7話 「武闘大会」のお知らせ
ヒナギクの鬼の調理指導の翌日。タマモはいつものようにログインした。
「ん~? お知らせです?」
ログインするとメニュー画面の「お知らせ」の項目に赤字で「New」の表記があった。開いてみると「武闘大会開催のお知らせ」と書かれていた。
「ふむふむ、最初のイベントは「武闘大会」ですかぁ~」
表示された内容を読み進めていくタマモ。
ほぼ斜め読みだが、だいたいの内容はわかった。
大きく分けると、個人とクランの部門のふたつに分かれて、専用フィールドである「闘技場」にて開催されるようだった。
「闘技場」はレンとヒナギクがあのベータテスターたちと「決闘」を行った会場であり、通常フィールドとは別空間になっている。
「闘技場」の中では時間が加速処理されていて、「闘技場」で何日過ごしても、通常フィールドでは数秒も経っていないという処理が行われている。
今回の「武闘大会」もその処理が行われるようで、「闘技場」で一週間かけて試合を行うようだ。
「予選を二回行ったら、次からは本戦。十回勝てば優勝ですかぁ」
予選を含めると十回の試合がある。その十回すべてを勝ち進められれば優勝となる。
個人戦もクラン戦でもそこは変わらない。優勝者にはボーナスポイントを10と賞金10万シルがもらえる。
準優勝はその半分の5ポイントと5万シル。それ以降はベスト16まではポイントと賞金がもらえるようであり、クラン戦の場合はポイントはそれぞれに10もらえるが、賞金はクラン戦だと100万シルになるようだった。
「クラン戦の方が賞金は多いんですね。まぁ、クランで10万シルはちょっと心もとないですもんねぇ」
まだリリースしたばかりの「EKO」ではあるが、攻略最前線のプレイヤーにとってみれば、ひとりで10万シルならともかく、クラン全体で10万シルとなるとはした金だった。
攻略組はすでにすべての方角でふたつ先のエリアにあるそれぞれの街にたどり着いていた。
次の街では大抵の消耗品が5000シルを超えており、10万シルではあっという間に使い切ってしまう。
特に人気なのがEKに属性付与を行えるアタッチメントを生産できる「属性石」というアイテムであり、「属性石」はひとつで数万シルもするため、仮に四人のクラン全員のEKに属性を付与させようとしたら、それだけで10万シルを使いきってしまうため、攻略組にとっては10万シルではすでにはした金となってしまっていた。
「……むぅ。悩ましいですねぇ」
タマモは腕を組んで悩んでいた。初のイベントが「武闘大会」とは考えてもいなかったのである。
いつかはあるだろうとは思っていたが、まさかここで「武闘大会」になるとは考えてもいなかった。
「「武闘大会」なんて出てもボクじゃ瞬殺なのですよ」
ようやくレベルが3になったばかりなうえに、低ステータスなタマモでは「武闘大会」になんて出ても恥をさらすだけである。
だが、初のイベントなのだから参加してみたいとは思う。
参加するにしても個人戦ではなく、クラン戦だけになるだろうが、個人戦でなければ勝ち目はいくらかはあるはずだ。
「……完全におんぶに抱っことなってしまいますよねぇ」
そう、どう考えてもレンとヒナギクに寄生するような形での参加となる。
それで勝ち進んだところで嬉しいわけがない。
そもそも仲間であればお互いに支え合ってこそだろう。
一方的に支えてもらうっては本当の仲間とは言えないとタマモは思っていた。
「まぁ、おふたりに相談ですねぇ」
出たところで初回イベントの記念というくらいだろうから、いまから慌てて準備をする必要もない。
そもそも「武闘大会」は半月後なので、まだ時間はある。
いまから慌てて準備をする必要はない。そうタマモは思いながら、寝転がっていたベッドから起き上がり、農業ギルドの一室を後にした。向かうのはいつも通りのタマモの畑だった。
「おはようございます、タマモさん」
「おはよう、タマモちゃん」
「タマモちゃん、おはようさん」
いつものように農業ギルドの職員やファーマーであるデント、そしてほかのファーマーたちと挨拶を交わしていく。
いまやタマモは完全に農業ギルドにおけるアイドルのような存在と化していた。
だがタマモ自身はそのことには気づいていない。
タマモはこんな見た目の自分がモテるわけがないと考えていたので、職員やファーマーたちがタマモをアイドルのような存在として見ていることを知らないでいた。
仮に知っていたところで、タマモの反応が大きく変わるわけもないのだが。
そうして挨拶を交わしながら、まっすぐにタマモは畑へと向かって行った。
そうして向かった畑にはすでにレンとヒナギクが待っていた。
待っていたのだが、いくらかふたりの様子がおかしい。特にレンの様子がおかしかった。
餌を前に待ちわびた犬のように、見えない尻尾をフルスロットルで振っているようにタマモには見えてしまった。
なにかあったのかなと思いつつ、タマモがふたりに挨拶をしようとするよりも速く──。
「タマちゃん! 待っていたよ!」
なぜかレンが駆け寄ってきていた。しかも笑顔で。
それは先日のヒナギクを彷彿させるような満面の笑顔であった。
嫌な予感がする。タマモは妙な悪寒を感じていた。そしてその悪寒は現実となった。
「「武闘大会」出よう!」
きらきらと目を輝かせながらレンははっきりと言いきってくれたのだった。
「おたまの英雄」において、レンは若干バトルジャンキーっぽくなっています。年齢が若干幼めということもありますが、「ゲームだから」という理由で少しだけヤンチャになっています。




