15話 問題提示と解決法
「──これでみんなも参加ってことで問題ないよね?」
話し合いも無事に終了し、ヒナギクは満足そうに頷いていた。頷きながらも全員の顔を見回してみたが、全員頷いていた。特にアンリはやる気の満ちた目をしている。そのやる気が向けられる先が誰になるのかは言うまでもないだろう。
しかしそれはヒナギクには関係がないため、ヒナギクはアンリのあからさまな視線とその視線の先にいる人物にはノータッチだった。視線の先にいる人物は「ひどいですよ、ヒナギクさん」と若干恨めしげな声を上げているが、ヒナギクの耳に届かない。
「それじゃ、これで話し合いはひとまず」
話し合いはひとまず終わりだとヒナギクが言いかけたとき、レンが「ちょっといいかな?」と挙手した。「いいけど」とヒナギクはレンを見やる。レンは顎を擦りながら、なにか考えているだった。その思案する姿を見て、アンリとタマモもレンを見やる。「フィオーレ」のメンバーの視線が集まる中、レンは考えていたことを口にした。
「クリスマスプレゼントを贈ることはいいんだけど、具体的にはどうすんの?」
レンはそれまでの空気に冷水を掛けるようなことを口にした。
だが、それは別におかしなことではなかった。むしろ当然のことである。
ヒナギクからの一方的なお願いを受けたことで「フィオーレ」のメンバーは全員クリスマス実行委員として参加することになった。
負けイベント並みに強制的なものではあったが、内容自体は悪くないものである。ささやかではあるが、地域住民への感謝を込めたイベントということになる。たとえ実態は大量の不要品を押しつけるということであったとしても、心は込もっていることはたしかである。……感謝に加えて怨念とNPCへの好感度稼ぎのためという打算も込もりに込もっているが、なんにせよ心が込められていることだけは明らかだ。
ただ問題はある。
レンが口にしたこと、具体的にどうやってプレゼントをNPCに配るのかということが一番の問題であった。
いくらゲームの中とはいえ、いきなり見ず知らずの他人が家に押し寄せてきて、「クリスマスプレゼントです」とぬいぐるみを置いていくというのは、当事者にとってなかなかのホラー展開であろう。
プレゼント自体はかわいらしい動物のぬいぐるみ。それもクリスマスプレゼントだからというのはわかる。それ自体は別に問題ではない。問題なのは、見ず知らずの他人がいきなり家に押しかけてくるということだ。
現実にそんなことをされたら、誰だろうと即通報モノだろう。誰もがサプライズに慣れているわけではない。
たとえ善意からのものであったとしても、事前連絡もなしのいきなりの訪問では通報されても文句は言えない。下手をすれば、塀の中で年越しという可能性も十分にありえる。あくまでもサプライズでのクリスマスプレゼントというのは、サンタさんだからこそ許される行為であるのだ。サンタさんでない者がやっても、ただの変質者としか扱われないのだ。それは現実でもゲーム内でも変わることはない。
「それにさ、プレゼントを贈るとしても相手はどうするのさ? 子供と一口に言っても、ぬいぐるみをプレゼントされて喜ぶ年齢ってかなり限定的だろう? 特に男の子の場合は。女の子だってぬいぐるみがクリスマスプレゼントと言われて、喜ぶのはそれなりに限定されてしまうし」
「そうですね。加えて言えば、プレイヤーの数と限定される子供たちの数が必ずしも同等とは限りません。むしろ、子供たちの方が少ないと考えるべきなのです。まぁ、アオイさんのぬいぐるみを消費することは可能でしょうけど、プレイヤー全体のぬいぐるみまでは難しいと思うのです」
「あと、加工する人材も必要になるかと思われます。ぬいぐるみ自体はかわいらしいですから、ある程度の加工で大丈夫かと思いますけど、量もありますからやはり人手は必要かと思われます」
レン、タマモ、アンリの順でそれぞれに問題点を挙げていく。挙げられていくたびにヒナギクは「むぅ」と唸っていた。三人から言われた内容は、すでにアオイから指摘されていたものではある。
その問題をどう解決するのかを話し合いたかったのだ。それを口にする前にこうして指摘されてしまった。ある意味ではありがたいことである。口にするまでもなく、全員が問題を共通して認識してくれているのだ。ありがたいと言えば、ありがたい。
しかしだ。
共通認識しているがゆえに、浮き彫りになった問題がどれほどのものなのかを正確に把握してしまっているということでもある。
把握しているからこそ、その問題をどう乗り越えたらいいのかがわからないということ。
把握していないのも問題ではあるが、その場合はとにもかくにも突っ走れるのだ。だが、把握していると突っ走るのは難しくなる。「とにかく走れ」と言われて100メートルを走るのと、1000メートル走るとわかっていて、100メートル走を走るように走ることはできないのと同じである。
把握しているからこそできなくなることもある。それが現状のクリスマス実行委員の前に立ちはだかっている問題であった。
「人手に関しては有志を募るしかないですかねぇ。まぁ、生産職の人たちなら手伝ってくれると思うのです」
「問題は子供に関してだなぁ。数と年齢層。それが一番の問題だけど、どうしたものか」
人手の問題は、タマモが言うように生産職に有志を募るしかない。実際そうするしか方法はない。だが、問題は子供に関してだ。人数と年齢層。その問題をどう乗り越えるべきなのか。ヒナギクとタマモ、レンはそれぞれに頭を悩ましていた。
「子供に関しては問題ないかと思われますが?」
三人が頭を悩ませていたとき、不意にアンリが口にした一言に三人は「……え?」と言葉を同じにした。三人の目はアンリに注がれている。アンリは不思議そうに首を傾げるだけである。
「えっと、アンリちゃん。子供に関してはってどういうこと?」
「そのままの意味ですが。だって問題はありませんもの」
「いや、でも、相当の数が」
「そうですね。でも、問題はないとアンリは思いますよ」
「そんなに人数がいるんですか?」
「はい。いますよ」
アンリはあっさりとした口調で言い切った。その言葉にアンリを除く三人は顔を見合わせた。それぞれに信じられないと顔に書いていた。だが、アンリが嘘を吐くとも思えなかった。代表してヒナギクがアンリに尋ねていた。
「いったい、どこにそんな」
「里にです」
「へ?」
「ですから、各妖狐の隠し里です。それぞれの隠し里にいる子供たちで大半を賄えると思われます」
アンリが口にしたのは妖狐の隠し里にいる子供たちに配るということだった。特にアンリの出身地である「風の妖狐の里」であれば、サプライズをしたとしてもタマモがいれば、なんの問題もないだろう。
ある意味盲点ではあるが、同時にこれ以上とない解決策とも言えた。
「……ありですよね」
「そうだね」
「うん、ありだね。でも、隠し里ってたしかタマちゃんみたいに試練を乗り越えないといけないんじゃ?」
「そこは大ババ様に相談すればいいかと。幸いなことにレン様とヒナギク様を大ババ様はご存知ですから、相談すればなんとかなるかと」
「あのばあさんに相談か」
「う~ん、難しそう」
「……ですねぇ」
大ババ様こと「風の妖狐の里」の長に相談する。それはレンとヒナギクだけでなく、タマモにとって気が重いことではある。だが、背に腹は代えられない。
「とりあえず、「アルト」に行こうか?」
ヒナギクの言葉を皮切りに、レンとタマモもまた頷いた。対してアンリは不思議そうに首を傾げるだけである。
とにかく、こうしてクリスマス実行委員である「フィオーレ」のメンバーは、大ババ様への面会のために「アルト」の街にと向かうことになったのだった。
わりと力業、って、力業ばっかりだな←汗




