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4話 他人の不幸は蜜の味

ガチャ結果間違えていた←汗

10連なのに、11連みたくなっていました←汗

なので、クマのぬいぐるみを削らせていただきました。

「ふぅん、そういうことだったんだ?」


「ええ、大変な目に遭いましたよ」


「そうみたいだね」


 各所で波乱を呼び起こす「記念10連ガチャ」はすでに専用のスレッドが立ち、掲示板でもだいぶカオスな状況になっているようだった。


 大抵のプレイヤーは、5等のぬいぐるみで抽選結果が占められているようだが、中には特等のスキルスクロールが複数抽選された運のいいプレイヤーもいるようだ。ただし、どれだけ追いガチャをした結果なのかは、誰も言わないでいる。


 ガチャに使った金額など誰もまともには言わない。むしろ下手に口にすると、精神的なダメージを負いかねない結果になることもある。


 一番いいのは無料で配布されたガチャチケット一枚を無欲で回すことのみ。下手に追いガチャをした場合、傷を深くすることになりかねない。しかしそれがわかっていても追ってしまう。爆死する可能性が高いとわかっていても手を出してしまうもの。それがガチャというものである。


 そんな阿鼻叫喚のるつぼと化した掲示板を眺めつつ、ヒナギクは余裕の表情でお茶を啜っている。時折、人差し指でスクロールを行いつつも、その視線は掲示板と目の前にいるタマモとを行ったり来たりである。


 だが、その視線がある一定の方向へとは決して向かない。その理由は実に単純だった。触らぬ神に祟りなしゆえである。


「どうですか、レン様。この子はとてもかわいらしいですよね?」


「あ、あぁ、うん。すごくかわいいよね」


「そうですよね、そうですよね、そうですよね!」


「う、うん。かわいい、かわいい」


「でも、それも無理もないのです。だってこの子はアンリと旦那様の! ふふふふふふふ」


「……そ、そっか」


「はい!」


 ヒナギクが決して視線を向けない先には、タマモから贈られた金色の毛並みをした狐のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて恍惚な顔をしたアンリとそのアンリの相手をさせられているレンがいた。


 ただ話し相手をさせられているだけであればまだしも、アンリは現在妖狐特有のスキルである「幻術」を用いて、自身を複数体投射して、レンの周囲をちょこまかと行動している。それも本体であるアンリと連動しながらである。


 レンは若干げっそりとした表情でタマモとヒナギクを見つめていた。その目は雄弁に物語っていた。「お願い、助けて!」と。


 しかしヒナギクはもちろん、当事者ともいえるタマモもあえてレンを見ようとしていない。


 タマモはふたりがログインするまで、ずっとアンリの相手をしていたゆえに疲れているため。ヒナギクはアンリのテンションが爆上がりなのを一目で見切り、下手に話しかけると藪を突っつくことにしかなりえないということを理解したため、あえてアンリが抱きしめていたぬいぐるみについて触れなかったのだ。


 だが、レンはアンリが抱いていたぬいぐるみのことを、あろうことかアンリ本人に聞いてしまった。その結果、レンはアンリの餌食になってしまったのである。


「ふふふふふ、この子はアンリが責任を持って立派な狐に育てるのです」


「……そ、そっかぁ。頑張ってね」


「はい。いまは名前を考えていているところなのです。いまひとついいものが思いつきませんが、旦那様とご相談のうえで決めようかと」


「そ、そうだね。うん、いい名前になることを祈ります」


「はい、ありがとうございます」


 輝かんばかりの笑顔を向けるアンリとそんなアンリに辟易としつつも、アンリを下手に傷つけないように当たり障りのない言葉を選んで返事をするレン。タマモは何度も説明しているのだが、アンリは理解していない。いや、理解しているうえであえて妄想の世界にと羽ばたいてしまっているようである。


