25話 暴走と提案
アンリの誕生日プレゼントとして、タマモは髪飾りを選んだ。
髪飾りを選ぶまで、アンリの姉貴分であるリィンに協力してもらうことになったが、最終的に選んだのはタマモ自身である。
もっともそれまでに紆余曲折があった。具体的に言えば、タマモは襲撃を受けたのである。モンスターではなく、同じプレイヤーにだ。ただし、PKではない。PKではなく、生産職のとあるプレイヤーの襲撃を受けることになったのだ。その名も「通りすがりの宝石職人」ことアイナにである。
そのときのやりとりを抜粋するのであれば、以下となる。
アイナ(以下加)「あー、やっと。やっと狐ちゃんに出会えたぁぁぁぁぁぁ!」
タマモ(以下被)「も、もしかして、アイ──」
加「あー、もっふもっふもっふやでぇぇぇぇぇ! やっべぇぇぇぇぇぇ!」
被「や、やめてくだs、げふぅぅぅ!」
加「きゃぁぁぁぁぁ、かーいいよぉぉぉぉ、おもちかえりぃぃぃぃしたぁぁぁぁぁい!」
被「う、運営さぁぁぁぁん!」
というやりとりが行われた。
その後、アイナがいわゆる「オシオキルーム」に呼び出されてしまったのは言うまでもないことであろう。
ただ、その際のやりとりもなかなか過激なものであった。はっきりと言えば、アイナが逆ギレしたのだ。
「かわいいものを愛でることのなにが悪い!? かわいいものを愛でるべくして、人類は誕生した! そのかわいいものの最先端を堪能せずして、なにが人類よ! 堪能せずに人類を名乗るなど愚の骨頂! ゆえに私は悪くありません! 悪いのはかわいすぎる狐ちゃんが悪いのです! だから私のお姉ちゃん魂が暴走しても、私に非はない! 非があるとすれば、無意識に私の中のケダモノを呼び起こした狐ちゃんが悪いのです! あぁ、本当にあの子は昔から私のドストライクをピンポイントで攻撃してくるから実に性質が悪いのですよ! いつもいつもいつもいつも! 私はあの子に! 精神的な攻撃を! 受けているのです! そう、リアルに食べてしまいたいという衝動と私は常に血みどろの殴り合いをですねぇ!(以下省略)」
アイナの暴走理論を運営は「オシオキルーム」内で延々と聞かされることになった。本来であれば、完全に垢BAN案件ではあるのだが、話の内容からアイナとタマモが実の家族同然の仲であることは理解できたため、「自重してくださいね?」という言葉とともに釈放することになったのだった。もっと言えば、「この人面倒くせぇ」という感情から放り出したののだ。……コンプライアンス的に大問題ではあるが、運営もやはり人間である。大暴走する輩同然の相手などしたくなかったのだ。
もっともそのとき、「オシオキルーム」内には、某GMもいて「わかりますよ、その気持ち! あの子、なんであんなに食べちゃいたいくらいにかわいいんですかね!?」とアイナの意見と完全に同意してしまったという裏事情もあったのだが。
その後、某GMとアイナのふたりで話が盛り上がりすぎてしまったため、担当者が「もうやだ、おうち帰る」状態になり、アイナは釈放されるという形になったのだ。その間、ゲーム内時間ではわずか数秒のことであるが、「オシオキルーム」内では数時間も経っていた。つまり、暴走する輩どもの話し合いを担当者は延々と数時間も聞かされていたということになる。若干幼児帰りするのも無理もないことだった。
とにかく、そうしてアイナは無事(?)にゲーム復帰することとなった。そうして現在──。
「──ふぅ、まさか、こんなところで性犯罪者と出会うことになるとは思わなかったのですよ」
「性犯罪者なんて、そんなひどい。私はただ狐ちゃんを食べちゃいたいくらいにかわいがっているだけなのに」
「それが性犯罪者だと言っているのですよ!」
アイナの言葉にタマモは噛みつくように言った。
しかし、タマモの言葉にアイナはどこ吹く風である。「狐ちゃんの恥ずかしがり屋さん」とニコニコと笑うだけである。ちなみにだが、アイナの容姿はメイド服ではなく、マント装備の魔女服という出で立ち以外は、現実の藍那とほぼ同じである。……若干胸が盛られているのはご愛嬌だろう。
そんなアイナを前にしてタマモはいつものように憤慨している。だが、そのやりとりは見ようによってはお互いに楽しんでいるようにも見えなくはない。タマモは完全に否定するだろうが、端から見れば「仲がいいなぁ」という風にしか見えないのだ。
「……タマモさんはその方と仲がいいですね」
実際リィンはそう言って笑っている。若干距離を置いているうえに、頬がひきつっているのだが、笑っていることには変わりないのだ。そう、引き気味ではあるが、ふたりの仲がいいことをリィンは感じ取っていた。完全に引いていても、仲がいいなとは思っていることはたしかなのだ。そんなリィンの一言にアイナは「わかります?」とニコニコと笑いながら言った。リィンは「あ、はい。わかり、ますよ?」と言った。やはり若干距離が空いているのだが、致し方のないことであろう。
「さて。狐ちゃん、ではなく、タマモちゃん。お選びの髪飾りはこれでよろしいので?」
アイナは佇まいを直して、タマモが選んだ髪飾りを指差した。タマモが選んだ髪飾りはアイナが作ったアクセサリーであった。というのもいまタマモたちがいるのはアイナの露天であった。その露天前でアイナが大暴走したわけだが、すでにアイナは商人兼職人の顔になっていた。その切り替えの速さにリィンは絶句していたが、タマモはいつものことだというかのように「ええ」と頷いた。そんなタマモの反応にリィンは「えぇ?」と同音異句を口にしたが、そんなリィンをまるっと無視してアイナとタマモのやりとりは続いた。
「相手はきれいな緑色の髪の子なのです。だから、その髪飾りは合うと思うのですよ」
タマモが選んだ髪飾りには葉っぱの形をした中央に黄色の宝石があしらわれたものである。葉はアンリの髪に合うし、黄色の宝石もまたアンリの髪に映えそうだと思ったのだ。
「ふむ。たしかに色合いを考えればいいかもしれませんね。でも、どうせならですよ?」
「はい?」
「どうせなら、手作りをしてみませんか、タマモちゃん」
アイナは笑いながら、タマモにそう問いかけたのだった。
アイナさん、大暴走の話でした……ちゃうんよ、アイナさんが言うことを聞いてくれんのよ←汗




