第53話 ミカヅチの力・前編
9日ぶりの更新となりました←汗
なかなか安定してくれないです←汗
さて、今回は模擬戦になります。
ちょっと唐突ですが←汗
「フィオーレ」の本拠地から地底火山に戻って数日が経った。
レンはそれ以前と変わることなく、焦炎王とフェニックスという鬼教官にしごかれる毎日を送っていた。
「……いつでもよいぞ」
「はい」
「おいっす!」
焦炎王が鞘を肩に担ぎながら、レンとガルドの前に立っている。焦炎王は構えを取ってさえいない。
だが、構えを取っていなくても焦炎王がはるかに格上であることはレンもガルドも痛いほどに理解している。
ゆえに「いつでもよい」と言われたときから、ふたりは戦闘モードになっていた。レンは最初から高速移動スキルである「雷電」を、ガルドもまた暴走の危険性はあるが、合成獣の姿となることでステータスを大幅に増加させるスキル「獣謳無刃」をそれぞれに使用していた。
それでもなお、目の前にいる焦炎王の足元にも及ばないとレンは思っていた。
だからと言って、俯いたままなんてできない。レンはミカヅチを斜めに構えた。ガルドは歴戦の重斧を高々に掲げている。
焦炎王は変わらずに鞘を肩に担いだまま、動こうとはしていない。
だが、その視線はとても鋭かった。レンとガルドをじっと見つめている。
その視線は格下相手にも決して油断などしないと言っているかのようだった。
実際油断なんてものは焦炎王には皆無と言ってもいい。
(獅子は兎を狩るのにも全力を出す、ってよく言うけど、いまの状況はまさにそれだな)
ミカヅチを構えているだけなのに、レンの頬を汗が滴り落ちていく。合成獣と化したことで表情は読めないが、ガルドもおそらくは肝を冷やしていることだろう。
焦炎王は普段であれば、わりと隙が多く見える。
しかしこと戦闘に関して言えば、焦炎王に隙など見つけることはできない。
むしろその隙を探ろうとすること事態が、こちらから隙を露にすることになる。
そもそもはるかに格上の隙を見いだしたところで、それが本当に隙なのかどうかもわからない。誘うためにわざと隙を露にしているという可能性とてある。
格上の隙を見出だそうとするのは間違いとは言わないが、それ以上にこちらの隙を露にすることにも繋がる。隙を見出すことに集中するのではなく、見出だした隙をどういう風に利用して相手に打ち勝つのか。
隙を見出せば勝利ではないのであれば、見出だした隙という情報をどう利用するのかに意識を向ける。
フェニックスや焦炎王からのしごきを受けて、レンの意識はそういう風に変わっていた。
その点から言って、焦炎王には隙は見出だせない。
それは動き出しても変わらない。
ならばやることはひとつだけ。
「……行きます!」
レンは大きく深呼吸をすると、一気に駆け出した。その後をガルドが追いかけているが、「雷電」を使用しているレンには、「獣謳無刃」状態であってもガルドは追い付けない。
ゆえに一番槍はレンになりやすい。
時折、虚を衝いてガルドが先制することもあるが、あっさりと対応されてしまっているのであまり意味はない。
ただ「悪くはない」というお褒めの言葉を貰ってはいるのだ。
だが、それでも焦炎王にもフェニックスにも通じなかった。
なによりも奇策というのは、よぼと練り込まないかぎりは、大抵失敗という形で終わるだけである。
そのときはたまたまうまく行ったが、2回目は散々な結果に終わった。
もっとも1回目も2回目も通用しなかったという点においては変わらないが、うまく連携を取れたという意味では1回目は十分に成功したと言ってもいい。
だが、連携というのは基本的には回数がものを言う。何度も何度も繰り返して行うことで、錬度が上がっていくもの。
たったの2回行った程度では、十分な結果など得られるわけもない。むしろ2回で成功と失敗が半々であれば、上等な結果だろう。
「……いつも通りの突撃か」
若干呆れ気味な焦炎王だが、それでも手を抜こうとはしていない。まっすぐにレンを見やりながら、その肩に担いだ剣にゆっくりと力を込めていくのが見て取れた。
(いまだ!)
