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64話 趣味はそれぞれ

タイトルからしてわかる通りな内容です←

「氷刀セルリアン」と「炎剣クリムゾン」の二振りの受領を終えると、トロルは店の奥から三着の服と軽鎧を抱えて来た。


「さて、今度は防具になるが、性能に問題がある」


 抱えてきた防具を台に置きながらトロルは真っ先にそう言った。


「性能に問題がある、って。どういうことですか?」


「そのままの意味だな。いまレンさんが装備しているものよりも高性能であることは保証するが、いくらかピーキーというか、なんというか」


「はい?」


「まぁ、百聞は一見にしかず、って奴だな」


 そう言って、トロルはレン用と思わしき、ほかの二着よりも大きめな服と軽鎧を差し出した。差し出されたものをレンは迷うことなく「鑑定」した。


 不死鳥の闘衣(偽)ー


 レア度10 

 品質Bー

 防御力15

 耐久値300

 付与スキル 不死鳥の狂騒(劣)


 不死なる鳥王の加護を得たオーバージャケット風の闘衣、のレプリカ。オリジナルに比べると性能はいまひとつだが、オリジナルのものにはない特別なスキルを付与されている。が、鳥王素材が繋ぎにしか使われていないため、効果は本来のレプリカよりも低くなっている。


 不死鳥の狂騒(劣)……死亡判定になると蘇生する。その回数分同戦闘中に累積で全ステータスに補正(小)あり。が、効果が低くなっているため、蘇生回数に限りあり。加えて蘇生するたびに理性を失っていく。


 不死鳥の軽鎧(偽)ー


 レア度10

 品質B-

 防御力35

 耐久値600

 付与スキル 不死鳥の猛攻(劣)


 不死なる鳥王の加護を得た軽鎧、のレプリカ。不死鳥の軽鎧は肩付きの胸当て、腕カバー、膝当ての三点となる。オリジナルに比べると性能はいまひとつだが、オリジナルにはないスキルを付与される。が、鳥王素材が繋ぎにしか使われていないため、効果は本来のレプリカよりも低くなっている・


 不死鳥の猛攻(劣)……蘇生するたびにSTRとINTに補正。蘇生するたびに累積で補正は上昇していく。が、効果が低くなっている影響があるため、限界がある。加えて蘇生するたびに正気を失っていく。


 

 ──「鑑定」のレベルが上がりました。


 

「……すごく、ピーキーですね」


「だろう? 繋ぎに使った素材がやばすぎたみたいでな。クリムゾンホワイトタイガーの素材やクリムゾンリザードの素材の効果がすべて上書きされてなかったことにされてしまったんだ」


 トロルが頭を抱えながらため息を吐いた。だが、ため息を吐きたくなるのも無理もないことである。


 性能はかなり高い。


 そもそもレア度自体がいま装備している「姐さん印」のものよりも高いうえに防御力に至って10倍である。


 だが、「姐さん印」はピーキーなスキルは付与されていないが、目の前の不死鳥シリーズ(劣)に至っては、ピーキーにもほどがあるスキルが付与されていた。効果自体は強力であるのだが、デメリットが明らかにまずい。理性と正気とあるが、どちらも暴走しやすくなってしまうということである。


 ただ、スキル自体はセットであることが前提であるのは間違いではない。闘衣の死亡時蘇生付与が要であり、そこから各ステータスに補正値を付与される。しかも蘇生するたびに累積で効果が上がっていく。


 相対する相手からしてみれば、蘇生するたびに強力になっていく相手と延々と闘わなければならないのだからたまらない。


 ただ本来の効果とは違い、回数制限があり、加えて暴走していくということは救いかもしれないが、それでも「勘弁してくれ」と言いたくなる状況に陥ることは間違いない。レン自身そんな相手との戦闘は勘弁願いたい。が、レン自身がそうなるのだから、話は変わる。しかしピーキーではあることは間違いない。


「見た目はかっこいいのになぁ」


「……そう、か? 大分派手、というか、特殊だぞ、これ」


「そうですか?」


 不死鳥シリーズのスキルはかなりピーキーだが、見た目はレンにとってはかなりのオシャレである。闘衣は白を基調としているのだが、背中に大きな不死鳥がこれでもか、と大きく描かれている。それも不死鳥は極彩色なため、非常に派手である。軽鎧も意匠は同じだが、ところどころに炎を思わせるカラーリングが施されていて、やはり派手だ。ぶっちゃけヤカラ系と疑われても無理もない。


「……あやつの趣味と同じかぁ」


 焦炎王は天を仰ぎながら言った。その際口にした「あやつ」というのが誰のことなのかは、もはや考えるまでもない。具体的に言えば、もともとの素材の効果を駆逐した繋ぎの素材の提供元というところか。


「見た目はカッコいいし、性能もいい。問題はスキルだけど、まぁ、それも許容範囲ですかね」


「ま、まぁ、考えようによるけれど。えっと、本当にこれがカッコいいのか?」


「カッコいいですよ?」


「……そ、そうか」


 レンは不思議そうに首を傾げた。トロルがなぜ念押しに不死鳥シリーズの見た目を「カッコいいのか」と聞くのが理解できないでいるようだ。そんなレンの反応にトロルは絶句する。焦炎王に至ってはもはやなにも言うまいと天を仰ぐだけである。


「とりあえず、三人分の防具の受領をしますね」


「あ、あぁ。でも、本当にいいのか? いろんな意味で」


「ええ、問題ないです。若干スキルに問題はあるけれど、防御力自体は高くなる。なによりもカッコいいから!」


 むふぅと若干興奮気味に鼻を鳴らすレン。そんなレンにトロルはもうなにも言わなかった。焦炎王は若干涙ぐんでいるが、レンの視界には収まっていない。


 それどころか、「タマちゃんたち、喜んでくれるかなぁ」とタマモとヒナギクの分の不死鳥シリーズをインベントリに嬉々としてしまいこむ始末である。不死鳥シリーズを受け取った際のふたりの反応がどういうものになるのかは火を見るよりも明らかだが、そのことにレンは思い至ってさえいなかった。


 そんなレンをトロルも焦炎王も「かわいそうな子を見る目」で見ているのだが、やはりレンがその視線に気づくことはなかった。


 余談になるが、このとき、レンは「オンリーワン」という個性的な見た目の装備をする者に贈られる、全称号でトップクラスのネタ称号を得ていたが、そのことに気づくことはなかった。


 とにかく、こうしてレンは「フィオーレ」の三人分の防具も無事に受け取ることになったのだった。

オンリーワン……個性的な見た目を追求する、他人からの視線なんてなんのその! なアナタに贈られる称号。特殊効果は戦闘中にヘイト集中(小)付与。なお、趣味は人それぞれですが、押し付けはいけませんよ? 取得方法は個性的な装備を入手すること。

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