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5話 突然の再会

「ふんふんふーん」


「アルト」の街中を巡りながら、ヒナギクは「アルト」の街中をひとり歩いていた。


 手に入れたばかりの「獣の指輪」と「魔術師の首飾り」はすでに装備していた。


「獣の指輪」はその名の通り、なにかしらの動物がレリーフとして描かれた銀製の指輪、「魔術師の首飾り」は金のチェーンに複数のラピスラズリを繋いだもので、ちょっと成金っぽい雰囲気のものだ。


 端から見れば、金のチェーンのネックレスと銀の指を身につけた、ややファンシーな服を身につけた女性という出で立ちであるが、ヒナギクとしては現在の「不死鳥(劣)」シリーズを気に入っているため、端からどう思われようと気にも留めていなかった。


「ん~、マグロに合うものってなにがあるかなぁ~?」


 現在「フィオーレ」にはタマモの登山の結果により、ジャポニカ米と日本わさびこと「本ホーラ」を入手している。まだそれらを使ったメニューを屋台のに追加はしていない。というか、まだ屋台を正式開店させていないため、メニュー云々の話はまだまだ先のことである。

 加えて今回手に入れたマグロは1本のみ。「大口マグロ」は現実で言うキハダマグロくらいの大きさだった。それでも十分な大きさはあるが、マグロとジャポニカ米があると言ったら、おそらくは長蛇の列になるはず。


 となると試作や味見になんやかんやで半身は使ったとしたら、振る舞える人数には限りが出てしまう。もっとも現実でも振る舞える人数には限りがあるものだが、せっかく並んで貰ったのに、あとは「キャベベ炒め」で済ますというのは提供する側としては申し訳ない。


 実際に提供するにしても、複数のマグロないしほかの海産物も手に入ってからの方が望ましい。


 となれば、今回の「大口マグロ」は「フィオーレ」内で消費するのがベターだろう。キハダマグロサイズとはいえ、キハダマグロもマグロの中では中型種だ。キハダマグロは成魚になると2メートル近くまで成長するのだが、今回手に入れた「大口マグロ」はまだ成魚というわけではないようで、せいぜい1メートルあるかどうかくらいの大きさだった。それでも40キロくらいはあるのだ。そんなマグロをアンリを入れて4人だけで消費するとなると、当分はマグロ三昧になるのは目に見えていた。


 となれば、だ。


 やはりマグロに合うナニカを見つけねばならない。でないと、いくら美味しくても途中で食い飽きるのは必定である。せっかくのマグロを中途半端で食べるというのは、いくらなんでも冒涜にもほどがあるし、そんなことをするくらいなら申し訳なさを我慢して屋台で提供する方がましである。


 しかしまだきちんとリニューアルするには、いくらか食材が足りない。というか、メニューが少なすぎる。いまのところ作れるメニューがあるとすれば、基本である「キャベベ炒め」、ご飯とキャベベを使った「キャベベチャーハン」、そしてつい先日育て始めたポテテを使った「フライドポテト」くらい。この屋台はいったいどういう方向性なのか?と首を傾げざるをえないメニューしかない。一応は野菜系メニュー中心の屋台と言えなくもないが、フライドポテトを出す時点でヘルシーとは言えないだろう。


「屋台のメニューはどうしたものかなぁ」


 タマモの経験値を入手するためにも、屋台を営業するのは確定ではある。が、どうせなら来店してくれるお客さんには満足して帰って欲しいものである。そのためにはメニューを増やすのは当然としても、屋台の基本的な方向性を決める必要があるだろう。いろんなメニューを出すのはいい。しかしどの屋台にしろ、なにがメインであるのかは自然と決まっているものだ。それは屋台でなくても飲食店では当然のことである。


 中には変わり種のような屋台ないし飲食店もあるが、タマモはそこまで変わり種にさせるつもりはないだろう。


 やはり方向性は決めておくべきだ。そうすればレギュラーメニューも決まる。レギュラーメニューが決まれば、ほかのメニューも追加しやすくなる。そのメニューに海産物を入れることも可能である。


 だが、そのためにはやはりここでマグロに合うなにかを見つけなくてはならない。


「さぁて、なににしようかな? マグロと言えば、お寿司、海鮮丼かな? あとはとろろとか」


 思いつく物を手当たり次第で口にしていく。


 その中で現在の屋台のメニューと近しいものといえば、とろろ、つまりは山芋である。


「山芋かぁ。売っているかなぁ?」


「アルト」の近郊にはタマモが向かった「死の山」こと「霊山ガイスト」がある。ヒナギク自身はまだ行ったことはないのだが、本ホーラが採れる。ほかにも山菜は採れる可能性もある。となれば、山芋もあってもおかしくはなさそうだ。そしてその山芋が「アルト」で販売してもおかしくはないのではないだろうか、と思う。


 もっともその山芋がどこで販売しているのかはさっぱりわからないのだが。


「まぁ、ぶらぶらしていれば、そのうち」


「──どうしたものかしらねぇ」


 巡り歩いていればそのうちに見つかるだろう。そう思っていたら、いきなりため息が聞こえてきた。見れば、目の前にはフードで顔を隠した女性が下を向いて歩いていた。それだけであれば「変な人だなぁ」としか思わなかっただろうが、ヒナギクはその女性を知っていた。

「アッシリアさん?」


「え? あ、ヒナギクさん?」


 そこにいたのは「三空」を中核とした大規模クランである「蒼天」の最高幹部である「明空」ことアッシリアだった。そのアッシリアもヒナギクが目の前にいることを驚いているようだった。


「「どうしてここに?」」


 ヒナギクとアッシリアはお互いを指差しながら同じことを口にした。

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