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24話 プレゼント

「ん~、どうしましょうかねぇ~」


 所変わって、アルトの街中。タマモはひとりアルトの街中を散策していた。


 本拠地がアルトにあるため、タマモがアルトの街を散策するのはいつものことである。いつもの農作業はすでに終了していた。アンリが「フィオーレ」のメンバーになったことで農作業の効率は劇的に変わった。


 アンリはあくまでも兄のアントンの補佐という程度だったが、それでも農業歴は100年近くのベテラン中のベテランである。そのベテランが参加すれば、作業速度が圧倒的に変わるのもある意味当然であった。


 具体的に言えば、タマモたちがログインしたときには、収穫はすでに終わっており、種や株の植え付けは半ばまで済んでいるほどである。


 今日の作業もアンリがすでにほとんどを終わらせてしまっていた。ただ、当のアンリはどこか心ここにあらずという感じで、どこかぼんやりとしていた。


 その理由がなんなのかまではまだわからない。だが、もしタマモの予想通りであれば、最高の誕生日にしてあげたいなとは思った。


 そのためにはパーティーの料理とプレゼントである。


 それもクリスマスを意識した上でなので、少し難易度は高いのだが、文句ひとつ言わずにタマモたちを支え続けてくれるアンリのためだ。どんなに難しくても諦めるという言葉は存在しえない。


 とはいえ、いざやろうと決めたとしても、なにから手をつければいいのかはさっぱりであった。


 とりあえず、料理に関しては「フィオーレ」1の料理人であるヒナギクとその補佐ということにしたレンに任せてある。タマモはアンリに渡すプレゼントを担当することになった。


 そのプレゼントをなににするかで現在タマモはアルトの街中を練り歩いていた。


「どうしたものでしょうかねぇ」


 街中を練り歩くものの、これといったものがない。


 まったくないというわけではない。


 たとえば、アンリの髪や尻尾の色に映えるアースカラーやダークカラーなアクセサリーなど。指輪、ペンダント、イヤリングなど。どれもそれなりに高値ではあるが、タマモの資産的には問題なく購入できる。


 だが、なんとなく「これじゃない」とタマモには思えた。


「色合いはいいのです。でも、問題は形状というか、うーん」


 そう色合いはいいのだ。黒みがかったアンリの髪や尻尾に映える色ではあるのだ。しかし、どうにもアクセサリーの種類が違う気がしてならない。


「アンリさんの服装から考えると、ペンダントというよりかはネックレスの方がいいかもですねぇ。……いや、なにか違うのです。これじゃないのです」


 ペンダントとネックレスも首に掛けるものではある。が、正確にはやや異なる。ネックレスはチェーンなどに装飾が一体化したもの、ペンダントはいわゆるペンダント・トップをメインに装飾が施されたもののことを差す。アンリは服装が巫女服なため、ペンダントというよりかはネックレスの方が合っているとは思うのだ。


 しかし、ネックレスを身につけたアンリを想像してみても、どうにも像がぼやけてしまうのだ。むしろ、「これじゃない」感が起きてしまう。


 かといって、イヤリングは論外である。アンリの柔らかな立ち耳に穴を空けるなど、アンリ自身が許したとしてもタマモが許す気はない。そもそもアンリの体を傷つけるなど、言語道断である。たとえ、それが装飾のためのものであったとしても、タマモには我慢ならないことであった。


 そして指輪ではあるが、指輪は即座に却下した。指輪はアンリの巫女服にも確実に合うだろうし、白磁のようなアンリの白い指に映えそうな指輪はいくらでもあった。しかし、指輪となるとまず間違いなく、アンリが暴走することになる。左手の薬指を差しだされかねない未来がありありと想像できてしまったのだ。


 よってアクセサリーだとネックレスないしペンダントということになったのだが、どうにもアンリと合わない気がしてならないのだ。


「……アンリさんはもっと、こう素朴な感じのものが。でも、ネックレスだって素朴という感じもするでしょうし。だけど、なにかが違うのです。こう、合っていないというか、なにかが違うのです」


