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第54話 ミカヅチの力・後編

どうにか6月中に更新できました。

今回はレンの持つ「ミカヅチ」の力についてです。

わりとチートですが、まぁ、最終的なのでいいかなと←

それは「アルト」から帰って来てすぐのことだった。


「……そう言えば、レンよ」


「はい?」


「そなた、「雷電」しか使っておらんが、理由があるのかえ?」


焦炎王の力で地底火山に戻ると、そこは玉座から少し離れた場所──フェニックスに50回殺された少し開けた空き地だった。フェニックスが放ったインフェルノエッジの痕跡が、切断された底の見えない断層の生々しい痕跡が刻まれているので間違いはなかった。


その空き地から玉座に向かっている最中、焦炎王はそう切り出したのだ。


だが、言われた意味をいまひとつレンは理解できなかった。


「えっと「雷電」しかとは?」


「そのままの意味じゃが?」


はて、と首を傾げるレンと同じく首を傾げる焦炎王。お互いの言っている意味が理解できずに、ふたりとも頭の上に大きな「?」を浮かべさせていた。


「……もしや、「ミカヅチ」の力は「雷電」だけだと思うておるのか?」


焦炎王は「まさか」と言うかのように、いっそ「信じられない」と言うかのように、驚愕としながらも聞いてきた。


だが、レンにとってみれば、なぜ驚愕とされているのかがわからなかった。


レンが知っている「ミカヅチ」の能力。それは「雷電」という高速移動スキルのこと。


「雷電」は黒い雷を纏うことで、高速で移動できるようになれるというもの。


使い方次第では纏う雷を「ミカヅチ」の刀身に宿しての攻撃も可能となる。


「フィオーレ」結成された日に、タマモが質の悪いベータテスターに絡まれていたときにレンが対峙していた相手に使った黒い雷の一撃は「雷電」を応用したものだった。


さらに発展させられれば、刀身に宿した雷を遠隔攻撃として放つこともできそうだとレン自身は思っていたが、いまのところその目処はついていない。


もしかしたらそのことを言っているのだろうかと思ったが、どうにも違うことを言っているようだったが、そうした場合、思い当たることがなにひとつとてないのだ。


(「ミカヅチ」はほかにも能力があるのか?)


「雷電」はその効果にしては、MP消費がない。攻撃にも流用できるスキルであるのにも関わらず、なんの代償もなく使用できるスキルだった。


そんな「雷電」が使えるだけでも、十分にチートレベルであるのにも関わらず、そのほかにも能力があるとしたら、ぶっ壊れと言っていい。


だが、上から2番目の高レアのEK群のひとつなのだから、それほどに優遇されていたとしてもおかしくはないかもしれないが、タマモのおたまとフライパンという見た目で最高ランクのEKという例もあるのだ。なにかしらの爆弾が隠されていたとしてもおかしくはない。


だが、焦炎王の口振りからして、爆弾というわけではない。爆弾と言えば爆弾かもしれないが、それは産廃という意味合いではなく、その能力こそが「ミカヅチ」の本当の力ということなのかもしれない。


いや、「ミカヅチ」の本当の力であるからこそ、その力のことを知らないレンを焦炎王は信じられないということなのかもしれない。レンはそう判断した。その一方で「雷電」しかと言われたということは、「雷電」は「ミカヅチ」にとって大したことのない力とも言えた。


「……もしかして、「雷電」って大したことないんですか?」


「いや、大したことがないわけではないぞ?「雷電」はなんの代償もなしに行使できる力だ。代償なしに使えるという意味合いにおいて、それほどの力は早々あるまい」


「たしかにそうですけど、でも」


「まぁ、そなたの言うことも理解できる。我が知る「ミカヅチ」の力は、「雷電」さえも霞む」


「「雷電」でさえも」


「そう、霞むのだ。「雷電」自体これ以上とない高速移動を可能とする力である。だが、我の知る力は「雷電」を凌駕する。……あくまでも力を使いこなせれば、の話だが」


焦炎王の口振りは微妙だった。使いこなせれば「雷電」を超える能力。しかし使いこなせなければ、「雷電」を超えることはない。


すべてはプレイヤースキル次第となる、その能力こそが「ミカヅチ」の本当の力。


いったいどんな能力なのか。レンはごくりと喉を鳴らしながら焦炎王に尋ねた。


「「ミカヅチ」の力ってどんなものなんですか?」


「ふむ。「ミカヅチ」の力。それは「瞬撃の剣」というものだ」


「「瞬撃の剣」ですか?」


「うむ。瞬く間に対峙する者に連撃を叩き込むというものだ」


「瞬く間に」


瞬時に連撃を叩き込む。


それはたしかに強力なスキルだったが、「雷電」を超えるかと言われるといまひとつ頷けなかった。


だが、「雷電」と併用すれば、かなり有用なスキルになるはずだ。


「雷電」を纏った状態で「瞬撃の剣」を併用すれば、高速移動しながら瞬時に連撃を放つという、対峙する相手に取っては勘弁してくれと言いたくなるような状況に持っていけるだろう。


