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14話 結成、クリスマス実行委員

「──というわけで、クリスマス実行委員長になったよ」


「へ、へぇ」


「……どうしてそうなんの?」


「蒼天城」から「フィオーレ」の本拠地にと戻ってきたヒナギクは、まだログインしていたタマモとレンにアッシリアとの再会から始まったクリスマス実行委員長に襲名したことを背説明した。


 説明が終わるとふたりはそれぞれの反応をしていた。タマモは顔を引きつらせながら頷くだけ。レンは頭が痛そうに抑えていた。それぞれに反応を示しているが、その反応の大元は同じである。レンが口にした「どうしたらそうなるの?」ということだ。


 なにせヒナギクはもともと「特別ガチャ」で手に入れた大口マグロに合うものを買いにアルトの街へと向かったのだ。


 それがどうしてクリスマス実行委員長に襲名することと繋がるのかが理解できなかった。


 いや、紆余曲折したことは理解した。その結果で襲名まで持って行ったのだということも理解した。


 だが、どうしたらそうなってしまうのか。いや、どうしてたまたま向かったアルトの街で、物思いに耽るアッシリアと再会してしまうのかが理解できなかった。


 どういう確率を乗り越えたら、アッシリアと再会し、そのまま「蒼天城」なる「蒼天」の本拠地に連れて行かれるのやら。そのあたりがふたりには理解できなかった。その後のクリスマス実行委員長への襲名はどうでもいいのだ。


 まぁ、どう考えてもヒナギクの補佐をさせられることは確定なので、どうでもいいというのはさすがに言いすぎなのかもしれないが、いきなりぶっ飛んだ行動をしたことと比較すると、些事としか言いようがない。


 アオイの暴走に関しては、なんとなく理解できてしまったのでいいのだ。いいとしか言いようがない。いくらなんでも本拠地にあるという玉座の間を埋め尽くすほどのぬいぐるみを手に入れるほどにガチャを回したというのはやりすぎな気もしなくはないが、アオイの趣味趣向を思えば「あぁ」と納得できてしまったのだ。特等のスキルスクロールを「塵紙」と言い切る胆力に関してもまた。


 とはいえ、アオイはいいのだ。そもそもの原因がアオイにあるのだが、そのことよりもPKでもない、一般プレイヤーを自分たちの本拠地に招いたアッシリアの行動が問題なのだ。加えてアッシリアに連れられてPKの本拠地に向かってしまうヒナギクの行動力もまた。


 ただそれらもすべて「ヒナギクだもんなぁ」の一言で片付けられてしまいそうなのがなんとも言えない。


 ヒナギクは「フィオーレ」の中ではわりと良識的な立ち位置にいる。が、唐突に暴走をやらかすことがあるのだ。


 幼なじみであるレンは長年その暴走の害を被ってきたし、タマモ自身結成初期の頃に被害を受けたこともあるので知っているため、今回のことも唐突な暴走の結果として受け止めていた。


 それでも「どうしたらそうなるの?」と思うこと自体は止められなかった。もっと言えば理解の範疇外にあると言ってもいい。


 ただふたりがそう思ってしまうのも無理はない。なにせヒナギクはアッシリアに「蒼天城」に連れて行かれた経緯を詳しく話していないのだ。正確にはアッシリアから口止めされているため、詳細を口にしなかった。口にしたのは「いろいろと話が弾んだら、本拠地に連れて行ってもらったんだ」の一言のみ。


 それでは長年の幼なじみであるレンと言えども、理解することはできないし、レンよりも関わりが遙かに薄いタマモでは理解することなどできるわけもない。


 言うなれば、ふたりに困惑は仕方のないものである。それでもなおヒナギクは気にしていない。それどころか、こうなるのが当たり前のように振る舞っていた。


「というわけで、ふたりとも協力してね?」


 そう言ってにっこりと笑うヒナギク。その背後には形容しがたいナニカがいるようにしかふたりには見えなかった。


「「イエス、マム!」」


 ふたりに残されたのは服従だけだった。いや、服従することだけが選択できたのだ。それ以外はなにも選択肢がなかった。あるわけがなかった。そんな物悲しい光景にクーはほろりと涙を流していた。


「……くりすます、ってなんですか?」


 ただひとり、アンリだけはなんの反応も示していなかったが、その理由は単純にクリスマスという概念を理解していなかっただけだった。「妖狐の里」は隠れ里であることと純和風であることが理由であろう。まぁ、各妖狐の名前は和風とはかけ離れているが、そのことは置いておこう。


「アンリちゃん、クリスマスを知らないんだ? じゃあ教えてあげるね」


「はい、お願いいたします」


「うん、クリスマスというのはね」


 ヒナギクはクリスマスの概略をアンリに伝えていく。その結果、アンリから「くりすますしてみたいです、旦那様」と普段控えめなアンリからの猛プッシュをタマモが受けることになったのは言うまでもない。その理由はヒナギクからの説明で「恋人同士で過ごすこともある」という一言が原因だった。


 もっともヒナギクからの余計な一言があろうとなかろうとタマモがクリスマスに強制参加することは確定されているのだが。


 ただ、強制服従か、若干ノリ気になるか程度の違いではあるが、モチベーションに大きな差が生じることになるのは間違いない。


 この場合、レンだけはモチベーションがわりと低いことになるのだが、それはもう致し方がないことだった。


 とにかく、「フィオーレ」は強制的にだが、ヒナギクが中心であるクリスマス実行委員のメンバーになることが決定した。それは同時にアオイからの依頼に「フィオーレ」全員で参加することが決定することを意味していた。


 各々の気持ちに違いはあれど、行うことは同じ。


 こうして「エターナルカイザーオンライン」における初のクリスマスは、プレイヤー主体のもとに始まることになるのだった。

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