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30話 今日も朝から元気です。

久しぶりの現実回ですが、藍那さんとまりなさんが止まってくれなかったんやってことで←

「──お嬢様、お嬢様」


 体を揺さぶられていた。


 頭の中に靄が掛かったようだった。


 掛かる靄を掻き分けて、まりもはゆっくりとまぶたを開いた。


 まず見えたのはおつきのメイドである早苗──ではなく、玉森家メイド隊の副長である藍那の顔だった。


 糸のように細く閉ざされた目がまりもを見下ろしていた。


「……あー、おはようございます、藍那さん」


 まりもは上半身を起こしながら、朝の挨拶を口にした。藍那も「おはようございます」と返してくれる。


「今日もお母様と早苗さんはいつものですかぁ?」


 あくびを搔きつつ、お付きのメイドである早苗ではなく、藍那に起こされた理由について思い当たることを尋ねると藍那はふるふると首を振り、ちょちょいとまりもの下を指差した。「んぁ?」とあくびを搔きながら、視線を下げると母であるまりながまりもに抱きつきながら、「すぴー」と寝息を立てながら眠っていた。それもなぜかまりもの寝間着の前を開き、肌着に直接顔を押しつける形でである。


「……なにをしているんですか、お母様は」


 予想だにしていなかった光景に、まりもは一瞬呆気を取られたが、母はまだ起きそうにはないので、今度はまりもが母を揺さぶることにした。


「ん~。まだ86400秒」


「それって24時間じゃないですか」


 5分というのであれば、まだわかる。しかし、86400秒つまりは24時間寝たいというのは、あまりにもダメすぎる発言ではないだろうか。そもそもなぜさらっと秒単位で言うのだろうか、この母はとまりもは思う。当のまりもさらっと86400秒が24時間を秒単位にしたものだということがわかったあたり、あまり人のことは言えないわけなのだが。


「えー、いいじゃないの。まりものつるぺたボディを堪能したいのぉ、お母さんはぁ」


「……反論できないのが悔しいのです」


「お嬢様のお体が魅惑のつるぺたボディなのは事実ですからね。しかし、お嬢様のつるぺたボディを堪能できる権利は、藍那だけのものですから、奥様には早く離れていただかないと、お嬢様の夫としての立場が」


「藍那さんは黙っていやがれなのです。というか、藍那さんにそんな権利をあげた覚えはないのですよ」


「ふぅ、お嬢様は本当に素直ではありませんね。お嬢様の体について、この藍那が知らないことなどなにもないというのに」


 そう言って手をわきわきと動かす藍那。今日も元気に変態であるようだ。元気であることはいいが、変態なのはいい加減にしろとまりもは思うのだが、「お嬢様も人のことは言えないはずですが?」とカウンターを喰らうだけなのは目に見えている。藍那とまりもは趣向は真逆だが、同じ穴の狢であるというなによりもの証拠であった。


「ふぁぁ、まりもと藍那ちゃんは本当に仲良しさんねぇ。お母さん、妬けちゃいそう。でもね、藍那ちゃん。まりもは「おかあさんのおよめさんになるのぉ~」と子供の頃にプロポーズしてくれたの。つまりまりもは私の嫁なのよ!」


 くわっと目を見開きながら言い放つまりな。一見冗談のように見えるが、その実わりとマジで言っているようにも見えるまりなの一言に、まりもは言葉を失った。が、藍那はそんなまりなの言葉を「笑止!」と一言で斬り捨てた。念のために言っておくが、藍那とまりなの関係は雇用される側と雇用する側である。


「子供の頃の戯れ言などノーカンです! そもそもそんなことを言うのであれば、藍那はそれこそお嬢様のおそば付きであった頃、毎日のように言われておりました! 「あいなおねーちゃんは、まりものおよめさんなのー」と!」


 くわわっと目を見開きながら藍那は言い切った。「そんなこと言いましたっけ?」と当のまりもにはまるで身に覚えがない。それはまりなの言ったプロポーズの言葉もまた同じわけなのだが、年上の身内というものは基本的に発言した本人が覚えていないことを、なぜか高確率で覚えているものである。それは藍那とまりなも同じなのだ。むしろ、このふたりの場合、かつてのまりもの発言を録音することまでやりかねない。


 まりもと藍那が同じ穴の狢であるように、まりなと藍那もまた同じ穴の狢だった。


「それにですね、お嬢様は現在別の女性に懸想しているのですよ! つまり奥様はもうお呼びではないということです! お嬢様にとって奥様はもう過去の女ということですよ!」


 トドメとばかりに藍那がとんでもないことを言い放った。母親であるまりなは過去の女という括りには入らないのだが、いまの藍那にそんなことを言っても無駄であることは明らかであるため、あえてまりもはもうなにも言わず、ベッドを降りてクローゼットから今日の服を選び始めた。


「ふ、甘いよ、藍那ちゃん。たしかに私はもうまりもにとっては過去の女になってしまったかもしれない。でもね? 最終的には母親の元に戻ってくるのが子供というものなの! つまりいずれは母親である私の元に戻ってくるという運命なのよ!」


「笑止! それはただの奥様の妄想でしかありません! 具体的なデータでもあるのですか? ないのであれば、それはただの妄想です!」


「データはないよ。でも、れっきとした事実。だって、まりもは大きなお胸が好きな子。大きな胸。それは母性を象徴するもの。言うなれば、母親を求めているということ。そしてまりもの母親は私! なれば、データなど必要ない。まりもが求めているのは私であるというなによりもの証拠なのよ!」

 

「それを妄想と言っているのです! いい加減子離れなさってください、奥様!」


「いーやー! まりもはお母さんのなのー!」


「子供ですか!」


「まりもはお母さんの子供だもーん!


 背後で行われる激しい舌戦を無視して、まりもは着替えを行っていた。今日の召し物はパンツルックで行こうと決めて、普段あまり穿かないデニム生地のパンツとジャケットというまりもよりも幼なじみの莉亜が好きそうな格好をあえて選んでいた。


「今日の朝ご飯はなんでしょうねぇ」


 着替えを行いながら、背後の醜い争いではなく、今日の朝ご飯の内容に想いを寄せるまりもであった。


 その後、藍那との舌戦を終えたまりなから「で、気になる女の子ってどんな子なの?」と根掘り葉掘り聞かれることになったのは言うまでもない。

ふと思ったけども、タマちゃんの周りって変態多くないかな、と。

……人間はみんな変態だから問題ないですね←暴論

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