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66話 誤解なんです(byレン

まぁ、タイトルからわかる通り、ひどい内容です←

 トロルの店から辞去してすぐに、レンは焦炎王とともに「ベルス」の街を後にした。


 本当はトロルの店の前から転移しようと焦炎王はしていたのだが、「目立つのでやめてください」とトロルに懇願されてしまったためだ。


 焦炎王が言うには「こうでもすれば、おまえの店が少しは有名になるだろう」とのことだったが、トロルは即座に「有名になりますけど、それ悪い意味でですからね!?」と言い返したが、焦炎王はどこ吹く風であったことは言うまでもない。そんな焦炎王に「もうやだこの陛下」と嘆いていたこともまた。


 その嘆きに、レンは「……とりあえず、今回は街の外から移動しましょう」と焦炎王に言った。レンの言葉に焦炎王は「むぅ」と小さく唸ってから、「仕方がない」と頷いてくれた。その姿にトロルがほっと安心したように一息を吐いていたのが印象的だった。


 そうしてトロルの店から、「ベルス」の街の外に出ると焦炎王はそそくさと転移をし、一瞬の浮遊感に包まれるとそこは「ベルス」の街の外ではなく、「アルト」の街の「フィオーレ」の拠点の前だった。


「あ、レン様」


 拠点の前に転移すると、キャベベを抱えた、タマモの押しかけ妻である妖狐のアンリがいた。普段着である巫女服のうえに、割烹着と三角巾を身に付けるという出で立ちでとてもよく似合っていた。


「ただいま、アンリちゃん」


「はい、お帰りなさいませ。旦那様とヒナギク様でしたら、いま裏手でキャベベを洗っておいでですよ?」


「そうか。ありがとう」


「いえ、お気になさらずに」


 アンリは朗らかに笑う。その笑顔はなんとも温かみのあるものだが、タマモに向けるものとは明らかに違う。「当たり前だろうけど」と思いつつ、レンはアンリが抱えるキャベベを見やる。アンリが抱えるキャベベはなかなかの大きさであった。いままでよりも大きく成長しているのが明らかである。


「大きくなったね」


 アンリの腕の中にあるキャベベを見ながらレンは言った。だが、アンリは「……え?」となぜか狼狽し、頬を染めていた。なぜ狼狽するのかはレンには意味がわからなかった。


「えっと?」


「……あの、ですね。い、いくら旦那様のお仲間であっても、そういうことを言われるとちょっと困ると言いますか」


「へ?」


「そ、それにですね。私のよりもヒナギク様の方が大きいかと」


「ヒナギク?」


「だ、だって明らかにヒナギク様の方が大きいですし、形は同じくらいかもですけど」


「……はい?」


 アンリが言う意味がよくわからない。が致命的なほどに話がずれてしまっていることは理解できた。理解できるのだが、結局アンリがなにを言っているのかはさっぱりである。これがタマモであれば、「おまえはなにを言っているんだ?」と言えなくもないのだが、相手はタマモではなく、タマモの嫁(仮)であるアンリだ。


 修行の旅に出るまでは「フィオーレ」に所属していなかったのに、一時帰宅してみたらタマモの嫁という地位を確立していたのだ。レンからしてみたら、「なにがどうなっているの?」というところである。


 が、当のタマモはもちろん、ヒナギクもすでにアンリの存在を認めている。ヒナギクが言うには「タマちゃんにはもったないくらいのいい子だよ」ということ。実際、アンリは絵に描いたような良妻賢母タイプだ。タマモを立てつつも、時折、タマモを諫めてもいた。ヒナギクが言うには、タマモの悪癖を抑えることもできるそうだ。そのことを聞いた瞬間、「マジか」と漏らしたことは言うまでもない。


 なにせタマモの悪癖──女性の胸が好きという、どうしようもない性癖に対しては、レンもヒナギクも匙を投げていた。そのタマモの悪癖をアンリは抑えられるというのだから、レンが耳を疑うのも無理もない。


