表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

425/1006

2話 話を聞いてください!

 レンが「フィオーレ」に復帰して数日後、それは唐突に送られてきた。


「んぁ?」


 最初に気づいたのはタマモだった。


 ちょうどアンリが小川でキャベベを洗っている様をぼんやりと眺めていたときだった。不意にポップアップがあったのだ。そこに表示されたのは「特別ガチャのお知らせ」というものである。


「特別ガチャ?」


 なんのことだろうとタマモはお知らせを開くと、突如空から一枚の金色のチケットがタマモの手に落ちてきた。


「特別ガチャ専用10連チケット?」


 チケットには「特別ガチャ専用10連チケット」と書かれているが、見た目ではなにかしらの記号やらが組み合わされているため、普通には読めない。だが、タマモの目にはその記号の意味が読めていた。その理由はプレイヤーの母国語に自動翻訳されているためである。


「EKO」は国内初のVRMMOだが、プレイヤーすべてが日本人というわけではない。まだ少数派だが、日本人以外のプレイヤーもいるのだ。海外プレイヤー向けに「EKO」内の文字や言葉はそのプレイヤーの母国語で自動翻訳されている。


 その自動翻訳はプレイヤー間の会話でも適用されているのだが、そのことをタマモは知らない。いままで海外プレイヤーとの接触がなかったうえに、その手のことにはわりと疎いためである。よく言えば、そこまできっちりと説明書を読んでいないということもあるわけだが。


 とはいえ、説明書を読まない人というのはタマモだけではない。むしろ困ってから説明書を読むという人が大半だろう。


 加えて翻訳関係はタマモには特に関係がないため、余計にその手の説明を読んでいないのは無理もないことである。


 そのため、「これでこう読むんだなぁ」とタマモはそんなことをぼんやりと考えつつ、お知らせにと目を通した。


「ふむ。そういうことですか」


 お知らせにはプレイヤー数が50万人を突破した記念に限定ガチャを開始するということである。ガチャと言ってもEKを再び手に入れられるわけではなく、ゲーム中に使用できる様々なアイテムが手に入るとされていた。その内容は特等から5等まで分けられていた。特等にはある一定のランクまでのスキルを取得できるスキルスクロール。5等は特別な効果はないが、非常にかわいらしい動物のぬいぐるみであり、非常に幅がありすぎる内容だった。


「……5等のぬいぐるみはいらないですねぇ。でも、5等が一番当たりやすいというのは、まぁ、ガチャ特有ですねぇ」


 ガチャというのは目玉となる最高ランクのものは非常に抽選しづらい。逆に一番下のランクのものは非常に抽選しやすい。ガチャの種別によるが、大抵は一番下のランクは70パーセント、真ん中が25パーセント、一番上は5パーセントくらいだろう。中にはアイテムも含まれているものもあるが、アイテム含みの場合はアイテムの方が当たりやすくなるものだ。


 今回の特別ガチャの場合は、すべてアイテムのため最高ランクであっても「これじゃない」ということはない。俗にいうすり抜けは起こらないのは良心的と言ってもいいだろう。


 だが、すり抜けは起こらなくとも、特等から5等までに別れていることを踏まえると、特等の抽選確率は下手したら1パーセントを下回っている可能性さえある。ちなみに10連一回につき3等以上のアイテムがひとつ確定抽選される。


 まさにリアルラックがものを言う苦行である。


 だが、EKの抽選とは違い、特別ガチャは何度も行えるようだ。10連チケットの再入手は一枚につき1000円の課金か、10万シルとの交換とある。その内容を見て「回収し始めましたねぇ」とタマモが呟いたのは言うまでもない。


「まぁ、ボクはいまのところ欲しいスキルもありませんから、この一枚だけでいいですかねぇ」


 手に降りてきたガチャチケットを早速使うことにしたタマモ。チケットに視線を送ると、「10連ガチャを始めますか?」と表示された。タマモが「YES」を選択すると、これといった演出もなく、抽選結果というタイトルのポップアップが表示された。


 内容は3等のアイテムである「調理用高級出刃包丁」がひとつ、4等のアイテムである「水色のリボン」がふたつ、残りは5等のぬいぐるみというなんともしょっぱい内容になってしまった。


「……まぁ、出刃包丁はありがたいですかねぇ」


 抽選されたアイテムはすべてタマモのインベントリにしまわれていた。動物のぬいぐるみは定番の犬と猫に始まり、クマ、ウサギ、狼などだった。中には狐のぬいぐるみもある。それも金色の狐であるのが、なんとも言えない。


「これはどうしたものですかねぇ」


 ぬいぐるみなど貰ってもなぁとタマモが思いつつ、金色の狐を抱きかかえていると、「そ、それは」と後ろから声が聞こえた。振り返ると洗い終えたキャベベを抱えたアンリが、タマモが抱きかかえる金色の狐のぬいぐるみを見つめていた。それも若干血走った目でである。


「……ほ、欲しいですか?」


「はい!」


 いったいなにがそこまでアンリを駆り立てるのかはわからないが、欲しいというのであれば渡すのもやぶさかではない。むしろアンリが喜ぶならいいかなぁと軽い気持ちでアンリにぬいぐるみを渡した。


「……ありがとうございます、旦那様。この子はアンリがしっかりと育てます」


「……うん?」


「この子はアンリと旦那様の子供として、立派な狐に」


「ちょっと待ってください、それは本物の狐ではなくてですね!?」


「わかっています。でも、アンリが産んでなくても旦那様の子であれば、それはアンリの子であって」


「だから違うのですよぉ!?」


 軽い気持ちでぬいぐるみを渡したことをタマモは後悔した。その後どうにか誤解を解けたが非常に疲れたことになったのは言うまでもない。そうして唐突に始まったのが50万人突破記念特別ガチャだったのである。

ヒナギクメインなのに、タマちゃん受難話でした。まぁ、平和にイチャコラとも言いますが←

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