レンはミカヅチの鞘を前方に向けて投げた。焦炎王が「む?」と理解不能というかのように顔をわずかに歪める。そんな焦炎王を視界に納めながら、レンは地面に刺さったミカヅチの鞘を踏み台にして高々と飛び上がり、焦炎王の頭上を取った。
「……それでどうするつもりだ?」
レンに向かって呟く焦炎王。その声を耳にしながらレンはミカヅチを大きく振りかぶる。そこに走り込んできていたガルドの咆哮が重なった。
「2方向からの同時攻撃か」
正面と頭上。2方向からの同時攻撃。攻撃のタイミングは、レンが頭上に飛び上がったことでほぼ同時となる。
もともと身軽さゆえに空中からの強襲が得意なレンと、鈍重だが破壊力に関してはピカ一なガルド。
それぞれに得物となるEKの種類も違ければ、所属しているクランもまた異なる。
そんなふたりが取れる連携は、そう種類は多くなかった。
速度の差を利用した時間差攻撃か2方向からの同時攻撃がせいぜい。それもどちらもできて単発の攻撃を組み合わせられる程度である。
まるで演舞を見ているかのような切れ目のない連続多段攻撃などは、バティを組んだばかりのふたりにできるわけもない。
仮にやろうとしても失敗するのが関の山だ。ゆえにふたりの連携は基本的に同時攻撃が大半だった。
今回の連携はいままで試してきた中でもポピュラーな内容だった。
だが、レンひとりで空に飛び上がるというのは、試行回数的に多くない。大抵はガルドと協力して飛び上がっていた。
だが、今回は鞘を踏み台にして飛び上がっていた。
いままでのレンであれば、鞘と刀での二刀流にすることは多かったが、鞘を最初から捨てるということはなかった。
しかしレンは今回あえて鞘を捨てていた。捨てたうえでガルドと水平と頭上からの同時攻撃を仕掛けた。
焦炎王の動きが若干鈍る。
同時攻撃自体は問題ないが、その前の鞘を捨てた理由がただ単に飛び上がるだけとは思えなかったためである。
だが、焦炎王が思考を巡らすよりも早く、ふたりの攻撃が重なって放たれた。ミカヅチの刀身が振り下ろされ、歴戦の重斧が真横から薙いでくる。
別々の方向から放たれた攻撃に対して焦炎王は、剣を鞘から抜き放ちながら対処した。
すなわちガルドの一撃を抜刀の一撃でもって跳ね返し、その勢いのままレンの攻撃に対処した。
ガルドの巨体が大きく後ずさり、ミカヅチの刀身と焦炎王の剣が鎬を削り合う。
「どうした?もう終りか?」
焦炎王がレンに笑いかけた。レンは右手でミカヅチを握りしめながら「まさか」と答えた。
「ここから違いますから」
にやりと不敵に笑いながら、レンは空いている左手を振るった。なにもないはずの左手でなにをと焦炎王が思ったとき、焦炎王は目を見開いた。なにもなかったレンの左手に、右手で握っているはずのミカヅチが、鎬を削り合っているはずのミカヅチと同じ剣が現れたのだ。
「なに!?」
思いもしなかった光景からか焦炎王の動きがまたひとつ鈍る。そこへとガルドの咆哮が響く。弾かれたように焦炎王が視線を向けるとガルドが再び水平に歴戦の重斧を振るっていた。
迎撃したときとは違い、焦炎王はすでに剣を抜き、レンと鎬を削っている。
しかもそれだけではなく、レンはもう2本に増えたミカヅチで攻撃を仕掛けてきている。
焦炎王が舌打ちし、左手で鞘を握ると先ほどとは逆に上から下へと振り下ろした。レンの左手のミカヅチを跳ねあげ、ガルドの一撃に対処した。
焦炎王の両手は剣と鞘で塞がった。
だが、同時にレンとガルドの動きも止まっていた。あとは地力での勝負となると、焦炎王さえも思った、そのときだった。
「俺たちの勝ちです」
焦炎王の目の前に鞘が突きつけられた。それは雷の紋様を施されたもの──ミカヅチの鞘だった。
「焦炎王様は打つ手なしですよね?」
ぴたりと目の前に鞘を突きつけながらレンは言う。両手が塞がり、レンとガルドの攻撃を剣と鞘で持って受けている焦炎王は現時点では動きようがなかった。
無論時間を掛ければ打開することは可能だが、鞘を突きつけられたという形で決定打は、すでに成されている。
焦炎王側からも決定打を成していれば相討ちとなるが、焦炎王はまだ決定打を成していない。つまり──。
「……そうだな。今回はそなたらの勝ちであろう」
──今回はレンとガルドの勝利ということになる。焦炎王は微笑みながらもそれを認めた。レンとガルドは攻撃をやめて、お互いを見合うと高い音を奏でながらハイタッチをした。その表情はようやく得られた勝利に対する喜びに満ちていた。
「……まさか、ミカヅチの力を完全に使いこなすはなぁ。歳を重ねてみるものだ」
焦炎王が一切の悔しさも見せずに、穏やかに笑いながら言った。
そう、レンとガルドが焦炎王に勝ったのは、焦炎王が言う「ミカヅチの力を完全に使いこなした」ならである。
それはちょうど数日前、「フィオーレ」の本拠地から帰ってきてすぐのことだった。
6月中にもう1話あげられるように頑張ります←汗