 むぅ~と唸りながらアルトの街中を練り歩くタマモ。その姿を見て、一部のプレイヤーたちは若干騒いでいるが、アンリのことで頭がいっぱいになっているタマモがそのことに気づくことはなかった。


 そうして視線を集めながらもアルトの街中を「あーでもない、こうでもない」と悩みながら、タマモは一時間ほどさまよっていたが、やはり答えは出なかった。


「……どうしたものですかねぇ」


「なにがですか?」


「アンリさんのプレゼントにいいものをですねぇ~って」


 ため息を漏らしながら、つい弱音を吐くと、声を掛けられた。タマモは何気なく返事をしたが、ふと誰と話をしているのだろうと顔を上げると、そこには人間に擬態しているアンリの姉貴分であるリィンがいた。リィンはいつもの秘書っぽい格好で首を傾げている。


「……リィンさん?」


「こんにちは、タマモさん。ところでアンリのプレゼントとはいったいどういうことで?」


「えっと、アンリさんの誕生日プレゼントを」


「あぁ、そういえば、そろそろでしたね。というか、よく聞き出せましたね? あの子、引っ込み思案だからなかなか言わなかったでしょうに」


「あー、それはアントンさんが」


「あぁ、アントンさんですか。なるほど。それであの子の誕生日プレゼントですか」


「ええ。いいものがないかなぁと思っていたんですが」


「……見つからなくてさまよい歩いていた、と?」


「その通りです」


「なるほど」


 リィンは深々と頷いていた。その姿を見て、リィンに相談するのはありじゃないかと思うタマモ。タマモよりもはるかに長くアンリと付き合いがあるリィンであれば、アンリに渡すプレゼントの相談をするのはこれ以上とない相手と言えるのではないかと思ったのだ。そのままのことを伝えると、リィンは「あぁ、構いませんよ」と二つ返事で頷いてくれた。


「かわいい妹分のプレゼントですからね。協力するのは当然でしょう」


「ありがとうございます!」


「それで、タマモさんはどんなプレゼントを考えていたので?」


「ネックレスと思っていましたけど、な~んか、違うんですねよねぇ」


「ふむ。イヤリングは?」


「アンリさんの耳に穴を空けるなんて」


「……なるほど。では、指輪は?」


「……暴走しそうなので」


「あぁ、それはたしかに。では、そうですねぇ。髪飾りはいかがでしょうか?」


「髪飾り、ですか。考えていなかったですね」


 髪飾りもアクセサリーとしてはポピュラーである。が、不思議と頭からすっぽりと抜けて落ちてしまっていた。


 それに髪飾りを身につけたアンリの姿を思い浮かべてみると、像はぼやけることもなく想像できた。


「……ありですね」


「でしょう? それに髪飾りであれば、アンリも喜ぶかもですよ?」


「どうしてですか?」


「アンリのお母さんが好きだったんですよ。よく髪飾りをしていましたから」


「お母さんが」


「ええ。まぁ、お母さんを思い出すからとあの子自身は髪飾りを一切持っていませんが。ただ、里で髪飾りを見たり、身につけている人を見かけたりすると、いつも目で追っていましたので、憧れはあるんでしょうね」


「そう、だったんですか」


 アンリのことをなんでも知っているというわけではない。


 だが、アンリが髪飾りに対して特別な思いを向けているということは知らなかった。そのことに対して忸怩たるものはあるのだが、いまはそのおかげでアンリのプレゼントが決まったことを喜ぶべきだろう。


「リィンさん。一緒に選んで貰っていいですか?」


「ええ、もちろん」


 にこりとリィンは笑ってくれた。


 その後、タマモはリィンとともにアルトの街中を、アンリの髪飾りを選ぶに練り歩き、「これだ」と思う髪飾りを見つけることができたのだった。

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