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10話 新しい世界への扉

 あえて言うとすれば、惨劇に挑め、ですね←

「なんでタマちゃん、職業に就いていないのさ!?」


 レンは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。


「なんでって、レンさんはどうやって職業に?」


 タマモはレンが驚いている理由が本当にわからない。そのことは話しているだけでもレンにもわかった。わかったところで納得できるわけではない。


「職業なんてキャラメイクのときに選べたでしょうでしょう!?」


「え? そうなんですか?」


「そうだよ!」


 タマモは驚いていた。しかしレンは頭を抱えた。現状を理解できないのだ。


(なんで、なんで、なんで!? 普通キャラメイクの際に職業欄を選ぶじゃん。選び忘れたら警告画面が出るじゃん!)


 エターナルカイザーオンラインでは、職業はキャラメイクの際に選べる。むしろ選ばないと警告画面が出て、キャラメイクを終了できない。


 実際レンも一度職業を選択し忘れて警告画面が出たのだ。


 だからこそ、タマモが職業に就いていないことがレンには信じられなかった。


「どうやって職業も選ばずにキャラメイクを終えられたんだよ? そっちの方が俺には驚きなんですけど?」


「実はボク、まともなキャラメイクはしていないのですよ」


「は?」


 まともなキャラメイクをしていない。言われた意味をレンは理解できなかった。そもそもまともではないキャラメイクは逆にどんなものなのかと聞きたいくらいである。


「実はこのアバター、一万人目記念ってことで貰えた特別なものなんです」


「特別なアバター?」


(なんだよ、それ。聞いたこともないぞ?)


 レンもタマモほどではないが、掲示板を巡ってはいる。しかしどの掲示板にも記念の特別アバターなんて話はなかった。


 だが、その聞いたことのない存在がいま目の前にいるのだ。


 又聞きであれば信じられないことだが、実際に職業に就いていないのをレンは自身の目で確認しているのだ。信じられないことでも信じるしかない。


「はぁ。信じられないけど、信じるしかないのかなぁ」


「なんか、ごめんなさい」


 タマモは申し訳なさそうな顔をしていた。別にタマモが悪いわけではない。単純にレンが信じられないというだけのことだ。


 だというのにタマモは顔を俯かせていた。いつもぴこぴこと動いていた立ち耳が萎んだように折れているし、三本あるふさふさの尻尾なんて力なく垂れ下がっていた。


(……ぶっちゃけかわいいんですけど)


 思わず萌えそうになったレンである。


 しかしその瞬間、背筋がぞっと震え上がった。覚えのある悪寒だった。


 振り返るとニコニコと笑うヒナギクがいる。


 ヒナギクは現在タマモの代わりに「調理」をしているのだが、なぜか包丁をまな板に叩きつけるようにして振るっている。それもレンをじっと見つめたままでだ。


(……怖いっす、ヒナギクさん)


 ヒナギクがなぜか怒っている。怒っている理由はいまいちわからないが、下手にタマモに萌えない方が身のためになりそうである。


「あー、まぁ、タマちゃんのせいじゃないから気にしないでいいよ」


 打ち震えそうになる心をどうにか抑え込んでレンはタマモの頭を撫でた。


(うっわぁ。なにこれ、すごいフワフワじゃん)


 タマモの頭を撫でたのは所在のなさゆえだった。それ以上でもそれ以下でもなかったはずだった。


 しかし、タマモの頭をなにげなく撫でたレンは衝撃を受けた。


 タマモの髪と立ち耳はとても柔らかかったのだ。それこそいままで触れたことのないほどにだ。


(これヤバイなぁ。もふもふなのが好きな人には堪らなさそう)


 髪の毛や耳に触れているとはとてもではないが思えないほどに柔らかい。


 どこまでも沈められるが、とても柔らかく包み込んでくれる。まるでウール100パーセントの枕のようだ。


「ぅ、レンさん?」


(この手触りもなんだよ? すごくさらさらだし、指を通したら気持ち良さそう)


 髪の毛も耳もとても柔らかいが、それ以上に手触りが異常だ。


 いつまでも手櫛で梳きたくなるような、病みつきになりそうな魅力がある。それこそヒナギクの視線にも気づかなくなるほどにだ。


「れ、レンさん。くすぐったいのですよ」


 タマモはくすぐったさのあまりに少し涙目になった。涙目になってレンを見上げていた。その瞬間、レンの全身には落雷を受けたかのような衝撃が走り抜けた。


 涙目+上目遣いというコンボを至近距離でレンは受けた。


 タマモの見た目は完全にロリータではあるが、美少女であることには変わらない。


 そんな美少女が至近距離でかつ涙目で上目遣いをしているのだ。


 レンはそれまでの人生で味わったことのない衝撃を受けていた。


 開けてはいけない世界への扉がゆっくりと開いていく音をぼんやりとレンは聞いて──。


「レン? なんでタマちゃんをじっと見つめているのかな?」


 ──聞いていたが、不意に背中を叩かれたことで正気に戻った。


 だが、正気に戻るということは、いまのヒナギクと相対するということでもあった。


 レン越しにヒナギクを見ていたタマモは卒倒していた。卒倒するしかなかった。それほどの恐怖をタマモは感じていたのだ。そしてそれはレンとて同じことである。


(やばい。やばい。ヤバいヤバいヤバい! ヒナギクが怒っている!?)


 幼なじみであるからこそわかることだが、現在のヒナギクは先日の暴走を凌駕するほどに苛立っていた。タマモが卒倒のあまり泡を吹いてしまうほどに。


 そんな惨状を背中に感じながらもレンはどうにか回避を試みようとした。惨状に特攻を仕掛けるほど酔狂ではない。ゆえに惨状を回避しようとした。しようとしたのだが──。


「ねぇ? 聞こえているレン?」


 ──すでに遅すぎた。そのことを証明するようにミシっと嫌な音が肩から聞こえてきた。レンは肩の痛みを感じながらも恐る恐ると振り返る。そこには──。


「なんでタマちゃんをじっと見つめていたのか。説明してほしいな?」


 ──まさに「鬼屠女おとめ」としか言いようがないヒナギクが立っていたのだ。そんなヒナギクの姿にレンが悲鳴を上げたのは言うまでもない。


 その後、気を取り戻したタマモが見たのは、畑の隅で「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」と何度も壊れたように呟き続ける、変わり果てたレンの姿だった。

 扉を開きかけても、力技で閉ざされてしまったレンでした。

 もっとも一度開きかけたからこそ、まぁ、うん←しみじみ

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