく、これでもかというように所狭しに描かれている。はっきりと言えば、迫力というよりかは愛らしいと言う方が合っている絵柄である。そんな絵柄のサンタ服を身につけているタマモは遠くを眺めている。もっと言えば死にかけであった。


「……ボクの着る服はなんでこうも嫌がらせの対象になるものばかりなんでしょうかね?」


 タマモはアルトの街を歩きながらぼそりとそう呟いた。その言葉にレンとヒナギクはなにも言わず、そっと視線を逸らすだけである。


「ママー、あの子の服、わたしもほしい!」


「そうねぇ、かわいらしいものねぇ」


「うん、かわいいー。買って買って!」


「あらあら、仕方ないわねぇ。今度服屋さんに行きましょうね」


「わーい!」


 視線を逸らした先には、そんななんとも言えない会話を交わす幼女と母親がいた。幼女は5歳児くらいの活発そうな子である。そんな幼女が指差していたのは他ならぬタマモであった。そして幼女はたしかに言ったのだ。「あの子の服」と。「あのおねえちゃんの服」とは言っていなかった。それが意味することはただひとつである。幼女にとってタマモは自分と年齢が変わらないという風に見えてしまったという悲しき事実である。


「そこはお姉ちゃんと言うべきでしょう!?」


 聞こえてきた声に対してタマモは叫んだ。


 しかしすでに当の幼女と母親は遠くに立ち去っていた。タマモの叫びは空しくこだまするだけであった。


「……まぁまぁ、タマちゃん。そういうこともあるよ」


「そうそう、気にしない方がいいってば」


「ふたりにはボクの気持ちなんてわからないのですよ!」


 くわっと目を見開きながら叫ぶタマモ。なお、上記の通り、現在ふたりがいるのはアルトの街中である。いつもの本拠地である農業ギルドの敷地内ではない。NPCも往来する街のド真ん中である。もっと言えば、大ババ様の宿屋へと向かっている最中である。そのため、魂の叫びを放つタマモははっきりと言えば、異様に目立つわけであるが、誰もあえて気にしない振りをして通り過ぎるのみであった。もしやすれば、例の親子も母親がタマモのコンプレックスを感じ取ったが故にそうそうと立ち去ったのかもしれない。真実は誰にもわからない。

「……まぁ、とりあえず「里」に行こう? 子供たちに配らないといけないもの」


 ヒナギクは繕うように笑いながら、タマモに言い聞かせていく。レンも「そうそう」とやはり繕った笑みを浮かべていた。タマモはじっとりとした、どこか粘っこい視線を投げかけながらも「……まぁ、その通りですけどね」と頷いた。


 3人は「風の妖狐の里」を含めた各妖狐の里を巡ることになっている。まずは「風の妖狐の里」に寄り、それぞれの里へと転移させて貰うという手はずとなっている。あと単純にアンリの誕生日パーティーの会場が大ババ様の家ということもある。プレゼントを配り終えたら、閉会式を行い、その後急いで里に戻ってアンリの誕生日を祝うというのが今日の3人の予定となっていた。タイムテーブル的にはだいぶギリギリの内容であるのだが、アンリのためとなれば、そんなことは言っていられない。ギリギリであろうとなんだろうとやってやる。そう昨日までの3人は思っていたのだ。


 が、ひょんなことにより、そのギリギリだったタイムテーブルにはだいぶ余裕が生じることになったのだ。具体的に言えば、プレイヤー主導のイベントだったのが、急に運営も協力してくれることになったためである。


 その結果、ギリギリだったタイムテーブルに1時間ほどの余裕が生じることになったのだ。「武闘大会」のあとにあった1時間だけの猶予時間が、今回のイベントにも導入されることになったのだ。


 なぜ、そんなことになったのか。


 それは昨日の朝にまで話は遡る。

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