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6話 舌戦の始まり

「す、好きにしていい、ですか?」


 ごくりとタマモは生唾を飲みながら聞き返していた。


 そんなタマモにヒナギクは笑って頷いていた。


 その瞬間、タマモの目はヒナギクの胸元を見つめていた

(好きにしていいということは、ですよ? アレを好きにしていいということですよね?)


 ヒナギクのそれはアオイのものと比べても甲乙つけがたしというくらいに素晴らしいものだ。


 具体的には大きさはアオイには及ばない、というよりも若干小さめレベルであるが、形はとても美しい。


 重力に抗うようなきれいなお椀型は、アオイのそれよりも美しかった。


 つまり形はヒナギクに分配があがる。柔らかさまではわからないが、おそらくはそちらも甲乙つけがたしというところだろう。


 そんなヒナギクのそれを好きにしていい。それもヒナギク自身からの許可が下りたのだ。ということはである。触れてもいいはずだ。むしろ触れずにはいられない。


「どうしたの、タマちゃん? なんだか目が怪しいけれど?」


 はてと首を傾げるヒナギク。タマモの視線には気付いないようだ。


 見た目は大人びているのに中身は少し幼いようだ。


 そういうところもまたタマモにはかわいく見えて仕方がない。そんなヒナギクを穢すのかと思うと、わずかな躊躇いがある。


 しかしそれ以上の暗い快感がタマモの中を駆け巡る。純真なヒナギクをこの手で穢す。


 あまり褒められたことではないが、いままでにない快感としてタマモの中を駆け巡っていく。


「い、いえ。その、まぁ、気にしないでほしいのです」


「そう?」


「ええ。そうなのです」


 頷きながらもタマモの視線はヒナギクの胸をロックしていた。


 知らず知らずのうちに両手の指を開いては閉じるを繰り返していく。


 だが、ヒナギクはなにも言わない。というよりもタマモがなにをしているのかを理解できていないようだった。


(むぅ。この純真さを踏まえると、ヒナギクさんとレンさんが同年代であることは間違いなさそうですね)


 そもそも「好きにしていい」なんて少しは社会経験がある者であれば、決して言わないことだ。


 それをためらいもなく言えたということは、ヒナギクはおそらく社会経験がほとんどないのだろう。おそらくは箱入り娘として育ってきたのかもしれない。


 そして同時にヒナギクがいわゆる「ネカマ」ではないという証拠でもあった。


「ネカマ」だったとしたら、もっとそれらしい言動を取りそうなものだが、いまのやり取りからしてヒナギクは素で言っている。


 加えてヒナギクの体型はかなりバランスがいいものだ。


「ネカマ」という人たちは、基本的に両極端になることが多い。


 つまりは大人の色気を前面に押し出したボンキュボンか幼さの中に隠れた色気を露わにしたツルペタのどちらかが多いのだ。


 いわばその人の趣味を前面に押し出しやすい。


 中にはあえて普段の自分とは真逆のスタイルのアバターを作る女性プレイヤーもいるだろうが、女性アバターを見ても大半は「ネカマ」というのは、MMOではあたり前だ。


 それは「エターナルカイザーオンライン」でも変わることはない。


 しかしヒナギクのアバターは趣味を押し出しているわけでなければ、言動が若干怪しいわけでもない。


 言動からは怪しさなどは欠片も感じないうえに、スタイルは徹底的にバランスを追及しているようだった。


 ボンキュボンでもなければ、ツルペタでもないのだ。


 必ずしも「ネカマ」が両極端になるとは言わない。ヒナギクのアバターのように黄金比を追及しようとするプレイヤーもいるだろう。


 だが、バランスを追及するタイプの場合は、理想を見つけるとそれを惜しめなく露わにしようとしがちだ。


 たとえば肌の露出を多くするとか、性的な視線を向けられるような服装をあえて着るとか。


 普通の感性をしている女性であれば、決して着ないような服を着て街を練り歩いてしまう。そんな痴女がどこにいると誰もが思うことだろう。


 もちろん中にはそういう服をあえて着る女性プレイヤーもいるにはいるだろうが、そういう女性プレイヤーは少数派だろう。


 単にそういうファッションが好きということもあるだろうが、普段は大人しい女性がゲームの中では開放的になってしまうということも少なからずある。


 もっとも少数派の女性プレイヤーたちも言動まではおかしくないので、多少解放的なファッションをしていてえも「ネカマ」だとは思われない。


 それらの観点から踏まえると、ヒナギクは間違いなく女性プレイヤーだろう。


 そしてタマモもまた女性プレイヤーである。


 同性であれば少しくらいモラルの欠けたことをしても問題はないだろう。そう思ったタマモは早速行動に移るべく、ヒナギクにしたいことを言おうとした。


「なぁ、タマちゃん。ヒナギクを見る目が怪しくないかな?」


 だが、行動に移ろうとした瞬間、いつのまにか近寄っていたレンがヒナギクを自身の背中に隠してしまった。


 ヒナギクは状況が呑み込めないのか不思議そうにしている。


 対してレンはニコニコとタマモに向かって笑いかけていた。


 どうやらタマモに言いたいことが山ほどあるようだが、それはタマモとて同じことである。


「なんでヒナギクさんを隠されたんですか、レンさん?」


「タマちゃんがヒナギクを見る目が怪しいから」


「ははは、嫌ですねぇ。ボクは別におかしな目を向けてはいないのですよ? レンさんは少し過剰に反応しすぎですよ?」


「そうかなぁ? タマちゃんってば、うちの幼なじみを変な目で見ていないかなぁ?」


「いえいえ、そんなことはないのですよ? それにたとえ幼なじみであっても、現時点ではまだヒナギクさんは誰のものになったとかは決まっていないはずなのですよ? むしろ幼なじみ程度なら引っ込んでいろというところです」


「……タマちゃんは面白いことを言うよねぇ?」


「まさか。勝利宣言をしたまでのことですよ?」


 レンと一緒に笑い合った。レンの笑顔は非常に迫力のあるものだが、この程度で引いてなるものか。そしてそれはレンも同じようだった。


「……えっと、どういうこと、これ?」


 ただひとりヒナギクだけが状況を理解していなかった。


 しかしタマモとレンは甘酸っぱさなど欠片もないふたりの世界に突入しながらお互いに笑い合っていた。


 こうしてこの日からタマモとレンによるヒナギクを懸けた舌戦は始まったのだった。

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