 どうやって抑えられるのかはわからないが、少なくともタマモの悪癖に対するこれ以上とないカウンター的な存在であることは間違いないようだ。


 加えて、タマモへのたしかな愛情をタマモとのやりとりの中でしっかりと感じられていた。なにせ、タマモを見つけると、黒みがかった尻尾をこれでもかと振っているし、タマモと話しているときは基本的に尻尾は落ち着きなく動き回っているし、しまいには尻尾の形がどうやっているのかはわからないが、ハートマークに見えるように変形していた。本当にどうやっているのかはさっぱりとわからないのだが。


 なによりもタマモを見る目は、心の底からタマモを恋慕しているということがわかるのだ。その目には穏やかでありつつも、どこか激しさがある。だが、その激しさは決してタマモを傷つけるものではない。むしろ、タマモを誰よりも想い、その幸せを願っているように感じられた。そしてその幸せをともに感じ合いたいということもまた。


 ヒナギクが言うには「アオイさんとは比べるまでもなくまとも」ということだった。実際その意見には同意するしかない。


 ただ、その当のアオイと出会ったら血を見そうな気がしてならないのが、なんとも言えないのだが。


 とにかく、アンリはタマモにはもったいないとは思うが、同時にタマモとはお似合いの嫁だともレンには思えるのだが、そのアンリが現在進行形で意味不明なことを言い募っていた。


(ヒナギクの方が大きいってなんのことさ?)


 レンはあくまでもキャベベを見て言ったのだが、アンリはまるで違うことを言っているようなのだが、それがなんなのかはさっぱりである。ただ隣にいる焦炎王は理解しているようで、「まぁ、お年頃じゃしなぁ」とおかしそうに笑っていた。レンとしては笑っていないでどうにかしてくれと言いたいところなのだが、焦炎王が助け船を出そうとしていないのは明らかだった。


 もうどうすればいいのか、レンにはさっぱりと理解できない。


 ただ、誤解は解く必要があるだろう。その誤解の内容がいまいち理解できなくても、だ。


「えっと、アンリちゃん? なにか勘違いを」


「いえ、いいえ! 勘違いではありません! ヒナギク様の方が大きいのは間違いありません! 大きいのに形もいいとかどうなっているのかとアンリも思いますけど、レン様がおっしゃるような勘違いではないことはたしかです!」


「いや、だから」


「アンリも、早く大きくなりたいと思います。でも、旦那様は手伝ってくださらないのです。旦那様が手伝ってくだされば、旦那様のお好みに育てていただけるのに。どうして旦那様はアンリに」


 アンリは涙目になりながら言い募っているが、レンとしては「俺に言われても」としか言いようはない。しかし実際に言ってもアンリの耳には届かない。むしろアンリはすでに自分だけの世界に飛び込んでいる。もはやどうしようもない。


 かといって放っておくこともできないため、レンは立ち呆けするしかなかった。それがレンにとっての悲劇を生んだ。


「……レンさん、アンリさんになにをしているんですか?」


 ぞくりと背筋が震えた。振り返ると、そこにはアンリ同様にキャベベを抱えたタマモがいた。その表情は笑顔だ。そう笑顔なのだ。だが、笑っているのに笑っていないとしか思えなかった。実に怖い。


 だが、それよりも怖い存在がいた。


「うん、とりあえず、お帰りレン。そして散れ、セクハラ野郎」


 タマモの後ろにいるヒナギクだった。やはりふたり同様にキャベベを抱えていたが、抱えていたキャベベをタマモに渡すと、ヒナギクは笑顔のまま、拳を振るってきた。その拳はボッという独特の風切り音を立てていた。その風切り音を耳にしたとき、レンの意識は遠ざかった。


 最後に見たのは残心を終えたヒナギクとタマモに涙ながら詰め寄るアンリ、アンリに詰め寄られて困り顔のタマモ、そして腹を抱えて笑う焦炎王の姿だった。

レンはやっぱり女難の相があるんでしょうね←しみじみ

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