「……アンリちゃんのは、あれはマジで言っているの?」


「……たぶん、大マジです」


「そっかぁ。大変だねぇ」


「他人事みたいに」


「だって他人事だもん。蚊帳の外が一番面白いよねぇ」


「……ヒナギクさんがひどい」


「やだなぁ、タマちゃん。他人の不幸は蜜の味なんだよ?」


「やっぱりひどいのです」


「それに私は欲しいものはあらかた手に入ったからいいし」


「……それもひどいのです」


「ふふん」


 タマモの批難めいた視線を鼻で笑うヒナギク。他人の不幸は蜜の味というのは古今東西で言われているものである。ゆえにタマモの苦難はヒナギクからしてみれば、楽しい観劇という風に見えていた。


 加えてガチャの結果もそれなりに良好であった。


 さすがに特等のスキルスクロールは出なかったが、1等のアイテムがふたつ、2等のアイテムがふたつ、3等のアイテムもふたつ、残りはすべて5等のぬいぐるみというラインナップだった。


 ちなみにだが、1等のアイテムはレアな装備類、2等のアイテムはレア生産素材、3等はレア生産用アイテム、4等は各種ポーション類となっている。そのうちヒナギクが手に入れたのは、1等がSTRとAGIが増強される「獣の指輪」、INTとMENが増加する「魔術師の首飾り」に、2等は調理素材の「大口マグロ」、農業素材の「オニウマメロンの種」、3等はタマモも手に入れた「調理用高級出刃包丁」に加え、「調理用高級フライパン(ステンレス)」となっている。5等のぬいぐるみは銀色の毛並みの狼のぬいぐるみを筆頭に、猫、ひよこ、ライオンになった。特に銀色の毛並みの狼をヒナギクは気に入っていた。その理由はヒナギク本人も抱き心地が他の物よりもよいうえに、不思議となじんだからである。なじんだ理由はいまいちヒナギク自身もわからないが、まぁいいかと思うことにしていた。


 ちなみに「オニウマメロンの種」はタマモに譲渡してあるが、まだ畑のレベルが足りないのか、植えられないようであるため、当分は死蔵することになるようである。


 それ以外のアイテムも満足できるラインナップのため、これ以上ガチャる理由がヒナギクにはなかった。そもそもゲームのガチャをあまり好きでないため、課金してまでガチャをしたいとは思わないということも理由であるのだが。


 ちなみにレンはすでに課金をしてしまっているのだが、そのことについてはヒナギクは特になにかを言おうとは思っていなかった。ただ「またか」とだけヒナギクが呟いていたわけだが。


「ヒナギクさんは高みの見物でいいですよね」


「実際そうだからねぇ」


「羨ましいのです」


 タマモは心底羨ましそうにヒナギクを見つめているが、当のヒナギクはどこ吹く風。まさに勝者の余裕であった。そんな余裕を見せつつ、ヒナギクは掲示板に目を通していく。


「爆死する人多いねぇ」


「それがガチャなのです」


「ふぅん」


 頷きつつも、理解できないなぁと思うヒナギク。ガチャをしない人間にとって、ガチャで一喜一憂する人間の考えは理解できないものである。


「まぁ、私はこれ以上ガチャはしないから関係ないけれど」


 そう言ってヒナギクは丸太のテーブルから立ち上がり、背伸びをした。


「ちょっと街に行ってくるね。せっかくいい調理素材が手に入ったんだし、付け合わせにいいものを適当に見繕ってくるよ」


「あ、はい。わかりました」


「一緒に行くとは言わないんだね?」


「だって、そろそろ止めないとですし」


「あぁ、そっか」


 タマモが視線を逸らす。その先にいるのがなんなのかは言うまでもない。そろそろレンのメンタルがまずいことになりつつあるので、止めるべきというのは頷けることだった。


「それじゃ、あとはお願いするね、タマちゃん」


「はい、お任せなのです。ヒナギクさん、お気をつけて」


「うん、タマちゃんもね」


「あははは」


 タマモは乾いた笑みを浮かべつつ頷いた。そんなタマモを眺めつつ、ヒナギクはひとり街中へと向けて歩き出した。後ろから聞こえる暴走を始めたアンリとその相手をするレンのやりとりを聞きつつ、「なにかいいものあるかなぁ」と鼻歌交じりに「アルト」の街中にへと向かっていった。

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