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60話 卒業の証

「さて、これでそなたは晴れて卒業ということになるのぅ」


 焦炎王の膝の上でしばらく休んだ後、焦炎王はそう切り出した。


 もともと、今回焦炎王と戦ったのは、卒業試験という体であった。途中まではレンもわかっていたが、最後の方は無我夢中で戦っていた。逆に言えば、無我夢中でやらねば、卒業試験を合格はできなかっただろう。


 元の実力に雲泥の差がある。はるかに格上相手と戦うのだから、全力を尽くすだけでもまだ足りない。だというのに、半端な気持ちで戦ったところで結果など見えていただろう。


 ゆえに無我夢中で戦ったのは正解だった。


 ただ、無我夢中であったがゆえに、いくらかやり過ぎてしまったようだ。その証拠に焦炎王の胸元には交差した傷跡が刻み込まれている。ひどく痛々しい痕だった。


「……このくらいのことは気にするな。なぁに、愛弟子から受けた傷とあれば、逆に誇らしいくらいよ」


 傷跡を見つめていると、焦炎王はいくらか嬉しそうに笑った。


 圧倒的な強者とはいえ、女性の肌に傷跡をつけてしまったのだ。罵声を浴びせられるくらいですめば御の字だと思っていた。


 だというのに、焦炎王は怒ってすらいない。むしろ喜んでいる風にも見えるのだ。


 それだけレンの成長を喜んでくれているようだった。


 この人は本当に俺の師匠であってくれているんだな、と感慨を抱くレン。そんなレンに焦炎王は「では、卒業の証でもくれてやるとするかの」と言い出す。


 正直、いままでのやりとりだけでも十分すぎるのだが、焦炎王にとってはそれだけでは不十分だと考えているようだった。


 かといって、「もう大丈夫ですから」と言ってもきっと聞いてはもらえないだろう。焦炎王はそういう人だった。


 ゆえに卒業の証とやらをもらう以外にはない。


(卒業証書みたいなものでもくれるのかな? それともなにか特別なアイテムとか?)


 一般的に思い浮かぶのは卒業証書だが、ゲーム内で貰っても持て余すだけである。だいたい現実でも卒業証書は実家の押し入れで埃をかぶっているようなものだ。ひとつの区切りという形になるものだが、それ以上の価値を抱くのは人それぞれというところか。


「EKO」の運営が卒業証書というものに一定以上の価値を抱いている人なのかもしれないが、ゲーム内で貰ってもインベントリの肥やしになるのが関の山だろう。もっともなにかしらの特別な能力があるアイテムということもありえるので、案外馬鹿にできないものという可能性がないわけではないのが、ここの運営らしいやり方とも言える。


 どの道、判断ができないため、焦炎王の次の一挙手一投足に集中するしかないのが、なんとも困ったものである。


「というわけで、これを授けよう」


 そう言って焦炎王が差し出したのは、一枚の鱗だった。


 だが、その鱗はどう見てもおかしなものである。形状がおかしいのではない。燃えているのだ。正確には燃える炎を纏った鱗だった。


 いったいなんだろうと「鑑定」を使ってみたが──。


「「鑑定」失敗しました」


 ──まさかのファンブルだった。


 それも何度か繰り返してみたが、すべてファンブルになってしまった。


「……いったい、なんなんですか、これ?」


「そうさのぅ。それの正体がわかるようになること。それが卒業後のそなたへの課題かのぅ」


「課題?」


「うむ。卒業したところで、我とそなたが師弟という関係であることは変わらぬ。ゆえにそれは課題として渡そう。いずれそれの正体がわかるようになれ。そのときのそなたがどれほどの存在になっているのか。いまから楽しみじゃな」


 焦炎王は笑っていた。


 だが、その笑みはいつもとは少し違っている。


 どういう風に違うのかは説明できないが、いつもの焦炎王とはなにかが異なっていた。


 どういうことなんだろうと思いつつも、レンはその鱗を受け取った。



「特別クエスト「鱗の正体を探れ」が開始されました。クリア条件は、渡された鱗を完全に「鑑定」し、その正体を焦炎王に伝えることとなります」



 唐突なアナウンスが流れた。ずいぶんと一方的なものだが、ここの運営らしいことである。


「とにかく、これからも精進せよ、我が弟子よ」


 にこやかに笑う焦炎王。その笑顔を眺めつつも、レンはため息交じりに「はい」と答えるのだった。

レンは「なぞのうろこ」を手に入れた!


……さーせん←汗

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