ゆえに「瞬撃の剣」は「雷電」と併用してこそだとレンは思った。が、「瞬撃の剣」の能力は思っていた以上のものだったことをこの後レンは知ることになる。


「そう、瞬く間にその者が使えるすべての力を叩き込むのだ」


「すべての力?」


「うむ。簡単に言えば、その者が扱える武器、魔法、格闘術関係なく、すべての攻撃を瞬時に放つことができるようになる」


「……ぇ?」


焦炎王が言い放った内容は、恐るべきものだった。


レンが想像したのは「ミカヅチ」を用いた連撃だった。


だが、焦炎王が口にしたのはそれを凌駕していた。レンが用いるすべての攻撃を瞬時に放つことができる力。それが「ミカヅチ」の力である、と焦炎王は言ったのだ。


それが事実であれば、「雷電」が霞むと言いきれるのも理解できるし、納得さえもできた。


だが、その力はあくまでもプレイヤー次第だ。もっと言えば幅広く武器、魔法、格闘術を扱えればの話だ。


剣一辺倒では、単なる連撃となる。最大限の力を引き出すためには剣一辺倒ではダメだということである。


それは同時に兄であるテンゼンを超えるには、剣一辺倒ではなく、ほかの力も使えと言われているようにレンには思えた。


実際兄の剣才を考えれば、兄と同じ剣だけでは対抗できない。


むしろ剣以外の力もまんべんなく使ってようやく並び立てる。


もっともあくまで並び立てる可能性が出るという程度のことだが、遮二無二剣ばかりを使うのではなく、ほかの力もまんべんなく使うというのは、いままでのレンの発想にはないものだった。


(まるで道はひとつじゃないということを伝えるために、俺は「ミカヅチ」を手にしたみたいだな)


ありえないことではあるが、レンが「ミカヅチ」を手に入れたのはレン自身にひとつの道だけではなく、ほかの道も模索しろという道標になるためと思えた。


現実的に考えたら、ただの偶然なのだろうが、それでもその偶然がまるで必然のようにレンには感じられた。


「それが「ミカヅチ」の力」


「あくまでも育てきればの話だがな。そもそもいまの「ミカヅチ」は、本来の姿ではない」


「本来の姿ではない、というと?」


「我もうまくは言えぬのだが、そなたの持つ「ミカヅチ」は本来の「ミカヅチ」ではない。力を大幅に制限ないし封印されているようだ」


「制限……ぁ」


「どうやらそれには心当たりがあるようじゃな?」


「まぁ、一応ですが」


レンは頷きながら「ミカヅチ」を見やった。「ミカヅチ」だけではないが、「ミカヅチ」を含むEKことエターナルカイザーは、すべてプレイヤーとともに成長していく。


レンのレベルは20台になっているが、「ミカヅチ」自身はまだ第一段階だった。


焦炎王の言う封印というのは、おそらくは「ミカヅチ」が成長することにつれて解除されていくことなのだろう。つまり最終段階に至ったときこそが、本来の「ミカヅチ」の姿ということになる。


現時点での「ミカヅチ」が本来の姿ではないというのも頷けた。


(つまり「瞬撃の剣」を使えるのは最終段階になってからということなのかな?いまの段階では「瞬撃の剣」は使えないということか)


試してはいないが、現時点で「瞬撃の剣」を使用できるとはレンには思えなかった。 むしろ使用できないと考えるのが妥当だろう。


「いまの「ミカヅチ」では「瞬撃の剣」の片鱗くらいかのぅ?」


「片鱗、ですか?」


「うむ。「瞬撃の剣」とは言うが、実態は剣ではない。その姿を次々に変えていくことだ」


「姿を変える?」


「例えばだが、槍を用いれるのであれば、その姿は槍となり、斧を得意とすれば斧となる。その者が扱えるすべての力を、最適な状態で放つことができる。それが「瞬撃の剣」の実態なのだ」


「最適な状態で放つ」


おうむ返しをするようなレンの一言に焦炎王は「あぁ」と頷いた。その言葉を聞きながらレンが思ったのは、「ミカヅチ」の由来となったであろう一柱の神のこと。日本神話における雷神であり、剣神、そして軍神とも謡われる神「建御雷神」だった。


(軍神と謡われた神の名を司るのであれば、さまざまな武器の形に変えられたとしても不思議じゃないか。どっちかというと闘神の方が合っている気もするけど、その辺はなぁなぁで済ませたのかな?)


運営がどういう理由で「ミカヅチ」の力を定めたのかはわからない。


だが、その真の力が圧倒的なものであることは間違いなかった。


だが、いまはまだ使えない。


しかしいつかは使えるようになるだろう。


そのためにはもっと強くならなければならない。


「焦炎王様」


「うん?」


「ご指導ご鞭撻引き続きお願いします」


「あぁ、任された。まずは形態変化がうまく使えるようになることを目指すべきだろうさ」


焦炎王が笑う。その笑顔を眺めつつ、力強く頷いたレンだった。


それから数日間、レンは形態変化ができるように特訓を繰り返し、その結果、今日ようやく焦炎王に一矢報いることができるようになったのだった。


「まだまだではあるが、よくやったぞ、レン」


焦炎王は嬉しそうに笑っている。ようやく認められたと思い、レンはありがとうございますと笑った。


「だが、まだここからだ。引き続き努力をするのだぞ」


「はい!」


「うむ。いい返事だ。では次だ。形態変化をもっとうまく使いこなせるように、新しい武器を使いこなせるようになれ。まずは槍からかのぅ?」


焦炎王はどこからともなく槍を取り出し、レンにと投げ渡した。投げ渡された槍を手にしながら、頑張ろうとレンは改めて思うのだった。

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